妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?

百谷シカ

文字の大きさ
4 / 13

4 トゥーレの木の上でつかまえられない

しおりを挟む
「まっ、まさか……天使」

「違う」


 ああ、また!
 この口は!

 私は一応ドレスの裾を整えておいて、万が一落ちないように体も支えて、少し深く下を覗き込んだ。ちょうど推定教授の髭もじゃの殿方も立ちあがり、木全体を見あげながら声の主を探しているようだった。


「あ。ああ! 君!」


 ええ、私。


「新しく入ったお嬢さんかい?」


 推定教授は安心したような笑みを浮かべ、眼鏡の位置を調節している。


「ええ、そうです。荷馬車の事故で道が塞がっていて、着くのが遅れてしまって」

「聞いたよ。大変だったね。ここはいい所だろ? きっと気に入るよ」

「そうですね。もう、ここにクッションを運びたいくらい」

「いい考えだ。夏は少し日焼けするかもしれないけどね」

 
 思いのほか、話が弾む。
 髭もじゃの顔と服装から、父より少し年上に見える。

 可愛いおじさん。


「あの、木の下だったら日焼けしませんか?」

「そうでもない。額がヒリヒリしたよ。あ。私は怪しい者じゃないから安心して」


 今更だわ。
 でも、可愛いから許せちゃう感じ。


「恐がっているように見えます?」

「いや、眩しいし葉の影にもなっていて君の顔は見えない」

「それじゃあ、やっぱり天使かもしれませんね」

「ハハッ。新入生は天の使いか。私はアルジャノン・クロフトだ。哲学の授業を受け持っているよ。君のような若いお嬢さんには子守歌にうってつけだろ」

「哲学!?」


 つい大きい声が出てしまった。

 なにそれ……
 すごく楽しそうじゃない!


「寝ませんわ、クロフト教授」

「そういう事にしておこう」

「いいえ。私、この寄宿学校に来るのを楽しみにしていましたの。嘘じゃありませんわ。結婚が流れたので、両親が気晴らしになるだろうって入れてくれたんです」

「へえ! それは……それは、珍しいね!」

「今、疑ったわね」


 枝の上で向きを変えて、膝から下をぶらりと下ろす。


「おお! 大丈夫? 落ちないかい?」

「上った事はありまして? クロフト教授」

「ないよ。そんな事をしたら、女子寮を覗く不届き者になってしまう」

「それはそうだわ。じゃあ、知る事がない教授に教えてさしあげます。この枝はけっこう太くて、幹がしっかりしているから背凭れにもなるし、木の又が深くて乗るにはとても安定しているんです」

「ほう」

「それに、もし落ちても教授が受け止めてくれますわ。そうでしょう?」


 自分のゆらす爪先の先、光る眼鏡と髭もじゃの教授がわずかに困惑の表情を浮かべる。


「いやぁ、どうかな。そうしてあげたいのは山々だけど、私は向いてない気がして」

「でしたら、お手間は取らせませんわ。ちゃんと自分で部屋に帰りますから」


 少し困った様子が楽しくて、つい揶揄ってしまいたくなる。


「でも、どうして女子寮の裏の木を休憩場所にされているんですの?」

「ああ、聞いてないかな。1階に男性教員と警備の部屋があるんだよ。2階と繋がる階段は、鍵のついた扉が上にも下にもあるから安心して。私の部屋がそこだ」


 教授が指をさした。


「あら、では真下のお部屋なんですね」

「そう。頼むから夜10時以降は踊ったりしないで」


 同室のバーサってそういう子なの?
 それは、私も嫌だわ。


「大丈夫です」

「よかった。ところで、首が痛くなってきたよ」

「ああ、ごめんなさい。お邪魔しちゃいましたね。どうぞいつも通りに寛いでください。私もじきに部屋に戻りますから」

「そうかい? 落ちないように、気をつけてくれよ?」

「ええ。教授を潰したりしません。では夕食で」

「ああ、そうか。食堂で紹介すると教務長が言っていたね。じゃあ、また……あぁ」

「ヒラリーです、教授」

「またあとで。ヒラリー」


 私が足を引っ込めたあと、クロフト教授もほぼ真下に腰を下ろしたらしかった。

 静かに物思いに耽る者同士。
 沈黙の扱い方を心得ている。


「……」


 さすがに、もう独り言は洩らさないわね。


「……」


 魅惑の哲学。
 楽しみ。

 葉の天蓋を眺め、期待に頬が緩んだ。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

「今日から妹も一緒に住む」幼馴染と結婚したら彼の妹もついてきた。妹を溺愛して二人の生活はすれ違い離婚へ。

佐藤 美奈
恋愛
「今日から妹のローラも一緒に住むからな」 ミカエルから突然言われてクロエは寝耳に水の話だった。伯爵家令嬢一人娘のクロエは、幼馴染のミカエル男爵家の次男と結婚した。 クロエは二人でいつまでも愛し合って幸福に暮らせると思っていた。だがミカエルの妹ローラの登場で生活が変わっていく。クロエとローラは学園に通っていた時から仲が悪く何かと衝突していた。 住んでいる邸宅はクロエの亡き両親が残してくれたクロエの家で財産。クロエがこの家の主人なのに、入り婿で立場の弱かったミカエルが本性をあらわして、我儘言って好き放題に振舞い始めた。

妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」

佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。 父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。 再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。 そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。

聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日

佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」 「相手はフローラお姉様ですよね?」 「その通りだ」 「わかりました。今までありがとう」 公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。 アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。 三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。 信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった―― 閲覧注意

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。

凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」 リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。 その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。 当然、注目は私達に向く。 ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた── 「私はシファナと共にありたい。」 「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」 (私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。) 妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。 しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。 そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。 それとは逆に、妹は── ※全11話構成です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。

永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~

畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

処理中です...