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3 あ、言っちゃった!
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実のところ、私は寄宿学校に期待していた。
本を読んでいると邪魔してくる妹がいなくて、父と話し込んでいるときに私を嘲笑いながら乱入してくる妹がいなくて、ちょっと考え事をしているときに100羽の鴨のようにがなり立てる妹がいなくて、勉学に勤しむ事を推奨される場所だ。
「最高……」
ところが、荷車の些細な事故で馬車道が塞がっており、到着が遅れてしまった。
昼過ぎに着いた私は、授業中で人気のない寮を帳簿係の婦人とふたりきりで歩き回り、ひとり静かに荷解きをした。紹介は夕食時、食堂でという事に。
同室のバーサ・オールダムは、帳簿係の婦人によるとバロウズ伯爵令嬢との事。
妹のような性格でない事を祈るばかりだ。
「……」
窓を開けた。
私の部屋は少し奥まった位置にあり、窓の外はすぐ裏庭だった。
いい、繁り具合。
幹が太く背の低い木がドン・ドンと生えていて、葉がもっこり生い茂っている。
とても興味深い。
「……乗れそうね」
手を伸ばして葉に触れる。
枝を握って、避けてみる。
「乗れるわ」
私は勇んで髪を縛り、旅行用ドレスをまだ脱いでいなかった事もあって、意気揚々と窓枠によじ登った。目測では落ちても死ぬ高さではないし、枝に移れない距離でもないし、私ひとり乗ったところで折れそうな枝ではない。
興奮した。
まるで、私を誘っているようだった。
俊敏とは言えなくとも悪くない感じで枝に跨った。
そのまま幹の又のところまで、なだらかに滑っていく。
この木がなんであるか、あとで調べなければ。
ちょうどいい幹を背凭れにして、跨いでも座ってもちょうどいい枝の上に座る。
「……」
木の安楽椅子。
私に割り当てられた部屋が、こんな素晴らしい別荘に繋がっているなんて。
「素晴らしい……!」
木の葉の天幕から透ける、優しい昼の光。
ここにクッションを運び、本を持ってきて、ブランケットを膝にかけて、日暮れまで読書したい。
「……休みは、週1だったわね」
晴れて。
お願い。
ぜひ、晴れて!
「神様……」
私は感謝と恍惚を抱き、いつしか昼寝していた。
少し寒い気がして目を覚ますと、人の気配があった。
「?」
この木を好む人物が私以外にもいるらしい。
言うなれば私は新参者。現れた人物こそが、ここの真の愛好家だ。
バランスを取りながら見おろすと、髭もじゃの地味な男性だった。
身形がよく、眼鏡をかけていて、本を数冊、脇に抱えている。
見るからに、この寄宿学校の教授だろう。
彼は太い幹の元、根の間に腰を下ろした。そこがお気に入りの場所という事だ。
教授らしき彼は持っていた本を読むでもなく、それを傍に置いて、呆然と目を宙へ投げ、夢想を始めた。
興味深い。
でも、私が部屋に戻ったりしたら、夢想の邪魔をしてしまう。
「……」
少し寒いけど、まあ、いいか。
夕食に合わせて教授であろう彼も立ち去るだろうし。
「はぁ」
真下から、深い溜息。
夢想しているのではなく、もしかして、苦悩している?
……申し訳ないけど、興味深いわ。
「人は……」
なに?
「なぜ」
ええ、なに?
「人はなぜ老いるのだろうか」
えっ?
そんな事?
「生きてるからでしょう?」
「へぁっ!?」
私は慌てて口を覆った。
しまった。
「なっ、えっ、あっ、誰っ!?」
まあ間違いなく教授と思われる彼は、声を裏返して狼狽している。
初日早々、口答えをしてしまった。
推定教授、区分、一応のところ殿方に対して。
本を読んでいると邪魔してくる妹がいなくて、父と話し込んでいるときに私を嘲笑いながら乱入してくる妹がいなくて、ちょっと考え事をしているときに100羽の鴨のようにがなり立てる妹がいなくて、勉学に勤しむ事を推奨される場所だ。
「最高……」
ところが、荷車の些細な事故で馬車道が塞がっており、到着が遅れてしまった。
昼過ぎに着いた私は、授業中で人気のない寮を帳簿係の婦人とふたりきりで歩き回り、ひとり静かに荷解きをした。紹介は夕食時、食堂でという事に。
同室のバーサ・オールダムは、帳簿係の婦人によるとバロウズ伯爵令嬢との事。
妹のような性格でない事を祈るばかりだ。
「……」
窓を開けた。
私の部屋は少し奥まった位置にあり、窓の外はすぐ裏庭だった。
いい、繁り具合。
幹が太く背の低い木がドン・ドンと生えていて、葉がもっこり生い茂っている。
とても興味深い。
「……乗れそうね」
手を伸ばして葉に触れる。
枝を握って、避けてみる。
「乗れるわ」
私は勇んで髪を縛り、旅行用ドレスをまだ脱いでいなかった事もあって、意気揚々と窓枠によじ登った。目測では落ちても死ぬ高さではないし、枝に移れない距離でもないし、私ひとり乗ったところで折れそうな枝ではない。
興奮した。
まるで、私を誘っているようだった。
俊敏とは言えなくとも悪くない感じで枝に跨った。
そのまま幹の又のところまで、なだらかに滑っていく。
この木がなんであるか、あとで調べなければ。
ちょうどいい幹を背凭れにして、跨いでも座ってもちょうどいい枝の上に座る。
「……」
木の安楽椅子。
私に割り当てられた部屋が、こんな素晴らしい別荘に繋がっているなんて。
「素晴らしい……!」
木の葉の天幕から透ける、優しい昼の光。
ここにクッションを運び、本を持ってきて、ブランケットを膝にかけて、日暮れまで読書したい。
「……休みは、週1だったわね」
晴れて。
お願い。
ぜひ、晴れて!
「神様……」
私は感謝と恍惚を抱き、いつしか昼寝していた。
少し寒い気がして目を覚ますと、人の気配があった。
「?」
この木を好む人物が私以外にもいるらしい。
言うなれば私は新参者。現れた人物こそが、ここの真の愛好家だ。
バランスを取りながら見おろすと、髭もじゃの地味な男性だった。
身形がよく、眼鏡をかけていて、本を数冊、脇に抱えている。
見るからに、この寄宿学校の教授だろう。
彼は太い幹の元、根の間に腰を下ろした。そこがお気に入りの場所という事だ。
教授らしき彼は持っていた本を読むでもなく、それを傍に置いて、呆然と目を宙へ投げ、夢想を始めた。
興味深い。
でも、私が部屋に戻ったりしたら、夢想の邪魔をしてしまう。
「……」
少し寒いけど、まあ、いいか。
夕食に合わせて教授であろう彼も立ち去るだろうし。
「はぁ」
真下から、深い溜息。
夢想しているのではなく、もしかして、苦悩している?
……申し訳ないけど、興味深いわ。
「人は……」
なに?
「なぜ」
ええ、なに?
「人はなぜ老いるのだろうか」
えっ?
そんな事?
「生きてるからでしょう?」
「へぁっ!?」
私は慌てて口を覆った。
しまった。
「なっ、えっ、あっ、誰っ!?」
まあ間違いなく教授と思われる彼は、声を裏返して狼狽している。
初日早々、口答えをしてしまった。
推定教授、区分、一応のところ殿方に対して。
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