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5 バーサ嬢かく語りき
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「やだ、木に登ったの?」
「というか、正確には下ったわ。滑ってね。帰りにあがってきた」
「信じられない。堅物のお嬢様が来るって聞いてたのに、あなた面白い人ね!」
バロウズ伯爵令嬢バーサ・オールダムは、一言で表すなら朗らかな人物だった。
頬にくっきりと刻まれた線から察するに、授業では居眠りしていたに間違いない。
「びっくりしたぁ。扉を開けたら窓から入ってくるあなたがギロッて私を睨むんだもの。笑っちゃったわよ」
「驚かせてごめんなさい。でも、一度はやってみる価値があると思う。いい場所だったわ。次はクッションを持って行くつもり」
「どうするの? 背負う?」
「そうなるでしょうね」
「投げてあげるわよ」
「落とさないかしら」
「私が?」
「あなたも、私も。確率的に考えて私が背負っていくほうが安全だわ」
「わかった。任せるわ。でも喉が乾いたらどうするの?」
私は旅行用ドレスから制服に着替え終え、髪を解いた。
「水筒を持って行くには食堂で許可を得なければいけないし、そこが悩みどころ」
「誤魔化せばいいのよ、そんなの」
「あなた悪い子ね」
「だからこんな奥の部屋に押し込まれてるの」
「でも、いい人そうだわ」
「ありがとう。バーサ・オールダム、バロウズ伯爵令嬢よ」
彼女が授業後の荷物を片付けるのが終わり、やっと握手の時間になった。
私は彼女の手を握り、少し背の高い彼女を見あげた。
「ヒラリー・コンシダイン。カーニー伯爵令嬢です。どうぞよろしく」
「よろしくね」
「あなたダンスはする?」
「え? なんなの、急に」
表情がくるくる変わって、面白い人だ。
「いえ。下の教授が、10時以降は踊らないでくれって困り顔で言うから」
「クロフト教授に会ったの?」
「ええ」
「彼の講義、朝よ?」
「だから、さっき会ったの」
「どこで」
「そこ」
私が窓の外の木の枝を指差すと、彼女も横を向いた。
「嘘でしょ。彼も登ったの?」
「いえ。彼は下にいたの」
「そうよね。ああ、びっくりした」
「登ったら覗きになるって気にしていたわ」
「でしょうね。大問題よ」
どちらともなく手を離す。
バーサが2段ベッドの下、梯子の傍に腰掛けた。
「でもまあ、彼が問題を起こす事はないわね」
「ええ。優しい老紳士って感じ」
「凄い髭よね」
「もうすぐ老紳士ってところね。訂正する」
「でもあの人、悩みが多いみたい。いつもブツブツ言ってるわ」
「哲学者だもの。そういうものよ」
「理解者の登場ね。ねえ、あなた上でいい?」
話題がベッドに移った。
「もちろんよ」
「高い所が好きなの?」
「見晴らしがいいのは好き。でも特別そうってわけでもないわ」
「木に登ったくせに?」
「登ってないってば。そこから滑って下りたのよ。本当に」
「わかってる。揶揄っただけよ」
「なんだ。喧嘩かと思った」
「ああ、あなた口喧嘩が強そう。頭がよさそうな顔してるもの」
「いえ、そうでもない」
「そうなの?」
「妹にいつも負けたわ。よく口が回るの」
「へえ。仲いいの? どんな子?」
バーサが親睦を深めようと聞いてくれたのは表情や声音から伝わってくるし、妹の話を始めてしまったのは私だ。私はざっと説明した。
「あら、バカな子ね。なんて名前?」
「アラベラ」
「アラベラ……が、誰と結婚するの?」
「ルーシャン・バイアット。ユーイン伯爵の御子息よ」
「ふぅん。でもそんなバカふたりとサヨナラできてよかったじゃない」
「そうなのかしら」
「………………」
バーサは梯子に腕を絡め、首を傾けて私を見あげる。
口角をあげて。
待ってるのだ。
私も肩を竦めて、笑顔で答えた。
「ええ、そう。私もそう思ってる」
正直でいる事は、常に正しいとは限らないけれど、それが許される場所であるなら心地いい事この上ない。
でも、私は慌てて腰を屈めバーサに掌を向けた。
弁明や弁解の時、自然とこの形で手が出るものだ。
「ねえ、あなた。私たくさん喋ってしまったけれど、失礼な事は言ってない?」
なんといっても、口答えが原因で婚約を破棄されたような私だ。
相手が悪かったとはいえ、出過ぎた口が招いた結果であるのは事実。
「言ってないわ」
バーサは急に大人びた表情で、ゆっくりと否定した。
「そう?」
「ええ。私は、あなたがハッキリものを言うのはあなたの魅力だと感じたし、お喋りしていてとても楽しい。あなたが来てくれてよかったわ」
「……ありがとう」
「それに、あなたがいちいち否定しなきゃいけないようなバカな話ばかりする人は、ここにはいないわよ」
「ええ」
「なにより教授は全員喜ぶでしょうね。あなた、どの授業も居眠りしないどころか積極的に質問とかしそうだし」
「ええ。楽しみだわ!」
聞くと彼女は私より2つ年上だった。
大人びて見えるわけだ。
私は出会ってすぐ、同室のバーサが好きになった。
友人ができたのだ。
「というか、正確には下ったわ。滑ってね。帰りにあがってきた」
「信じられない。堅物のお嬢様が来るって聞いてたのに、あなた面白い人ね!」
バロウズ伯爵令嬢バーサ・オールダムは、一言で表すなら朗らかな人物だった。
頬にくっきりと刻まれた線から察するに、授業では居眠りしていたに間違いない。
「びっくりしたぁ。扉を開けたら窓から入ってくるあなたがギロッて私を睨むんだもの。笑っちゃったわよ」
「驚かせてごめんなさい。でも、一度はやってみる価値があると思う。いい場所だったわ。次はクッションを持って行くつもり」
「どうするの? 背負う?」
「そうなるでしょうね」
「投げてあげるわよ」
「落とさないかしら」
「私が?」
「あなたも、私も。確率的に考えて私が背負っていくほうが安全だわ」
「わかった。任せるわ。でも喉が乾いたらどうするの?」
私は旅行用ドレスから制服に着替え終え、髪を解いた。
「水筒を持って行くには食堂で許可を得なければいけないし、そこが悩みどころ」
「誤魔化せばいいのよ、そんなの」
「あなた悪い子ね」
「だからこんな奥の部屋に押し込まれてるの」
「でも、いい人そうだわ」
「ありがとう。バーサ・オールダム、バロウズ伯爵令嬢よ」
彼女が授業後の荷物を片付けるのが終わり、やっと握手の時間になった。
私は彼女の手を握り、少し背の高い彼女を見あげた。
「ヒラリー・コンシダイン。カーニー伯爵令嬢です。どうぞよろしく」
「よろしくね」
「あなたダンスはする?」
「え? なんなの、急に」
表情がくるくる変わって、面白い人だ。
「いえ。下の教授が、10時以降は踊らないでくれって困り顔で言うから」
「クロフト教授に会ったの?」
「ええ」
「彼の講義、朝よ?」
「だから、さっき会ったの」
「どこで」
「そこ」
私が窓の外の木の枝を指差すと、彼女も横を向いた。
「嘘でしょ。彼も登ったの?」
「いえ。彼は下にいたの」
「そうよね。ああ、びっくりした」
「登ったら覗きになるって気にしていたわ」
「でしょうね。大問題よ」
どちらともなく手を離す。
バーサが2段ベッドの下、梯子の傍に腰掛けた。
「でもまあ、彼が問題を起こす事はないわね」
「ええ。優しい老紳士って感じ」
「凄い髭よね」
「もうすぐ老紳士ってところね。訂正する」
「でもあの人、悩みが多いみたい。いつもブツブツ言ってるわ」
「哲学者だもの。そういうものよ」
「理解者の登場ね。ねえ、あなた上でいい?」
話題がベッドに移った。
「もちろんよ」
「高い所が好きなの?」
「見晴らしがいいのは好き。でも特別そうってわけでもないわ」
「木に登ったくせに?」
「登ってないってば。そこから滑って下りたのよ。本当に」
「わかってる。揶揄っただけよ」
「なんだ。喧嘩かと思った」
「ああ、あなた口喧嘩が強そう。頭がよさそうな顔してるもの」
「いえ、そうでもない」
「そうなの?」
「妹にいつも負けたわ。よく口が回るの」
「へえ。仲いいの? どんな子?」
バーサが親睦を深めようと聞いてくれたのは表情や声音から伝わってくるし、妹の話を始めてしまったのは私だ。私はざっと説明した。
「あら、バカな子ね。なんて名前?」
「アラベラ」
「アラベラ……が、誰と結婚するの?」
「ルーシャン・バイアット。ユーイン伯爵の御子息よ」
「ふぅん。でもそんなバカふたりとサヨナラできてよかったじゃない」
「そうなのかしら」
「………………」
バーサは梯子に腕を絡め、首を傾けて私を見あげる。
口角をあげて。
待ってるのだ。
私も肩を竦めて、笑顔で答えた。
「ええ、そう。私もそう思ってる」
正直でいる事は、常に正しいとは限らないけれど、それが許される場所であるなら心地いい事この上ない。
でも、私は慌てて腰を屈めバーサに掌を向けた。
弁明や弁解の時、自然とこの形で手が出るものだ。
「ねえ、あなた。私たくさん喋ってしまったけれど、失礼な事は言ってない?」
なんといっても、口答えが原因で婚約を破棄されたような私だ。
相手が悪かったとはいえ、出過ぎた口が招いた結果であるのは事実。
「言ってないわ」
バーサは急に大人びた表情で、ゆっくりと否定した。
「そう?」
「ええ。私は、あなたがハッキリものを言うのはあなたの魅力だと感じたし、お喋りしていてとても楽しい。あなたが来てくれてよかったわ」
「……ありがとう」
「それに、あなたがいちいち否定しなきゃいけないようなバカな話ばかりする人は、ここにはいないわよ」
「ええ」
「なにより教授は全員喜ぶでしょうね。あなた、どの授業も居眠りしないどころか積極的に質問とかしそうだし」
「ええ。楽しみだわ!」
聞くと彼女は私より2つ年上だった。
大人びて見えるわけだ。
私は出会ってすぐ、同室のバーサが好きになった。
友人ができたのだ。
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