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6 幼馴染にときめく(※リシャール視点)
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人生から忽然と姿を消していたくせに、突然、一方的な手紙を寄こして来た幼馴染ルイゾン・ジュアン。自分の婚約が奇妙な形で破談になっただかなんだか知らないが、都合がいいったらない。
俺は苛立っていた。
苛立ちながら、彼女のために万事手を尽くそうとする自分を自覚していた。
ずっと好きだったのだ。
面倒なのに、喜びすら感じた。
そして、彼女が通路で順番待ちの椅子に座っていると思うと、気が気でなかった。再会は、味気ないもので構わない。こちらも仕事中だ。
なのに、彼女の姿を一目見た瞬間、俺の中に春の嵐が吹き荒れた。
「──」
一瞬、言葉を失くした。
おずおずと扉を開けて入って来た彼女は、愛らしい令嬢に成長していた。
「掛け給え」
存外、いつも通りに振舞えそうだと悟る。
概ね理性的に話を進める事ができたが、最後に欲が出た。
だが、彼女は言った。
「父も喜ぶわ。待ってます」
というわけで、仕事を片付けブローチなども買い求め、シドニー伯爵夫妻には上等な葡萄酒を手配し、一家が泊っている宿に向かっている。
ルイゾン……
おてんばな少女の面影が、たしかにある。
だが、艶めく髪、白い首筋、好奇心旺盛な瞳、赤い唇。
虜になってなにが悪い。俺はまともだ。
ルイゾンと婚約関係にありながら自分の妹と姦通したマルク・バゼーヌを、さっさと地獄へ突き落としたい。
宿には夕食前に着いた。
手短に話が済めば、今日のところは退散しようと考えている。
せっかく再会したのに、親とばかり顔を合わせるような事態に陥ったら大損だ。絶対に明日の約束を取り付けて帰ってやる。
12年だぞ。
気づいたら、変態と婚約していた。
それでも好きだ。
会ってわかった。
「これはこれはサヴァチエ卿。わざわざお越し頂き、ありがとうございます」
「よしてください、おじさん。お会いできて嬉しいです。御無沙汰してすみません」
「!?」
豪快に握手を交わす父親と俺を見て、ルイゾンが目を丸くした。
表情がよく変わるところも、昔と変わっていない。
くそ。
可愛いな。
「御父上は御健在かな?」
「なんの便りもないですから元気でしょう。俺は末っ子ですから、連絡がくるのはいつも最後ですがね」
「ああ、こんな事でなければまた家族同士で集まりたいものだなぁ……!」
「結婚式のひとつでもあればよかったのですが。そうだ、おじさん。ルイゾンに渡した書類には目を通してもらえましたか?」
「あっ。ああ! 読んだとも!!」
ぽかんと口を開けているルイゾンを押しやって、母親のほうが笑顔で寄ってくる。
「お久しぶりね、リシャール。こんなに立派になって」
「なんとかやってますよ。それより、おばさんは全然あの頃と変わりませんね」
「まあっ」
「ルイゾンと並んだら年の離れた姉妹がせいぜいじゃあないですか?」
「やだもうっ、この子ったら!」
昔から明るい一家だ。
とんだ不幸に見舞われている今、いいところを見せて印象付けたい。寄宿学校に行っている間にルイゾンの婚約を決めた事については水に流してもいい。
ルイゾンをくれ。
お願いします。
「な、なによ……昼間と別人じゃない……」
「そんな口を利くんじゃない! 助けてくれるんだから!」
「まあまあ、おじさん。仕事中だったので冷たく接してしまったのは事実ですから。それより今後の計画を練りましょう。相手は狂った野獣ですよ。理屈なんか通じませんから法的に先手を打って行きましょう」
「お、おお!」
外堀を埋めるのは得意だ。
外壁を崩すのも得意だが、それには及ばないだろう。
「ああ、そうだ。再会の記念にルイゾンに贈り物を用意したんです」
「えっ!?」
「まあっ。よかったわね、ルイゾン」
母娘が腕を絡ませて俺を見あげる。
その表情の差に、胸がしくしく疼く。
ルイゾンの笑顔が恋しい。
他人を笑わせる才能があればよかったのに。
「暗い話の前に、これを」
「あ、ありがとう……」
母親の手を離れて、ルイゾンが一歩踏み出して来た。
戸惑った様子で何度も瞬きするたびに、長い睫毛が羽ばたくようで、その毛先で頬でも擽ってもらえたら死んでもいいとさえ思うが顔には出さないだけの分別は持ち合わせている。
細い指が小箱を受取り、リボンを解く。
昔、俺からマフィンを奪った時は、あんなに喜んでいたのに……
「……」
小箱を開けたルイゾンの表情が、ぱっと変わった。
「──」
可愛いぞ。
どうしてくれるんだ、ちくしょう。
顔には出さない。
そう努めすぎて、自分が仏頂面になっていく気がする。
「うわ……素敵……!」
まずは刺繍のブローチだ。
親の前で再会を喜ぶ可愛い贈り物で、好印象間違いなしだ。
「可愛いリス……! 見て! リスよ!」
頬を薔薇色に染めて、俺の贈ったブローチを母親に向ける。
「あとでゆっくり愛でてくれ。しまって。まずは会議だ」
「ええ! リシャール、ありがとう!!」
4人でテーブルを囲む間、ルイゾンは小箱に両手を被せて、大事そうにしながら時折にやけ、チラチラと俺に目を向けた。煌めく美しい瞳だ。
くそ。
誘うんじゃない!
ああ、いや……ルイゾンにそんな気はない。わかっている。
俺が好きなだけだ。
12年燻っていた火が、今、燃えている。明白な事実。だが、まだ秘匿。以上。
俺は苛立っていた。
苛立ちながら、彼女のために万事手を尽くそうとする自分を自覚していた。
ずっと好きだったのだ。
面倒なのに、喜びすら感じた。
そして、彼女が通路で順番待ちの椅子に座っていると思うと、気が気でなかった。再会は、味気ないもので構わない。こちらも仕事中だ。
なのに、彼女の姿を一目見た瞬間、俺の中に春の嵐が吹き荒れた。
「──」
一瞬、言葉を失くした。
おずおずと扉を開けて入って来た彼女は、愛らしい令嬢に成長していた。
「掛け給え」
存外、いつも通りに振舞えそうだと悟る。
概ね理性的に話を進める事ができたが、最後に欲が出た。
だが、彼女は言った。
「父も喜ぶわ。待ってます」
というわけで、仕事を片付けブローチなども買い求め、シドニー伯爵夫妻には上等な葡萄酒を手配し、一家が泊っている宿に向かっている。
ルイゾン……
おてんばな少女の面影が、たしかにある。
だが、艶めく髪、白い首筋、好奇心旺盛な瞳、赤い唇。
虜になってなにが悪い。俺はまともだ。
ルイゾンと婚約関係にありながら自分の妹と姦通したマルク・バゼーヌを、さっさと地獄へ突き落としたい。
宿には夕食前に着いた。
手短に話が済めば、今日のところは退散しようと考えている。
せっかく再会したのに、親とばかり顔を合わせるような事態に陥ったら大損だ。絶対に明日の約束を取り付けて帰ってやる。
12年だぞ。
気づいたら、変態と婚約していた。
それでも好きだ。
会ってわかった。
「これはこれはサヴァチエ卿。わざわざお越し頂き、ありがとうございます」
「よしてください、おじさん。お会いできて嬉しいです。御無沙汰してすみません」
「!?」
豪快に握手を交わす父親と俺を見て、ルイゾンが目を丸くした。
表情がよく変わるところも、昔と変わっていない。
くそ。
可愛いな。
「御父上は御健在かな?」
「なんの便りもないですから元気でしょう。俺は末っ子ですから、連絡がくるのはいつも最後ですがね」
「ああ、こんな事でなければまた家族同士で集まりたいものだなぁ……!」
「結婚式のひとつでもあればよかったのですが。そうだ、おじさん。ルイゾンに渡した書類には目を通してもらえましたか?」
「あっ。ああ! 読んだとも!!」
ぽかんと口を開けているルイゾンを押しやって、母親のほうが笑顔で寄ってくる。
「お久しぶりね、リシャール。こんなに立派になって」
「なんとかやってますよ。それより、おばさんは全然あの頃と変わりませんね」
「まあっ」
「ルイゾンと並んだら年の離れた姉妹がせいぜいじゃあないですか?」
「やだもうっ、この子ったら!」
昔から明るい一家だ。
とんだ不幸に見舞われている今、いいところを見せて印象付けたい。寄宿学校に行っている間にルイゾンの婚約を決めた事については水に流してもいい。
ルイゾンをくれ。
お願いします。
「な、なによ……昼間と別人じゃない……」
「そんな口を利くんじゃない! 助けてくれるんだから!」
「まあまあ、おじさん。仕事中だったので冷たく接してしまったのは事実ですから。それより今後の計画を練りましょう。相手は狂った野獣ですよ。理屈なんか通じませんから法的に先手を打って行きましょう」
「お、おお!」
外堀を埋めるのは得意だ。
外壁を崩すのも得意だが、それには及ばないだろう。
「ああ、そうだ。再会の記念にルイゾンに贈り物を用意したんです」
「えっ!?」
「まあっ。よかったわね、ルイゾン」
母娘が腕を絡ませて俺を見あげる。
その表情の差に、胸がしくしく疼く。
ルイゾンの笑顔が恋しい。
他人を笑わせる才能があればよかったのに。
「暗い話の前に、これを」
「あ、ありがとう……」
母親の手を離れて、ルイゾンが一歩踏み出して来た。
戸惑った様子で何度も瞬きするたびに、長い睫毛が羽ばたくようで、その毛先で頬でも擽ってもらえたら死んでもいいとさえ思うが顔には出さないだけの分別は持ち合わせている。
細い指が小箱を受取り、リボンを解く。
昔、俺からマフィンを奪った時は、あんなに喜んでいたのに……
「……」
小箱を開けたルイゾンの表情が、ぱっと変わった。
「──」
可愛いぞ。
どうしてくれるんだ、ちくしょう。
顔には出さない。
そう努めすぎて、自分が仏頂面になっていく気がする。
「うわ……素敵……!」
まずは刺繍のブローチだ。
親の前で再会を喜ぶ可愛い贈り物で、好印象間違いなしだ。
「可愛いリス……! 見て! リスよ!」
頬を薔薇色に染めて、俺の贈ったブローチを母親に向ける。
「あとでゆっくり愛でてくれ。しまって。まずは会議だ」
「ええ! リシャール、ありがとう!!」
4人でテーブルを囲む間、ルイゾンは小箱に両手を被せて、大事そうにしながら時折にやけ、チラチラと俺に目を向けた。煌めく美しい瞳だ。
くそ。
誘うんじゃない!
ああ、いや……ルイゾンにそんな気はない。わかっている。
俺が好きなだけだ。
12年燻っていた火が、今、燃えている。明白な事実。だが、まだ秘匿。以上。
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