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7 幼馴染が企む
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「ルイゾン」
会議が終わり、私たちは部屋を出ようとしていた。
父が彼を夕食に誘ったけれど、仕事があるとかで辞退したので、食堂に向かうがてら正面入口まで見送るのだ。
そんな時、ふと名前を呼ばれた。
「?」
既に戸口に向かっていた私は、笑顔で振り返った。
なんといっても、幼馴染がやっぱり期待通りに幼馴染だった事が嬉しくて浮かれている。それは否めない。しかも彼は頭がいいので、悍ましい婚約を解消するにも身の安全を守るにしても、彼に任せておけばなんの心配もないのは明らかだった。
私も両親も、ただ再会を喜んでいるだけの気持ちになっていた。
「これを忘れている」
「え?」
彼の手に、小箱があった。
「……」
おかしいわ。
だって私、持ってるもの。
誰か別の人にも贈り物を用意していて、それを忘れて、私に渡そうとしている?
「でも」
私が持っている小箱を見せようとしたら、彼は私と両親のちょうど間に立って、すっと目を細めて私を見おろした。
「……」
威圧感。
が、凄い。
「やだもう。ごめんなさいね、リシャール。相変わらずそそっかしい子で」
「いいえ、おばさん。いいんですよ」
上機嫌な母に返す声と、私を見る表情が、完全に不一致。
戸口で固まっている私に、余裕たっぷりで距離を詰めて来る。
目の前に立った。
私はもう、追い詰められた罪人の気分で彼を凝視よ。
「……」
彼が、わずかに、左の口角をあげた。
「!」
なんてあくどい顔なの……!
そして、そっくりな小箱を差し出してくる。
心臓が妙に跳ねて、自分が嬉しいんだか恐いんだか、よくわからない。
「あ、ありがとう」
受け取るしかなかった。
「おじさん」
と言って、彼は幼馴染らしい顔で父を呼んだ。
それから扉を開けて、私たち3人を通す。
「もし滞在が延びるようなら、ちょうどいい空家を手配しますから」
「もう至れり尽くせりだな」
「ええ。遠慮なく呼びつけてください。さっきも言ったけど、俺は会えて嬉しいんですよ。大変な時に頼ってもらえて光栄です。なんでもしますよ」
「リシャール……涙が出そうだよ……!」
「ハンカチですか? どうぞ」
どう考えても父と打ち解けすぎ。
私にはあんなだったのに。
「……」
でも、ふたつの小箱が、私の手にはある。
リシャールを見送って、母がリスのブローチをつけてくれて、それで食堂で宿自慢のコース料理を食べて、私たちは上機嫌で部屋に戻った。続き部屋になっていて、奥の寝室が私の部屋だ。
夜。
私はランプの灯のもとで、もうひとつの小箱を開けた。
「……!」
金縁にガーネットとオパールのはめ込まれた、美しいブローチ。
3輪の花が絡みあい、結びところで雫を作っている。
息を呑んだ。
喜びより、驚きが大きかった。
小箱の底が取れそうだったので、爪をひっかけて外してみると、折りたたまれた小さな手紙が仕込まれていた。そこには日時と、手配すべき貸馬車の店の名前が記されていた。
「……」
導かれるように裏返す。
「やっぱり」
秘密基地。
そう小さく書いてある。
自宅?
それとも別の宿なの?
なにはともあれ、だから貸馬車の店が指定なのね。
「怪しいわ……」
いったい、なにを企んでいるの。
あんなあくどい顔して。
「……」
それにしても、綺麗なブローチだわ。
リスもよかったけど、こちらはこちらで、とてもいい。
まるで恋人みたいな贈り物──
「んっ?」
え?
そういうアレ?
「……あの顔で?」
いえ。
顔は、素敵だけど。
「違う」
私はまだ、厳密には婚約解消が済んでいない。
それに、両親と一緒に来ている。
幼馴染。
「そう。秘密基地よ。なにか秘密があるんだわ」
ブローチを握りしめる。
なんだかわくわくして、体の芯がボッと燃えたような気がした。
会議が終わり、私たちは部屋を出ようとしていた。
父が彼を夕食に誘ったけれど、仕事があるとかで辞退したので、食堂に向かうがてら正面入口まで見送るのだ。
そんな時、ふと名前を呼ばれた。
「?」
既に戸口に向かっていた私は、笑顔で振り返った。
なんといっても、幼馴染がやっぱり期待通りに幼馴染だった事が嬉しくて浮かれている。それは否めない。しかも彼は頭がいいので、悍ましい婚約を解消するにも身の安全を守るにしても、彼に任せておけばなんの心配もないのは明らかだった。
私も両親も、ただ再会を喜んでいるだけの気持ちになっていた。
「これを忘れている」
「え?」
彼の手に、小箱があった。
「……」
おかしいわ。
だって私、持ってるもの。
誰か別の人にも贈り物を用意していて、それを忘れて、私に渡そうとしている?
「でも」
私が持っている小箱を見せようとしたら、彼は私と両親のちょうど間に立って、すっと目を細めて私を見おろした。
「……」
威圧感。
が、凄い。
「やだもう。ごめんなさいね、リシャール。相変わらずそそっかしい子で」
「いいえ、おばさん。いいんですよ」
上機嫌な母に返す声と、私を見る表情が、完全に不一致。
戸口で固まっている私に、余裕たっぷりで距離を詰めて来る。
目の前に立った。
私はもう、追い詰められた罪人の気分で彼を凝視よ。
「……」
彼が、わずかに、左の口角をあげた。
「!」
なんてあくどい顔なの……!
そして、そっくりな小箱を差し出してくる。
心臓が妙に跳ねて、自分が嬉しいんだか恐いんだか、よくわからない。
「あ、ありがとう」
受け取るしかなかった。
「おじさん」
と言って、彼は幼馴染らしい顔で父を呼んだ。
それから扉を開けて、私たち3人を通す。
「もし滞在が延びるようなら、ちょうどいい空家を手配しますから」
「もう至れり尽くせりだな」
「ええ。遠慮なく呼びつけてください。さっきも言ったけど、俺は会えて嬉しいんですよ。大変な時に頼ってもらえて光栄です。なんでもしますよ」
「リシャール……涙が出そうだよ……!」
「ハンカチですか? どうぞ」
どう考えても父と打ち解けすぎ。
私にはあんなだったのに。
「……」
でも、ふたつの小箱が、私の手にはある。
リシャールを見送って、母がリスのブローチをつけてくれて、それで食堂で宿自慢のコース料理を食べて、私たちは上機嫌で部屋に戻った。続き部屋になっていて、奥の寝室が私の部屋だ。
夜。
私はランプの灯のもとで、もうひとつの小箱を開けた。
「……!」
金縁にガーネットとオパールのはめ込まれた、美しいブローチ。
3輪の花が絡みあい、結びところで雫を作っている。
息を呑んだ。
喜びより、驚きが大きかった。
小箱の底が取れそうだったので、爪をひっかけて外してみると、折りたたまれた小さな手紙が仕込まれていた。そこには日時と、手配すべき貸馬車の店の名前が記されていた。
「……」
導かれるように裏返す。
「やっぱり」
秘密基地。
そう小さく書いてある。
自宅?
それとも別の宿なの?
なにはともあれ、だから貸馬車の店が指定なのね。
「怪しいわ……」
いったい、なにを企んでいるの。
あんなあくどい顔して。
「……」
それにしても、綺麗なブローチだわ。
リスもよかったけど、こちらはこちらで、とてもいい。
まるで恋人みたいな贈り物──
「んっ?」
え?
そういうアレ?
「……あの顔で?」
いえ。
顔は、素敵だけど。
「違う」
私はまだ、厳密には婚約解消が済んでいない。
それに、両親と一緒に来ている。
幼馴染。
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