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13 城の中心で愛を叫ぶヘタレ
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翌朝。
「あ、お世話になりました。ヘタレフリード卿」
「ジークフリードだ」
「ジークフリード卿。お元気で」
サッと荷物をまとめて帰ろうとした私だけれど、まんまと部屋を出てすぐ捕まった。
「待ってくれ」
ええ、待ち構えていたんでしょうね。
「いえ。もう後の事はハザルとビアンカに任せておけば大丈夫なので」
「そうではなくて……ひとりにしないでくれ」
「……」
この、ヘタレ野郎め。
「一心同体になって悪霊を倒した仲じゃないですか。恐がらなくても大丈夫ですって」
「それもそうだが……私の言いたいのはその事だけじゃなくてだな」
ビアンカは反省も踏まえて守護霊的な持ち場をちゃんと守っている。だから、私たちは今、浮遊霊を除けば二人きり。
「なんです?」
「わっ、私は……」
目を泳がせて言い淀んでいる威厳もへったくれもないヘタ──ジークフリード卿は、ふいにじっと私を見つめた。
「君とゆっくり話がしたい」
「はい?」
「だから、帰らないでくれ。私の傍に、いてほしい」
「……………恐がりですね」
「違うッ!!」
い い え ?
何 も 違 わ な い と 思 い ま す け ど ?
「じゃ」
「レディ・スティナ!」
くるりと背を向けて城の廊下を歩きだした私の後を、這い蹲るように追って来る若き領主をヘタレと呼ばずしてなんと呼ぶのよ。
「確かに幽霊は恐い! それは認める! だが君が必要なのは守ってくれるからじゃない! いや、悪霊からはぜひ守ってもらいたい、それも本心だが……君を愛してるんだッ!!」
「はいはい」
「本当だ! きっかけはハザルにまつわる悪霊騒ぎだったが」
「騒いでいたのはジークフリード卿お一人では?」
「ああそうだ! そして、今もこうして声を大にして騒いでいる!! 君を失いたくないからだ!!」
「取るに足らない女です」
「違うッ! 君は強く美しくそして可愛い!! 一目見た瞬間から私は君にぞっこんだ! だがそれどころじゃなかったッ!! それは君だってわかっているだろう!?」
「大きな雛鳥に追われる雌鶏みたいな気分です」
「私は鶏ではないッ!!」
でしょうね。
「それにしても、やっぱり体が頑丈なんですね。あれだけ叫び通しでも、一応は美声を保っていらっしゃるし」
「ああ、そうだ! 鍛錬に鍛錬を重ねた! 私が恐いのは幽霊だけだ!! 他の部分は君に相応しい男のはずだ! 立ち止まって振り向いて私を見てもう一度よく考えてみてくれ! 愛 し て る ス テ ィ ナ ッ !!」
「ぷっ」
あ、いけない。
あんまり騒ぐから、つい笑っちゃったわ。
それで、足を止めて振り向いた。
真剣に焦っているジークフリード卿も、驚いたように足を止めた。
「スティナ?」
すっかり仲良しよね。
それに、愛や生き死にの嘘を吐く人ではない。
その上で幽霊の存在は信じていて、私が必要なのよ。
しかも辺境伯。
「わかりました。もう少し、お世話になります」
シュタッ!
「!?」
一瞬で跪いたジークフリード卿が、私の手を掬い上げて包んで額を擦りつけてきた。
「いや、もう結婚してくれ」
「……」
その艶やかな髪や逞しい項を見下ろして、私はこみ上げた笑いを必死で噛み殺しつつ、とぼけて返す。
「まぁ。そこまでして霊媒師を手放したくないんですね」
「違うッ! 君を愛しているんだ! 鶏ではなくッ! 君と出会ってからというもの、城内で可憐な君の姿を見かける度にこの胸がキュンと締め付けられて──」
「霊障で不整脈……」
「違ぁうッ!!」
「あ、お世話になりました。ヘタレフリード卿」
「ジークフリードだ」
「ジークフリード卿。お元気で」
サッと荷物をまとめて帰ろうとした私だけれど、まんまと部屋を出てすぐ捕まった。
「待ってくれ」
ええ、待ち構えていたんでしょうね。
「いえ。もう後の事はハザルとビアンカに任せておけば大丈夫なので」
「そうではなくて……ひとりにしないでくれ」
「……」
この、ヘタレ野郎め。
「一心同体になって悪霊を倒した仲じゃないですか。恐がらなくても大丈夫ですって」
「それもそうだが……私の言いたいのはその事だけじゃなくてだな」
ビアンカは反省も踏まえて守護霊的な持ち場をちゃんと守っている。だから、私たちは今、浮遊霊を除けば二人きり。
「なんです?」
「わっ、私は……」
目を泳がせて言い淀んでいる威厳もへったくれもないヘタ──ジークフリード卿は、ふいにじっと私を見つめた。
「君とゆっくり話がしたい」
「はい?」
「だから、帰らないでくれ。私の傍に、いてほしい」
「……………恐がりですね」
「違うッ!!」
い い え ?
何 も 違 わ な い と 思 い ま す け ど ?
「じゃ」
「レディ・スティナ!」
くるりと背を向けて城の廊下を歩きだした私の後を、這い蹲るように追って来る若き領主をヘタレと呼ばずしてなんと呼ぶのよ。
「確かに幽霊は恐い! それは認める! だが君が必要なのは守ってくれるからじゃない! いや、悪霊からはぜひ守ってもらいたい、それも本心だが……君を愛してるんだッ!!」
「はいはい」
「本当だ! きっかけはハザルにまつわる悪霊騒ぎだったが」
「騒いでいたのはジークフリード卿お一人では?」
「ああそうだ! そして、今もこうして声を大にして騒いでいる!! 君を失いたくないからだ!!」
「取るに足らない女です」
「違うッ! 君は強く美しくそして可愛い!! 一目見た瞬間から私は君にぞっこんだ! だがそれどころじゃなかったッ!! それは君だってわかっているだろう!?」
「大きな雛鳥に追われる雌鶏みたいな気分です」
「私は鶏ではないッ!!」
でしょうね。
「それにしても、やっぱり体が頑丈なんですね。あれだけ叫び通しでも、一応は美声を保っていらっしゃるし」
「ああ、そうだ! 鍛錬に鍛錬を重ねた! 私が恐いのは幽霊だけだ!! 他の部分は君に相応しい男のはずだ! 立ち止まって振り向いて私を見てもう一度よく考えてみてくれ! 愛 し て る ス テ ィ ナ ッ !!」
「ぷっ」
あ、いけない。
あんまり騒ぐから、つい笑っちゃったわ。
それで、足を止めて振り向いた。
真剣に焦っているジークフリード卿も、驚いたように足を止めた。
「スティナ?」
すっかり仲良しよね。
それに、愛や生き死にの嘘を吐く人ではない。
その上で幽霊の存在は信じていて、私が必要なのよ。
しかも辺境伯。
「わかりました。もう少し、お世話になります」
シュタッ!
「!?」
一瞬で跪いたジークフリード卿が、私の手を掬い上げて包んで額を擦りつけてきた。
「いや、もう結婚してくれ」
「……」
その艶やかな髪や逞しい項を見下ろして、私はこみ上げた笑いを必死で噛み殺しつつ、とぼけて返す。
「まぁ。そこまでして霊媒師を手放したくないんですね」
「違うッ! 君を愛しているんだ! 鶏ではなくッ! 君と出会ってからというもの、城内で可憐な君の姿を見かける度にこの胸がキュンと締め付けられて──」
「霊障で不整脈……」
「違ぁうッ!!」
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