婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。

百谷シカ

文字の大きさ
3 / 13

3 優先するべき準備について

しおりを挟む
「あら?」


 エクトル伯爵夫人から手紙。


「なにかしら。……分厚いわね」


 私は窓際の椅子に座り、封を切った。
 そしてざっと目を通し、軽い腹痛を覚えた。


。°+°。°+ °。°。°+°。°+ °。°。°+°。°+ °。°+ °。°。°+°。°。°+°。

 ヴィクトリヤ


 先日は興味深い会食を共に過ごせて、本当に嬉しく思っていますのよ。

 あなたのように美しいお嬢さんが愛するウスターシュと結婚する事も、本当に心から嬉しく思っていますの。心から、嘘偽りなくね。

 そこで未来の母親として、あなたにいい事を教えてあげましょう。
 どうぞ言いつけを守って、あたくしを今以上に喜ばせて頂戴ね。

 健康な子供を産むために今から運動を始めなさい。
 朝3時から6時と、夕方4時から5時に散歩をする事。朝寝坊は駄目よ。それと誤解しないで欲しいのだけれど、天気の悪い日は家にいなさいね。あと、3時間と1時間、それぞれ正確に。

 食後はそれぞれ30分昼寝をしなさい。

 それと、月曜日と木曜日、ジャニスと一緒にスカーレット・クィンランに会いに行きなさい。とても多産な子爵夫人で今も妊娠しているのよ。彼女のお腹を触れば、あなたも多産になって健康な素晴らしい子を産めるわ。

 あと、最後にとても大切な事を書かせてもらうわね。

 いつまでも子供っぽい黄色のドレスなんか着ていないで、菫色のドレスを着なさい。それかせめて情熱的な赤を。
 マラチエ家の女になっても服の趣味が悪いなんてありえないわ。いいわね?
 髪は染めなくても構いません。

 次にお会いできる日を楽しみにしているわ、ヴィクトリヤ。
 どうぞあたくしをがっかりさせないで、喜ばせて頂戴ね。


              ウスターシュの愛する母 メリンダ・マラチエ

。°+°。°+ °。°。°+°。°+ °。°。°+°。°+ °。°+ °。°。°+°。°。°+°。



「思ったより強敵だわ」


 私はウスターシュにこの事を伝えた。
 手紙だと未来の母親に見られてしまうかもしれないから、馬丁の息子マックスに伝言を頼んだ。マックスは勇敢で、馬たちとも親友。遠乗りのついでに伝言を頼むのは、とても合理的といえる。

 マックスはウスターシュからの分厚い手紙を携えて帰った。


「……反省しているわね」


 ウスターシュは手紙のなかで母親を一度も庇わず、ひたすらに私への謝罪と愛を鏤めている。クィンラン子爵家訪問については、ジャニスが妊婦に好ましくない差入ればかりして迷惑をかけているらしく、そちらはエクトル伯爵が対応に当たっているとの事。


「苦労するわね」


 散歩については、健康にいいのは確かだけれど、エクトル伯爵家で午前3時に起きているのは門番と厨房のパン係だけで、エクトル伯爵夫人とジャニスは寝坊しがちとの事。


「ふむ」


 そして私の趣味はすべからく洗練されていて素晴らしいとウスターシュは思っているようだった。


「〝君に失礼のないように父とふたりで最大限の努力をして準備を整えるよ、どうか信じて欲しい。愛してる。君のウスターシュより〟……気持ちは信じるけど、結果には懐疑的にならざるを得ないわね」


 エクトル伯爵が結婚して今日まで達成できなかった教育を、たった数ヶ月で成し遂げられるとは考えられない。

 でもいい。
 重要なのは、彼が私を愛しているという事だ。

 私はウスターシュからの手紙を丁寧にたたみ、小箱にしまった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。 私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。 それなのに裏切りやがって絶対許さない! 「シェリーは容姿がアレだから」 は?よく見てごらん、令息達の視線の先を 「シェリーは鈍臭いんだから」 は?最年少騎士団員ですが? 「どうせ、僕なんて見下してたくせに」 ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…

悪役令嬢と呼ばれた彼女の本音は、婚約者だけが知っている

当麻月菜
恋愛
『昔のことは許してあげる。だから、どうぞ気軽に参加してね』 そんなことが書かれたお茶会の招待状を受け取ってしまった男爵令嬢のルシータのテンションは地の底に落ちていた。 実はルシータは、不本意ながら学園生活中に悪役令嬢というレッテルを貼られてしまい、卒業後も社交界に馴染むことができず、引きこもりの生活を送っている。 ちなみに率先してルシータを悪役令嬢呼ばわりしていたのは、招待状の送り主───アスティリアだったりもする。 もちろん不参加一択と心に決めるルシータだったけれど、婚約者のレオナードは今回に限ってやたらと参加を強く勧めてきて……。 ※他のサイトにも重複投稿しています。でも、こちらが先行投稿です。 ※たくさんのコメントありがとうございます!でも返信が遅くなって申し訳ありません(><)全て目を通しております。ゆっくり返信していきますので、気長に待ってもらえたら嬉しかったりします。

[完結]離婚したいって泣くくらいなら、結婚する前に言ってくれ!

h.h
恋愛
「離婚させてくれぇ」「泣くな!」結婚してすぐにビルドは「離婚して」とフィーナに泣きついてきた。2人が生まれる前の母親同士の約束により結婚したけれど、好きな人ができたから別れたいって、それなら結婚する前に言え! あまりに情けなく自分勝手なビルドの姿に、とうとう堪忍袋の尾が切れた。「慰謝料を要求します」「それは困る!」「困るじゃねー!」

次に貴方は、こう言うのでしょう?~婚約破棄を告げられた令嬢は、全て想定済みだった~

キョウキョウ
恋愛
「おまえとの婚約は破棄だ。俺は、彼女と一緒に生きていく」  アンセルム王子から婚約破棄を告げられたが、公爵令嬢のミレイユは微笑んだ。  睨むような視線を向けてくる婚約相手、彼の腕の中で震える子爵令嬢のディアヌ。怒りと軽蔑の視線を向けてくる王子の取り巻き達。  婚約者の座を奪われ、冤罪をかけられようとしているミレイユ。だけど彼女は、全く慌てていなかった。  なぜなら、かつて愛していたアンセルム王子の考えを正しく理解して、こうなることを予測していたから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。

佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。 そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。 キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。 でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。 最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。 誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。 「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。 男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。 今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!卒業式で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私、アンジュ・シャーロック伯爵令嬢には婚約者がいます。女好きでだらしがない男です。婚約破棄したいと父に言っても許してもらえません。そんなある日の卒業式、学園に向かうとヒソヒソと人の顔を見て笑う人が大勢います。えっ、私婚約破棄されるのっ!?やったぁ!!待ってました!! 婚約破棄から幸せになる物語です。

〖完結〗婚約者の私よりも自称病弱な幼馴染みの方が大切なのですか?

藍川みいな
恋愛
「クレア、すまない。今日のお茶会には行けなくなった。マーサの体調が思わしくないようなんだ。」 ……またですか。 何度、同じ理由で、私との約束を破れば気が済むのでしょう。 ランディ様は婚約者の私よりも、幼馴染みのマーサ様の方が大切なようです。 そしてそのお茶会に、ランディ様はマーサ様を連れて現れたのです。 我慢の限界です! 婚約を破棄させていただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全5話で完結になります。

処理中です...