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7 愛する人との生活について
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「言ってしまえば、私はお互いの家のために結婚する過程であなたと意気投合して恋に落ちたのだけれど」
「うん」
「家のために結婚するという事は、つまり、あなたのお母様の満足する生活のためという意味ではないはずよ」
「本当にその通りだよ」
「だから私、決めて欲しいの」
「うん」
「私とお母様、どちらと暮らすか」
「──」
ウスターシュはきょとんとして、私を見つめた。
「無邪気なふりをしても駄目。エクトル伯爵が大目に見てきた事を、私も大目に見るとは限らないのよ」
「ヴィクトリヤ」
片時も目を逸らさずに、ウスターシュが私の手を握った。
「僕や父が耐え難く感じている事を、肉親ではない君がより一層耐え難く感じているのは当然だよ」
「理論的に考えればそうでしょうね」
「むしろ、なぜここまで耐えていられるのか不思議なくらいだ」
「感情面で怒りより呆れの比重が大きいからよ」
「そうか。君は僕が出会った女性のなかで、いちばん精神が成熟している」
「そうかもね。だからと言って、これ以上、甘んじて受ける気はないわ」
「そうだろうね」
ウスターシュは目を落とし、私の手の甲を愛しそうに撫でる。
「前に言った通り、君は僕と父の希望の光なんだ」
「ありがとう。それなら褒められた気になるわ。メシアは重かった」
「すまなかった。君に呆れられるのが恐くて言えなかった事がある」
「なに?」
「東翼を改築した」
「え?」
知らなかった。
エクトル伯爵家の東翼に私たち夫婦が住む予定ではあったけれど、わざわざ手を加えなければいけないようには見えなかった。
「母とジャニスが勝手に出入りできないように、絡繰り時計を扉に設置した。僕たちが内側から開けるか、出入りを許された使用人が解くかしないと行き来できない」
「まあ、素敵」
「執事は僧のように達観してるし、ハウスメイドは祖母の代からいるから母でなく君を伯爵夫人として待ちわびているよ。母とジャニスに寝返りそうな意志の弱い人間はもう残っていないから、安心していい」
私は深い安堵の溜息をついた。
思っていたより、心の澱になっていたのね。
「それを聞いて安心したわ。私のメイドが恐がっていたから」
「君を愛しているんだ」
「申し訳ないけれど、あなたとの暮らしを邪魔されたくないの。もちろん有益だったり、有意義な時間を過ごせる相手なら歓迎よ。でも、ふたりは歓迎できない」
「有意義でもないしね」
「ええ」
ウスターシュがあのふたりに毒されず成長したのは、奇跡ね。
「ジャニスは結婚して出て行くし、母も徐々に威力を失っていく。エクトル伯爵家は君のものだ。もっと改築が必要ならそう言って欲しい」
「まずはあなたとエクトル伯爵の用意して下さった環境で暮らしてみるわ」
「ありがとう」
どちらともなく体を寄せて、互いの頬にキスをする。
唇へのキスは、神様の前できちんと夫婦になってからのお楽しみ。
「ウスターシュ!? 話は済んだの!?」
扉の向こうでエクトル伯爵夫人が吠えた。
「あああああああ」
「開けてあげましょう、ウスターシュ」
「僕とあのひととの間に仕掛けがほしいよ!」
「入るわ!」
扉を蹴破る勢いでエクトル伯爵夫人が入ってきた。
「まったく、母親に秘密でコソコソ話し合うなんて、どういう育ち方をしたらそうなるの!? 少なくともあたくしはすべて母親に相談しましたよ!?」
「だから早くに亡くなったんだよ! 心労で!!」
「まっ、なんて事言うの!? あなたのせいよ、ヴィクトリヤ! あなたがあたくしのウスターシュを変えてしまったのよ!! あああああッ、ウスターシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
泣いてる。
「絡繰り時計が待ち遠しい」
私は独り言ちて、未来の夫に微笑んで、その膝をポポンと叩いた。
「うん」
「家のために結婚するという事は、つまり、あなたのお母様の満足する生活のためという意味ではないはずよ」
「本当にその通りだよ」
「だから私、決めて欲しいの」
「うん」
「私とお母様、どちらと暮らすか」
「──」
ウスターシュはきょとんとして、私を見つめた。
「無邪気なふりをしても駄目。エクトル伯爵が大目に見てきた事を、私も大目に見るとは限らないのよ」
「ヴィクトリヤ」
片時も目を逸らさずに、ウスターシュが私の手を握った。
「僕や父が耐え難く感じている事を、肉親ではない君がより一層耐え難く感じているのは当然だよ」
「理論的に考えればそうでしょうね」
「むしろ、なぜここまで耐えていられるのか不思議なくらいだ」
「感情面で怒りより呆れの比重が大きいからよ」
「そうか。君は僕が出会った女性のなかで、いちばん精神が成熟している」
「そうかもね。だからと言って、これ以上、甘んじて受ける気はないわ」
「そうだろうね」
ウスターシュは目を落とし、私の手の甲を愛しそうに撫でる。
「前に言った通り、君は僕と父の希望の光なんだ」
「ありがとう。それなら褒められた気になるわ。メシアは重かった」
「すまなかった。君に呆れられるのが恐くて言えなかった事がある」
「なに?」
「東翼を改築した」
「え?」
知らなかった。
エクトル伯爵家の東翼に私たち夫婦が住む予定ではあったけれど、わざわざ手を加えなければいけないようには見えなかった。
「母とジャニスが勝手に出入りできないように、絡繰り時計を扉に設置した。僕たちが内側から開けるか、出入りを許された使用人が解くかしないと行き来できない」
「まあ、素敵」
「執事は僧のように達観してるし、ハウスメイドは祖母の代からいるから母でなく君を伯爵夫人として待ちわびているよ。母とジャニスに寝返りそうな意志の弱い人間はもう残っていないから、安心していい」
私は深い安堵の溜息をついた。
思っていたより、心の澱になっていたのね。
「それを聞いて安心したわ。私のメイドが恐がっていたから」
「君を愛しているんだ」
「申し訳ないけれど、あなたとの暮らしを邪魔されたくないの。もちろん有益だったり、有意義な時間を過ごせる相手なら歓迎よ。でも、ふたりは歓迎できない」
「有意義でもないしね」
「ええ」
ウスターシュがあのふたりに毒されず成長したのは、奇跡ね。
「ジャニスは結婚して出て行くし、母も徐々に威力を失っていく。エクトル伯爵家は君のものだ。もっと改築が必要ならそう言って欲しい」
「まずはあなたとエクトル伯爵の用意して下さった環境で暮らしてみるわ」
「ありがとう」
どちらともなく体を寄せて、互いの頬にキスをする。
唇へのキスは、神様の前できちんと夫婦になってからのお楽しみ。
「ウスターシュ!? 話は済んだの!?」
扉の向こうでエクトル伯爵夫人が吠えた。
「あああああああ」
「開けてあげましょう、ウスターシュ」
「僕とあのひととの間に仕掛けがほしいよ!」
「入るわ!」
扉を蹴破る勢いでエクトル伯爵夫人が入ってきた。
「まったく、母親に秘密でコソコソ話し合うなんて、どういう育ち方をしたらそうなるの!? 少なくともあたくしはすべて母親に相談しましたよ!?」
「だから早くに亡くなったんだよ! 心労で!!」
「まっ、なんて事言うの!? あなたのせいよ、ヴィクトリヤ! あなたがあたくしのウスターシュを変えてしまったのよ!! あああああッ、ウスターシュゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
泣いてる。
「絡繰り時計が待ち遠しい」
私は独り言ちて、未来の夫に微笑んで、その膝をポポンと叩いた。
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