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10 とても素敵な結婚式について
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「ヴィクトリヤ。あなたのような方がウスターシュ・マラチエのような男の妻になるなんて、勿体ない。非常に勿体ない」
「ヘンシャル伯爵。先ほどの機転の利かせ方には感心しましたし、感謝しておりますが、場を弁えてください。私を目の前にして私を罵倒したマラチエ家の女のように、マラチエ家の居間でマラチエ家の跡取り息子をないがしろにするなんて、らしくありませんよ」
「……ハッ!」
第一、わかりにくいかもしれないけれど、私はウスターシュを愛している。
それに彼の優しさは軟弱さも含んでいるけれど、私が強いのでちょうどいい。ヘンシャル伯爵とは意見の衝突をいずれ招き、どちらかが折れるという屈辱的な亀裂から決裂していく不幸な未来が予測される。
「ヘンシャル伯爵。もし私の子供と、あなたの子供が、幼馴染になって恋が芽生えて結ばれたら、私たちの孫は少なくともリュシアン伯、エクトル伯、ヘンシャル伯を治める大領主となりますね」
「……一瞬騙されかけた。その場合、あの血が混じる」
ヘンシャル伯爵は長椅子で身を寄せ合ってしくしくと泣く母娘を目で示した。
「ふふ」
「これはこれは、参りましたな」
「あなたにできない事も、私にはできるのですよ」
「と、いうと?」
「私にはマラチエ家から聡明で優秀な令嬢を輩出する力があるのです。脳と、子宮」
「おやおや」
「あたくしたちを馬鹿にしているのね!!」
エクトル伯爵夫人が叫んだ。
「黙れ!! お前たちの不作法のせいで爵位を剥奪されるかもしれないんだぞ!!」
エクトル伯爵も叫んだ。
私は左手で制して、微笑んだ。
「いいえ。私たちは素敵な結婚式を執り行います。幸せな未来を、共に築いていきましょう」
「ああ、ヴィクトリヤ……! あなたは息子には勿体ない、素晴らしい女性だ!」
「ヴィクトリヤ、私はあなたの善き友として、生涯の忠誠を誓いましょう」
「ありがとう、ヘンシャル伯爵」
そして私たちは、2ヶ月後、予定通りの素敵な結婚式を挙げた。
そこにはヘンシャル伯爵の計らいで、プリンセス・ヴィクトリヤが参列してくれるという奇跡が起きた。プリンセス・ヴィクトリヤはまだ15歳で、あどけなさと王族の威厳を兼ね備えたとても神秘的な美少女だった。
科学的に言えば遺伝と家庭環境の両方は作用し、人類の最高傑作が生まれたのだ。
「おめでとう、ヴィクトリヤ」
「ありがとうございます、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「あなたの噂を聞いて、ぜひお会いしたいと思っていました。直接お祝いが言えてよかったです」
「光栄です、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「ねえ」
プリンセス・ヴィクトリヤが身を寄せてくる。
「黄色のドレスが好きなんですって?」
「はい。美しい色です」
「そうよね! 黄色が卑しい色だなんて大昔の話よ。私も大好きなの」
「そうですか。輝くプリンセス・ヴィクトリヤのお姿が目に浮かびます」
「黄色はこれから流行るわよ。私が着まくるの!」
と、プリンセス・ヴィクトリヤは快活な少女らしく片目を瞑って、ひらりと身を翻した。そして問題のジャニスのほうへ威厳たっぷりに歩いていき、少しばかり大きい声で言った。
「おめでとう、ジャニス・マラチエ」
「は、はい……」
「あなたは幸運ね。世界中のヴィクトリヤとジャニスに対する罪も、あなたの義妹がすべて帳消しにしてくれたのだから」
「……はい、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「これからは彼女を見習い、多くを学び、素敵な貴婦人になってください」
「はい、プリンセス・ヴィクトリヤ」
さすがのジャニスも、プリンセス・ヴィクトリヤには口答えできないようで、始終頭を下げっぱなしでしおらしい姿を見せている。
続けてプリンセス・ヴィクトリヤはエクトル伯爵夫妻の元へ向かった。
「ようこそお越しくださいました、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「おめでとう、エクトル伯爵」
「あり」
「プリンセス・ヴィクトリヤ! ぜひあたくしたちのパーティーにぜひ──」
「なにそのドレス。ダッサい」
言うまでもなく、今3人は注目の的だ。
エクトル伯爵夫人の時が止まる。
「……」
「せっかくの菫色が台無しよ。それに、どうしてもその色が着たいならせめて美しい灰色のドレスをお召しになったら如何なの? 年相応のドレスを」
「……」
「これからはヴィクトリヤを見習って、ヴィクトリヤの言う事をよく聞いて、人生を考え直して貴婦人としての誇りを取り戻してください。あと、孫に手出ししない事。あなたは娘の教育を間違えました」
「……」
「うぅ……っ」
ジャニスが泣き出した。
けれどそれも、今までの愚行に比べれば気にもされない姿だった。
というより、参列者たちは留飲の下りた顔で、なかには神に感謝の祈りを唱え始めた伯爵までいたくらいだ。
そしてプリンセス・ヴィクトリヤは私たち夫婦の元へ戻ってくると、また少女らしい笑顔を浮かべ、ウスターシュを見あげた。
「あなたは世界一幸せな花婿ね!」
「は、はいぃっ、……っぐ、プリンセス・ヴィ……っ、ヴィクトリ……ッ!」
プリンセス・ヴィクトリヤは号泣しているウスターシュの腕を、ポポンと叩いた。
少し離れた位置では、ぜひとお招きしたヘンシャル伯爵が笑顔で頷いている。
ああ、すべて予定通り。
とっても素敵な結婚式。
「ヘンシャル伯爵。先ほどの機転の利かせ方には感心しましたし、感謝しておりますが、場を弁えてください。私を目の前にして私を罵倒したマラチエ家の女のように、マラチエ家の居間でマラチエ家の跡取り息子をないがしろにするなんて、らしくありませんよ」
「……ハッ!」
第一、わかりにくいかもしれないけれど、私はウスターシュを愛している。
それに彼の優しさは軟弱さも含んでいるけれど、私が強いのでちょうどいい。ヘンシャル伯爵とは意見の衝突をいずれ招き、どちらかが折れるという屈辱的な亀裂から決裂していく不幸な未来が予測される。
「ヘンシャル伯爵。もし私の子供と、あなたの子供が、幼馴染になって恋が芽生えて結ばれたら、私たちの孫は少なくともリュシアン伯、エクトル伯、ヘンシャル伯を治める大領主となりますね」
「……一瞬騙されかけた。その場合、あの血が混じる」
ヘンシャル伯爵は長椅子で身を寄せ合ってしくしくと泣く母娘を目で示した。
「ふふ」
「これはこれは、参りましたな」
「あなたにできない事も、私にはできるのですよ」
「と、いうと?」
「私にはマラチエ家から聡明で優秀な令嬢を輩出する力があるのです。脳と、子宮」
「おやおや」
「あたくしたちを馬鹿にしているのね!!」
エクトル伯爵夫人が叫んだ。
「黙れ!! お前たちの不作法のせいで爵位を剥奪されるかもしれないんだぞ!!」
エクトル伯爵も叫んだ。
私は左手で制して、微笑んだ。
「いいえ。私たちは素敵な結婚式を執り行います。幸せな未来を、共に築いていきましょう」
「ああ、ヴィクトリヤ……! あなたは息子には勿体ない、素晴らしい女性だ!」
「ヴィクトリヤ、私はあなたの善き友として、生涯の忠誠を誓いましょう」
「ありがとう、ヘンシャル伯爵」
そして私たちは、2ヶ月後、予定通りの素敵な結婚式を挙げた。
そこにはヘンシャル伯爵の計らいで、プリンセス・ヴィクトリヤが参列してくれるという奇跡が起きた。プリンセス・ヴィクトリヤはまだ15歳で、あどけなさと王族の威厳を兼ね備えたとても神秘的な美少女だった。
科学的に言えば遺伝と家庭環境の両方は作用し、人類の最高傑作が生まれたのだ。
「おめでとう、ヴィクトリヤ」
「ありがとうございます、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「あなたの噂を聞いて、ぜひお会いしたいと思っていました。直接お祝いが言えてよかったです」
「光栄です、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「ねえ」
プリンセス・ヴィクトリヤが身を寄せてくる。
「黄色のドレスが好きなんですって?」
「はい。美しい色です」
「そうよね! 黄色が卑しい色だなんて大昔の話よ。私も大好きなの」
「そうですか。輝くプリンセス・ヴィクトリヤのお姿が目に浮かびます」
「黄色はこれから流行るわよ。私が着まくるの!」
と、プリンセス・ヴィクトリヤは快活な少女らしく片目を瞑って、ひらりと身を翻した。そして問題のジャニスのほうへ威厳たっぷりに歩いていき、少しばかり大きい声で言った。
「おめでとう、ジャニス・マラチエ」
「は、はい……」
「あなたは幸運ね。世界中のヴィクトリヤとジャニスに対する罪も、あなたの義妹がすべて帳消しにしてくれたのだから」
「……はい、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「これからは彼女を見習い、多くを学び、素敵な貴婦人になってください」
「はい、プリンセス・ヴィクトリヤ」
さすがのジャニスも、プリンセス・ヴィクトリヤには口答えできないようで、始終頭を下げっぱなしでしおらしい姿を見せている。
続けてプリンセス・ヴィクトリヤはエクトル伯爵夫妻の元へ向かった。
「ようこそお越しくださいました、プリンセス・ヴィクトリヤ」
「おめでとう、エクトル伯爵」
「あり」
「プリンセス・ヴィクトリヤ! ぜひあたくしたちのパーティーにぜひ──」
「なにそのドレス。ダッサい」
言うまでもなく、今3人は注目の的だ。
エクトル伯爵夫人の時が止まる。
「……」
「せっかくの菫色が台無しよ。それに、どうしてもその色が着たいならせめて美しい灰色のドレスをお召しになったら如何なの? 年相応のドレスを」
「……」
「これからはヴィクトリヤを見習って、ヴィクトリヤの言う事をよく聞いて、人生を考え直して貴婦人としての誇りを取り戻してください。あと、孫に手出ししない事。あなたは娘の教育を間違えました」
「……」
「うぅ……っ」
ジャニスが泣き出した。
けれどそれも、今までの愚行に比べれば気にもされない姿だった。
というより、参列者たちは留飲の下りた顔で、なかには神に感謝の祈りを唱え始めた伯爵までいたくらいだ。
そしてプリンセス・ヴィクトリヤは私たち夫婦の元へ戻ってくると、また少女らしい笑顔を浮かべ、ウスターシュを見あげた。
「あなたは世界一幸せな花婿ね!」
「は、はいぃっ、……っぐ、プリンセス・ヴィ……っ、ヴィクトリ……ッ!」
プリンセス・ヴィクトリヤは号泣しているウスターシュの腕を、ポポンと叩いた。
少し離れた位置では、ぜひとお招きしたヘンシャル伯爵が笑顔で頷いている。
ああ、すべて予定通り。
とっても素敵な結婚式。
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