私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?

百谷シカ

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3 それは都合がよすぎるでしょう。

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「イザベル! 見て! リスだよ!!」

「まあ、本当。ああやって口いっぱいに木の実を詰め込んで、一生懸命、小さな体で生きるんですよ。坊ちゃまも、たくさん食べて、たくさんお勉強してくださいね」

「うん!」


 雪景色の広がる、美しい朝。
 窓から外を指差すアルノーの頬が、リンゴのように朱に染まっている。

 私は家庭教師でありながら、アルノーを愛していた。
 自分の中にこれほど強い母性があるとは、知らなかった。この子のためなら、命を捨てても惜しくはない。


「あ。イザベル! お客様だよ!」

「え?」


 小さな指の指す先に、見慣れた馬車が1台。
 私は心の芯が凍てつくのを感じながら、アルノーに微笑んだ。


「さあ、ラテン語のお時間ですよ」

「うーん……、僕がんばる!」

「素晴らしい。その意気です、坊ちゃん」


 私とアルノーの時間に割り込むなんて、あの男はどこまで鬱陶しいのだろう。

 連絡は受けていない。
 それでも訪ねてくるのだから、バンジャマン侯爵に話を通したのだ。主が訪問を許したのであれば、私には拒否権はない。

 でも、それがなんだというのだろう。

 私の人生の障害物は、たかがピエールなのでしょう?
 それなら、今まで通りあしらえばいい。


「イザベル! ああ、君の顔を見て生き返った心地だよ!」


 応接間を面会の場として与えられ、私たちは再会を果たした。

 
「お久しぶりです、アサント伯爵」

「そんな、イザベル。君のピエールだよ。ピエールと呼んでくれ」


 私は無言を貫いた。


「ああ……そうだよね。フォコネ伯爵令嬢ともあろう君に、こんな労働を強いたのは僕だ。君は怒って当然だ」


 私がなにに怒っているか、ピエールはいつも的外れ。
 だからきっと、これから言う私の言葉も、捻じ曲げて受け取るだろう。


「私は今の人生を愛しています」

「本当に尊敬するよ。君、幾つになったんだい? 25?」


 ほら、聞いてもいない。 
 それに私は24才だ。


「まだ間に合うだろう? 君にお願いがあるんだ。ナタリーがまた男の子を産んだ。でも今度は、疑う余地のない肌の色なんだ。でもロベールがいるだろう? 後継ぎはどうするべきなんだ? 最悪、息子たちが兄弟同士で殺し合うかもしれない。地獄だよ。僕はもう、この問題を抱えきれない」

「ええ」

「だから君に、僕の息子を産んでほしい」

「──はい?」


 さすがに、苛立ちが顔に出た。


「侯爵家と言っても君は使用人だろう? 僕は君に、妻と同等の暮らしを約束するよ。愛してる。ずっと愛していた。やっぱり僕には君だけだよ。イザベル、僕と来てくれ。秘密結婚だ。ロマンチックだろう?」

 
 なんて都合のいい、馬鹿げた提案。
 そう言い返してやろうと思った瞬間、閉じておいたはずの扉が乱暴に開かれ、怒声が轟いた。


「ふざけるな! イザベルは僕の母上になるんだ!!」
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