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15 許されない想い
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もう子供じゃないのだし、このまま結婚しなくてもいい。
ジェルマンには自分で思っていたほど未練があったわけでもなかったし、失ったものより得たもののほうが遥かに大きいような気がしてきた。
一緒に生きていく人がほしいという意味でなら、デュモンがいる。
これ以上踏み込んだら、……欲を出したら、いつか失ってしまうかもしれない。
私は大人になって狡さを覚えた。
私が結婚したら、デュモンは妬く?
デュモンが結婚したら? 今なら、祝福できる。親友として。
だけどもし彼と先へ進んでしまったら、親友のふりはできない。戻れない。
「ジェルマン……」
懐かしい人との再会は、私に教えてくれた。
彼とは、いいお友達になれる。戻れるのだと。一度は張り裂けた胸の痛みが、嘘みたいに。
馬車が着いた。
下りて御者を労い、小走りに中へ駆けこんだ時だった。
「!」
物陰から誰かが飛び出してきて、ぶつかった。私はよろけて壁に激突した。
小さい体。すぐに誰かわかった。
ハイラだ。
グングンの《河》はさすがに宿に入らないので、水汲み係と一緒にドルイユ伯爵家に滞在してもらっている。当然ハイラも客室棟で生活していて、グングンのお世話をしたり、町を散策したりして日々を過ごしていた。私を嫌っているから、顔を合わせる事はなかったけれど。
そして、日常的にデュモンに会いに行くのも知っていた。
「! ! !」
彼女のまっすぐな幼い愛が、私の事を許せないのは当然だった。
ついさっき言われた彼の言葉が、耳に蘇る。
昔の婚約者を招いて、泊めて、それで別の男性の部屋を訪ねたのだ。
「ハイラ、痛いわ。やめて」
できるだけ優しくお願いしたけれど、彼女は私の鎖骨のあたりを強く殴ってから悪態をついて走り去った。
悪い噂で中傷されるより、ずっと堪えた。私は壁に寄りかかったまま、長い事苦労して息を整えながら闇を見つめた。
幼気な愛を引き裂く酷い大人に、今度は私がなっているのだ。
言葉にできない哀しみと、諦めが胸を占めた。私は大人になったのだと。
そして夜が明けた。
すっかり気持ちの整理がついた私は、当主として客人であるジェルマンを朝食に招いた。理性を取り戻したのはジェルマンも同じようで、昔と変わらない穏やかな笑顔を、だいぶ大人になってしまった頬に乗せて、あれこれと取り留めもない話をしてくれた。彼もまた、私の人生のなかで、本当に大切な人である事はたしかだ。
「ありがとう、バルバラ」
朝食を終えて、彼は優しく言った。
「ええ、こちらこそ」
私も微笑みを返し、今日の予定を尋ねようと、彼を見つめたまま息を吸った。すると彼が徐に立ち上がり、食卓を回り込んで、私の傍らまで来て跪いた。
「……ジェ、ジェ、ジェルマン?」
声が裏返る。
壁際でセシャンも硬直している。
一度は取り戻した理性が勢いよく羽ばたいていった。
……ああ……大変。
ジェルマンが天鵞絨の小箱を出して、掌に乗せて、そして私に向かって蓋を開いちゃったわ。指輪が光ってる……。見た事ある懐かしい指輪……。
「男らしく申し込むよ。バルバラ、どうか僕と結婚してほしい」
「ジェ」
「何度でも申し込むよ。バルバラ、結婚してくれ」
「ジェ」
次に私の呼びかけを遮ったジェルマンの言葉に、私は息を呑んだ。
「君が今、誰を愛していても構わない。結婚していたはずなんだから、君はずっと心の中で僕の妻だった。昔も今も、これからも、ずっとね」
「……」
どうしよう。
「在るべき形に戻ろう。そうすれば、ちゃんと心はついてくるよ」
「どうかしら」
急激に冷めていく私の心をどう説明したらいいの。
それにしても友情って冷める事があるのね。初めて知った。
またひとつ大人になったわ。
「バルバラ、愛してる!」
「えっ!?」
急に伸びあがってきた彼に掌で頬を挟まれキスされるまで、1秒もなかった。
ジェルマンには自分で思っていたほど未練があったわけでもなかったし、失ったものより得たもののほうが遥かに大きいような気がしてきた。
一緒に生きていく人がほしいという意味でなら、デュモンがいる。
これ以上踏み込んだら、……欲を出したら、いつか失ってしまうかもしれない。
私は大人になって狡さを覚えた。
私が結婚したら、デュモンは妬く?
デュモンが結婚したら? 今なら、祝福できる。親友として。
だけどもし彼と先へ進んでしまったら、親友のふりはできない。戻れない。
「ジェルマン……」
懐かしい人との再会は、私に教えてくれた。
彼とは、いいお友達になれる。戻れるのだと。一度は張り裂けた胸の痛みが、嘘みたいに。
馬車が着いた。
下りて御者を労い、小走りに中へ駆けこんだ時だった。
「!」
物陰から誰かが飛び出してきて、ぶつかった。私はよろけて壁に激突した。
小さい体。すぐに誰かわかった。
ハイラだ。
グングンの《河》はさすがに宿に入らないので、水汲み係と一緒にドルイユ伯爵家に滞在してもらっている。当然ハイラも客室棟で生活していて、グングンのお世話をしたり、町を散策したりして日々を過ごしていた。私を嫌っているから、顔を合わせる事はなかったけれど。
そして、日常的にデュモンに会いに行くのも知っていた。
「! ! !」
彼女のまっすぐな幼い愛が、私の事を許せないのは当然だった。
ついさっき言われた彼の言葉が、耳に蘇る。
昔の婚約者を招いて、泊めて、それで別の男性の部屋を訪ねたのだ。
「ハイラ、痛いわ。やめて」
できるだけ優しくお願いしたけれど、彼女は私の鎖骨のあたりを強く殴ってから悪態をついて走り去った。
悪い噂で中傷されるより、ずっと堪えた。私は壁に寄りかかったまま、長い事苦労して息を整えながら闇を見つめた。
幼気な愛を引き裂く酷い大人に、今度は私がなっているのだ。
言葉にできない哀しみと、諦めが胸を占めた。私は大人になったのだと。
そして夜が明けた。
すっかり気持ちの整理がついた私は、当主として客人であるジェルマンを朝食に招いた。理性を取り戻したのはジェルマンも同じようで、昔と変わらない穏やかな笑顔を、だいぶ大人になってしまった頬に乗せて、あれこれと取り留めもない話をしてくれた。彼もまた、私の人生のなかで、本当に大切な人である事はたしかだ。
「ありがとう、バルバラ」
朝食を終えて、彼は優しく言った。
「ええ、こちらこそ」
私も微笑みを返し、今日の予定を尋ねようと、彼を見つめたまま息を吸った。すると彼が徐に立ち上がり、食卓を回り込んで、私の傍らまで来て跪いた。
「……ジェ、ジェ、ジェルマン?」
声が裏返る。
壁際でセシャンも硬直している。
一度は取り戻した理性が勢いよく羽ばたいていった。
……ああ……大変。
ジェルマンが天鵞絨の小箱を出して、掌に乗せて、そして私に向かって蓋を開いちゃったわ。指輪が光ってる……。見た事ある懐かしい指輪……。
「男らしく申し込むよ。バルバラ、どうか僕と結婚してほしい」
「ジェ」
「何度でも申し込むよ。バルバラ、結婚してくれ」
「ジェ」
次に私の呼びかけを遮ったジェルマンの言葉に、私は息を呑んだ。
「君が今、誰を愛していても構わない。結婚していたはずなんだから、君はずっと心の中で僕の妻だった。昔も今も、これからも、ずっとね」
「……」
どうしよう。
「在るべき形に戻ろう。そうすれば、ちゃんと心はついてくるよ」
「どうかしら」
急激に冷めていく私の心をどう説明したらいいの。
それにしても友情って冷める事があるのね。初めて知った。
またひとつ大人になったわ。
「バルバラ、愛してる!」
「えっ!?」
急に伸びあがってきた彼に掌で頬を挟まれキスされるまで、1秒もなかった。
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