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20 本当の話
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買い付けの旅から帰って来たのは7日目の事で、私は毎日宿屋に通って待ち構えていた。満杯の荷馬車と満足そうな笑みを携えた3人を、特にマダム・コロワを追い詰めたくなかったのだ。
「プリンセス……!」
真っ先に飛んできたのは、顔色を変えたデュモン。
それもそのはず。
彼らの馬車が通りの向こうに見えた時点で報せを受けて、私と帳簿係のショーソンは表で待っていた。ショーソンは頭に包帯を巻いて、左腕を吊っている。
「なにがあったんです? 無事ですか?」
彼は私の腕を掴んで、息も絶え絶えにそう尋ねた。
遅れてマダム・コロワと、彼女を気遣うように寄り添いながら料理長のグティエレスが駆けつける。
「おかえりなさい。慌てる事はないわ。もう済んだ事だから」
そう前置きをして、簡潔に事の次第を告げる。
マダム・コロワは目を剥いて蒼褪めた。
「ラファラン伯爵には憲兵付添の上で丁重にご退場頂きました。それに、既に法的手続きに入っています。どうか安心して宿を続けてください」
領主として穏やかに告げる。
けれどマダム・コロワは思い詰めた表情で私を見つめた。
「……レディ・ドルイユ、申し訳ありません。そんな事になっていたなんて」
私は彼女の腕に触れ、親愛の情を込めて微笑んだ。
「いいのよ。あなたたちを守るのが私の務めだもの。だから謝るのは私。余計な虫を呼び寄せてしまってごめんなさい」
「いえ……そんな……」
彼女の胸の中に、拭いきれない不安があるようだった。
待っていると、彼女は口を開いた。
「こんな事になってしまっていたのに、黙ってはおけません。実は、私は買い付けにいったわけじゃないんです」
「え?」
意外な告白に、純粋に驚いた。
そして……
「実は、その……私、身篭ったみたいで。この人の子」
「……」
彼女の指さす方、料理長のトニオ・グティエレスを見あげる。
「で、宿のみんなには気を遣わせたくないし、町じゃあ噂になるし、それで船長さんに相談したら、ちょうど買い付けに行くからナダルの医者に診てもらおうって言ってくれて……。私、こんな年で初産だから、産めるかわかんなくて」
「高齢出産や未熟児の処置がうまい医者なんです。前にその男を斡旋した事があって、知ってたんですよ」
補足するデュモンの顔を見遣る。
「……それで、どうなの」
「え?」
「彼女、順調なの?」
デュモンは一瞬、言葉の意味を理解できないようだった。
代わりにマダム・コロワ本人が、
「あ、ええ」
と申し訳なさそうに答えた。
「……っ」
胸の内に喜びが広がる。
「おめでとう、ベルト!」
感動のあまり名を呼んで、力いっぱい抱きしめてしまう。
「えっ!? あー……、ええ、ありがとうございます。でも、喜んでいいのか」
戸惑う彼女の手が、背中に回った。
形式上、抱擁を返してくれている。
「もちろんよ! そうだったの……よかったわね! 私に手伝える事があれば言ってちょうだい。ねえ、デュモン。その医者をこちらに呼ぶ事はできる?」
「一応、話はつけましたよ。こっちの医者で対応しきれなかったら出張するそうです。ただ、費用はそれなりですがね」
「私が出すわ!」
「いえっ、レディ・ドルイユ! いけません! うちは儲かってますから、それくらいなんとかなります!」
マダム・コロワが私の体をガバッと離し、優しく子供を諭すような目をして叫んだ。
「ああ、そうよね。その通りだわ。私ったら、出しゃばっちゃって。本当におめでとう。おめでとう、グティエレス」
私は浮かれたまま、親になるふたりの腕を交互に摩り、宿の中へと促した。
素晴らしいニュースを持ち帰ってくれて、喜びと感謝に満たされていた。
「プリンセス……!」
真っ先に飛んできたのは、顔色を変えたデュモン。
それもそのはず。
彼らの馬車が通りの向こうに見えた時点で報せを受けて、私と帳簿係のショーソンは表で待っていた。ショーソンは頭に包帯を巻いて、左腕を吊っている。
「なにがあったんです? 無事ですか?」
彼は私の腕を掴んで、息も絶え絶えにそう尋ねた。
遅れてマダム・コロワと、彼女を気遣うように寄り添いながら料理長のグティエレスが駆けつける。
「おかえりなさい。慌てる事はないわ。もう済んだ事だから」
そう前置きをして、簡潔に事の次第を告げる。
マダム・コロワは目を剥いて蒼褪めた。
「ラファラン伯爵には憲兵付添の上で丁重にご退場頂きました。それに、既に法的手続きに入っています。どうか安心して宿を続けてください」
領主として穏やかに告げる。
けれどマダム・コロワは思い詰めた表情で私を見つめた。
「……レディ・ドルイユ、申し訳ありません。そんな事になっていたなんて」
私は彼女の腕に触れ、親愛の情を込めて微笑んだ。
「いいのよ。あなたたちを守るのが私の務めだもの。だから謝るのは私。余計な虫を呼び寄せてしまってごめんなさい」
「いえ……そんな……」
彼女の胸の中に、拭いきれない不安があるようだった。
待っていると、彼女は口を開いた。
「こんな事になってしまっていたのに、黙ってはおけません。実は、私は買い付けにいったわけじゃないんです」
「え?」
意外な告白に、純粋に驚いた。
そして……
「実は、その……私、身篭ったみたいで。この人の子」
「……」
彼女の指さす方、料理長のトニオ・グティエレスを見あげる。
「で、宿のみんなには気を遣わせたくないし、町じゃあ噂になるし、それで船長さんに相談したら、ちょうど買い付けに行くからナダルの医者に診てもらおうって言ってくれて……。私、こんな年で初産だから、産めるかわかんなくて」
「高齢出産や未熟児の処置がうまい医者なんです。前にその男を斡旋した事があって、知ってたんですよ」
補足するデュモンの顔を見遣る。
「……それで、どうなの」
「え?」
「彼女、順調なの?」
デュモンは一瞬、言葉の意味を理解できないようだった。
代わりにマダム・コロワ本人が、
「あ、ええ」
と申し訳なさそうに答えた。
「……っ」
胸の内に喜びが広がる。
「おめでとう、ベルト!」
感動のあまり名を呼んで、力いっぱい抱きしめてしまう。
「えっ!? あー……、ええ、ありがとうございます。でも、喜んでいいのか」
戸惑う彼女の手が、背中に回った。
形式上、抱擁を返してくれている。
「もちろんよ! そうだったの……よかったわね! 私に手伝える事があれば言ってちょうだい。ねえ、デュモン。その医者をこちらに呼ぶ事はできる?」
「一応、話はつけましたよ。こっちの医者で対応しきれなかったら出張するそうです。ただ、費用はそれなりですがね」
「私が出すわ!」
「いえっ、レディ・ドルイユ! いけません! うちは儲かってますから、それくらいなんとかなります!」
マダム・コロワが私の体をガバッと離し、優しく子供を諭すような目をして叫んだ。
「ああ、そうよね。その通りだわ。私ったら、出しゃばっちゃって。本当におめでとう。おめでとう、グティエレス」
私は浮かれたまま、親になるふたりの腕を交互に摩り、宿の中へと促した。
素晴らしいニュースを持ち帰ってくれて、喜びと感謝に満たされていた。
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