婚約破棄されたと思ったら結婚を申し込まれました

文字の大きさ
2 / 3

中編

しおりを挟む
「あなたたちが謝罪するべきは私ではないわ。スラー・セタッカ男爵令嬢でしょう」

ぱちん、と扇の閉じる音。氷の女王とも名高いリッカの声が、静まり返った会場に響く。はっと顔色を変えた令嬢たちが、今度はスラーに頭を下げた。
スラーはというと、殿下に連れられ会場に入ってから一言も発していない。交互に令嬢たちとリッカを見やるその様は狼狽しているとも読み取れる。ちなみに殿下は一回も見られていない。そのことに気付いた殿下は何か声をかけようと考えたが、その瞬間リッカが口を開いた。

「スラー・セタッカ男爵令嬢。相手が謝罪しているからといって必ず許さなければならないというわけではありません。結論は急ぎませんから、あなたがどうしたいのかじっくり考えなさい」
厳しい物言いとは裏腹に、声はどこか暖かく優しい。こんな声音聞いたことない、と殿下はリッカを見やったが、当のリッカは衛兵に「連れていきなさい」と指示していたので目が合うことはなかった。

問題の令嬢たちが会場から連れ出され、会場の貴族たちは徐々にざわつき始める。口々にリッカの手際の良さと性根の優しさを称賛していた。

まるで、殿下の婚約破棄宣言などなかったかのように。


「……いや、いやいやいや!」
それに納得いかなかったのは殿下だ。何かいい話のように締めくくられそうだが、そうは問屋が卸さないぞと息巻く。腑に落ちないことがありすぎるのだ。
「まだ何か?」
一方のリッカは微塵も興味が無いといったふうに殿下を見る。はっきり言うと、怖い。だが殿下は目を逸らさないまま口を開いた。

が、その横をスラーが駆け抜ける。

そしてスラーは、自身の髪を掴むとそれを引っ張り──美しかった黒い長髪が軽やかなショートヘアとなった。手には長い髪束、というか頭皮を覆っていた髪そのもの。
驚愕に目を見開く殿下をまったく気に留めず、スラーはリッカの前に跪き、顔を上げた。

「やはり貴女は優しく聡明なお方……!ぜひ、僕と結婚してください!」

しんと会場が静まり返ったのち、殿下の絶叫が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そのフラグをへし折りまくっていることに気づかなかったあなたの負け

藤田あおい
恋愛
卒業パーティーで、婚約破棄を言い渡されたアリエッタ。 しかし、そこにアリエッタの幼馴染の男が現れる。 アリエッタの婚約者の殿下を奪った少女は、慌てた様子で、「フラグは立っているのに、なんで?」と叫ぶ。 どうやら、この世界は恋愛小説の世界らしい。 しかし、アリエッタの中には、その小説を知っている前世の私の人格がいた。 その前世の私の助言によって、フラグをへし折られていることを知らない男爵令嬢は、本命ルート入りを失敗してしまったのだった。

婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します

ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。 王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。 「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。 しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。 無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。 婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。 「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく—— だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?

婚約破棄された途端、隣国の冷酷王子に溺愛されました

ほーみ
恋愛
「――本日をもって、レイラ・アストレッドとの婚約を破棄する!」 玉座の間に響き渡る鋭い声。 それは私の元婚約者である王太子・ユリウスの宣告だった。 広い空間にざわめきが広がる。 私はゆっくり顔を上げ、冷たい笑みを浮かべた。 「あら、そう。ようやく?」 「……なに?」

【完】婚約破棄するはずの令息と思われていた

えとう蜜夏
恋愛
 僕はモートン子爵家の三男のケビンだ。どこにでもいそうなごくごく普通の貴族の子弟。  だけど最近婚約者の態度がおかしい。会いに行っても門前払い。  ひょっとして彼女に嫌われた? 僕が何かしたのだろうか?  で、どうやら僕は彼女から義理の妹と恋愛して婚約破棄を学園のパーティでしでかすらしい。  ※他サイトにも掲載予定です。(ゆるやか安心設計のため生温かくご覧いただけたらと)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)  追加R7.5.24女性向けホットランキング入りしました。ありがとうございます!!誤字等の訂正もしました。

【完結】錬金術ギルドを追放された私、王太子妃を救ったら二人のイケメンに溺愛されてギルド長になりました

er
恋愛
平民の錬金術師クロエは、貴族の令嬢ジュリエットに研究成果を奪われ、ギルドから追放された。下町で細々と薬屋を営んでいた彼女の元に、王太子妃の治療依頼が舞い込む。密かに持つ特殊能力『秘められし過去の欠片』で毒を見抜き、王妃の命を救ったクロエ。だが事件の裏には王国を揺るがす巨大な陰謀が――。氷の錬金術師エリックと美貌の侯爵フランソワ、二人のイケメンに守られながらクロエは黒幕に立ち向かう。

無能扱いされ、パーティーを追放されたOL、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。 

さら
恋愛
かつて王都で働いていたOL・ミナ。 冒険者パーティーの後方支援として、管理と戦略を担当していた彼女は、仲間たちから「役立たず」「無能」と罵られ、あっけなく追放されてしまう。 居場所を失ったミナが辿り着いたのは、辺境の小さな村・フェルネ。 「もう、働かない」と決めた彼女は、静かな村で“何もしない暮らし”を始める。 けれど、彼女がほんの気まぐれに整理した倉庫が村の流通を変え、 適当に育てたハーブが市場で大人気になり、 「無能」だったはずのスキルが、いつの間にか村を豊かにしていく。 そんなある日、かつての仲間が訪ねてくる。 「戻ってきてくれ」――今さら何を言われても、もう遅い。 ミナは笑顔で答える。 「私はもう、ここで幸せなんです」

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 みつび
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

処理中です...