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甘い唇
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「ごめんね。もっと穏便にすますつもりだったんですよ。でもラズが殴られたのをみたら我慢できなくて」
どこに連れて行かれるのかわからずキョロキョロしていると、ウィス様が申し訳なさそうに謝った。立ち止まって腫れたラズの頬に手をあてる。
「頬が腫れている」
「だ、大丈夫です」
心配させてしまったようだ。
ラズは拳を握って、身体の熱を少し集めた。それを自分の頬にあてると、腫れていた頬から痛みがひいた。
「癒やしの魔法?」
ウィス様は指先でラズの頬を何度もなぞった。もう腫れた跡はないはずだ。
「この程度しか使えないんですけどね」
孤児院では子供の擦り傷を治すのが日常茶飯事だったから、使える魔法の中では得意中の得意だ。けれど魔力の少ないラズではすりむいたり転んで打ち付けた場所を癒やすのが精一杯だった。
「今日は、魔力を使ってはいけないと言ったでしょう」
「これっ……ん……んっ」
これくらいは平気ですと言おうとしたラズの唇は、思ったよりやわらかいウィス様の唇に塞がれた。
ラズは頤を上げられ、斜めに口づけたウィス様に開いた唇の間から熱い舌を差し込まれた。舌が絡むと、そこから唾液に含まれた魔力がラズの体内を満たしていく。大して減っていなかった魔力は一瞬で補充を終えた。
唇が離れた瞬間、息が上がったラズは一歩離れるだけで精一杯だった。
「本当だ、ラズの唇は甘いな……」
「あ……甘いのは匂いなのでは……?」
そんなどうでもいいことを返してしまうほど、ラズは混乱していた。
魔力を与えられたのだとわかる。わかるけど!
「唇も甘かったですよ」
ウィス様はペロリと自分の唇を舐めた。
「あのっ、魔力はそう簡単に人にあげるものではないと思います」
「だって、倒れたらラズの新しい仕事場へ連れて行ってあげられないじゃないですか。団長に怒られますよ」
至極真面目にそう言われて、ラズは言葉を失った。
もしかして、騎士団では人に魔力を与えることが普通なのかもしれない。ラズの育ってきた孤児院も城の職場も魔法を使える人間はあまりいなかったから知らなかっただけなのだろうか。
「はぁ……でも出来れば、一言いってからお願いします。魔力はそんなに減ってないので」
ため息しかでない。
「ラズは優秀ですね」
ウィス様が褒めてくれた。けれどラズは素直に受け取ることができない。優秀なら、きっとこんな生き方はしていなかったとわかっているから。
「魔力は少ないですけどね」
いつになっても魔力にこだわっている自分がいた。どれだけ努力しても無理だとわかっているのに、失ったものの幻影にとりつかれて悲嘆にくれた子供のまま成長できないラズが心の中で泣いている。
「傷も適度に治っています。団長なんて魔力が多くて強いから癒しの力があったら大変なことになっていたでしょうね」
わざとらしくウィス様は身を震わせた。
「どんな傷も治せていいのでは」
「いいえ、癒しの力を魔力任せにつかえば、人は簡単に狂うし、死にますよ。適度な魔法を使えるというのは難しいことなんです。生まれつき上手な人もいますがラズは努力したんじゃないですか」
ウィス様は、口先ではなく本当にそう思っているのだとわかる笑顔を浮かべた。
ラズの中にいた子供のままのラズが、ウィス様の言葉を聞いて、はにかむように笑ったように感じた。
どこに連れて行かれるのかわからずキョロキョロしていると、ウィス様が申し訳なさそうに謝った。立ち止まって腫れたラズの頬に手をあてる。
「頬が腫れている」
「だ、大丈夫です」
心配させてしまったようだ。
ラズは拳を握って、身体の熱を少し集めた。それを自分の頬にあてると、腫れていた頬から痛みがひいた。
「癒やしの魔法?」
ウィス様は指先でラズの頬を何度もなぞった。もう腫れた跡はないはずだ。
「この程度しか使えないんですけどね」
孤児院では子供の擦り傷を治すのが日常茶飯事だったから、使える魔法の中では得意中の得意だ。けれど魔力の少ないラズではすりむいたり転んで打ち付けた場所を癒やすのが精一杯だった。
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唇が離れた瞬間、息が上がったラズは一歩離れるだけで精一杯だった。
「本当だ、ラズの唇は甘いな……」
「あ……甘いのは匂いなのでは……?」
そんなどうでもいいことを返してしまうほど、ラズは混乱していた。
魔力を与えられたのだとわかる。わかるけど!
「唇も甘かったですよ」
ウィス様はペロリと自分の唇を舐めた。
「あのっ、魔力はそう簡単に人にあげるものではないと思います」
「だって、倒れたらラズの新しい仕事場へ連れて行ってあげられないじゃないですか。団長に怒られますよ」
至極真面目にそう言われて、ラズは言葉を失った。
もしかして、騎士団では人に魔力を与えることが普通なのかもしれない。ラズの育ってきた孤児院も城の職場も魔法を使える人間はあまりいなかったから知らなかっただけなのだろうか。
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ため息しかでない。
「ラズは優秀ですね」
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ウィス様は、口先ではなく本当にそう思っているのだとわかる笑顔を浮かべた。
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