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白鷲騎士団の食堂に転職
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「よく来てくれた! もう、大変で大変で!」
職場は団長とウィス様の所属する白鷲騎士団の食堂だった。
「ははっ、落ち着きなさい」
ウィス様の目がキラッと光ったような気がした。その瞬間、ラズを見て歓喜に沸いていた調理場がシンッと音を消した。
これが零下か。
「初めまして、ラズ・マフィンです」
「ラズ君ね。よろしく。白鷲騎士団、調理部門責任者のマストだ」
「ラズで結構です。ウィス様、俺、調理部ではなかったんですけど」
ガクッとマストが肩を落としたのが見えた。けれど、すぐに立ち直りラズに尋ねる。
「調理経験は無い? ジャガイモむいたりとかそういうのでもいい」
ジャガイモをむくとかは調理師見習いだ。そうなると下級使用人より下になる。給料ももちろん下がるはずだ。
「孤児院では調理をしていましたが、王宮では下級使用人だったんです」
「ああ、マフィンってことは君、優秀なんだね。孤児院も子供ばかりとはいえ、大量に作ってただろう? なら、別に問題ないよ。後見はハイネガー様なんでしょ?」
ウィス様にチラッと視線を向けたところを見ると、ウィス様の名前のようだ。ハイネガー……。
ウィスランド・ハイネガー。魔法使いの学校を首席で卒業して、魔法省に入るかと思っていたら騎士団に入団したという異色の経歴の持ち主だ。
「ハイネガー様……」
「ラズは優秀なのか……。ウィスでいい」
「孤児院出身でマフィンを名乗ることができるのは院長に認められたものだけだと聞いたことがあります。城ではいませんが街中では何人か知っていますよ」
マストはラズに期待の目を向ける。
「ほほぅ、ただ甘い物が好きでつけた名前かと思っていたよ」
孤児だって言ったからだろう。ラズが自分でつけるなら、もっと目立たない名前にする。
「ラズ、できるところから覚えてくれれば良い。調理をお願いしたい。白鷲騎士団が王宮から離れていた間に他の調理場に行っていた人たちの何人かが退職したり、移動先から戻りたくないと言って人数が揃ってないんだ。今は他の調理場から援護してもらってるけど……」
ウィス様は後半のマストの言葉を受けて、頷いた。
「人が足りないなら戻ってきた騎士見習いなどを使ってもいいですよ。皆野営で慣れている」
ウィス様はマストにそう提案したが、唸って「やめてください。やりにくいです」と断った。ウィス様は団長の片腕で、副長という地位にいるはずなのに、マストは平気で自分の意見を述べた。それが当然のようにウィス様も聞いている。
「ラズにはデザートを作って欲しいんですが……」
どれだけ甘味が好きなんだろうか。さすがクッキーを食べたくてラズを引き抜いた団長の片腕なだけはある。
「でも俺、そんなに種類を知りません。孤児だったものですから、バザーで出すクッキーやマフィン、パウンドケーキとかしか……」
孤児が食べるものは安価な季節でとれる芋や果物がほとんどだった。
「そうですね、わかりました。今は調理が大変ならそっちを優先してくれればいいです。ラズ、時間のあるときに街で勉強しましょう」
ウィス様はニッコリと、でも断れないような笑顔をラズに向けた。
「え……あ……」
いや、それは。なんて言葉が出そうでだせない圧を感じた。
「いいっすね。デートですか」
少しやさぐれた感じでマストが呟く。
「ち、違いますよ! ウィス様も騎士団長も甘い物がことさら大好きなようで……」
クッキーで引き抜かれた身としては、キチンと告げておくべきだろう。ウィス様の名誉のためにも。
「甘い物は美味しい。美味しいは正義です」
ウィス様は格言のように言ったが、ただの食い道楽だ。
「わかりました。正義のためならしかたありませんね。ラズ、大変かもしれないが勉強してきてくれ。俺はあんまり甘い物が得意じゃないんだよ」
マストにまで頼まれたら更に断れなくなった。
「わかりました」
上司がマストのような人で良かったとラズは胸をなで下ろした。前の上司ならラズが引き立てられたら嫌がらせをするだろう。
「ラズ、頑張ってください。また顔を見にきますよ」
「ウィス様、ありがとうございました。あの……騎士団長にもお礼を」
「あはは、クッキー三枚も食べたんですからお礼なんて……」
クッキーを一枚多く食べただけでウィス様は根にもっているようだ。
「ウィス様、今度孤児院に行ったらクッキーを作ってきますから」
人を殺しそうな顔は止めてください。
「ラズ、クッキーを食堂で作ったら小麦粉もバターも砂糖も使い放題ですよ」
惹かれる言葉だ。使い放題。けれど孤児院の売上げを上げたいなら頷けない。
「いえ、孤児院の秘伝もあるので」
嘘だけど。
「そうですか。残念です。それなら、マスト。デザートに使うという材料は好きに持って行かせてください。それからかかった時間を聞いて、正確に残業代としてください」
「それは!」
「ラズ、やめとけ。言うだけ無駄だ」
マストの諦めを含んだ声に、何故か周りで夜の仕込みをしているだろう料理人たちが頷いていた。
「あ……ありがとうございます」
長いものには巻かれろ、ラズの孤児院で培った理性がそう言った。
「楽しみです。では」
ウィス様はとても爽やかな笑顔を残して去って行った。
職場は団長とウィス様の所属する白鷲騎士団の食堂だった。
「ははっ、落ち着きなさい」
ウィス様の目がキラッと光ったような気がした。その瞬間、ラズを見て歓喜に沸いていた調理場がシンッと音を消した。
これが零下か。
「初めまして、ラズ・マフィンです」
「ラズ君ね。よろしく。白鷲騎士団、調理部門責任者のマストだ」
「ラズで結構です。ウィス様、俺、調理部ではなかったんですけど」
ガクッとマストが肩を落としたのが見えた。けれど、すぐに立ち直りラズに尋ねる。
「調理経験は無い? ジャガイモむいたりとかそういうのでもいい」
ジャガイモをむくとかは調理師見習いだ。そうなると下級使用人より下になる。給料ももちろん下がるはずだ。
「孤児院では調理をしていましたが、王宮では下級使用人だったんです」
「ああ、マフィンってことは君、優秀なんだね。孤児院も子供ばかりとはいえ、大量に作ってただろう? なら、別に問題ないよ。後見はハイネガー様なんでしょ?」
ウィス様にチラッと視線を向けたところを見ると、ウィス様の名前のようだ。ハイネガー……。
ウィスランド・ハイネガー。魔法使いの学校を首席で卒業して、魔法省に入るかと思っていたら騎士団に入団したという異色の経歴の持ち主だ。
「ハイネガー様……」
「ラズは優秀なのか……。ウィスでいい」
「孤児院出身でマフィンを名乗ることができるのは院長に認められたものだけだと聞いたことがあります。城ではいませんが街中では何人か知っていますよ」
マストはラズに期待の目を向ける。
「ほほぅ、ただ甘い物が好きでつけた名前かと思っていたよ」
孤児だって言ったからだろう。ラズが自分でつけるなら、もっと目立たない名前にする。
「ラズ、できるところから覚えてくれれば良い。調理をお願いしたい。白鷲騎士団が王宮から離れていた間に他の調理場に行っていた人たちの何人かが退職したり、移動先から戻りたくないと言って人数が揃ってないんだ。今は他の調理場から援護してもらってるけど……」
ウィス様は後半のマストの言葉を受けて、頷いた。
「人が足りないなら戻ってきた騎士見習いなどを使ってもいいですよ。皆野営で慣れている」
ウィス様はマストにそう提案したが、唸って「やめてください。やりにくいです」と断った。ウィス様は団長の片腕で、副長という地位にいるはずなのに、マストは平気で自分の意見を述べた。それが当然のようにウィス様も聞いている。
「ラズにはデザートを作って欲しいんですが……」
どれだけ甘味が好きなんだろうか。さすがクッキーを食べたくてラズを引き抜いた団長の片腕なだけはある。
「でも俺、そんなに種類を知りません。孤児だったものですから、バザーで出すクッキーやマフィン、パウンドケーキとかしか……」
孤児が食べるものは安価な季節でとれる芋や果物がほとんどだった。
「そうですね、わかりました。今は調理が大変ならそっちを優先してくれればいいです。ラズ、時間のあるときに街で勉強しましょう」
ウィス様はニッコリと、でも断れないような笑顔をラズに向けた。
「え……あ……」
いや、それは。なんて言葉が出そうでだせない圧を感じた。
「いいっすね。デートですか」
少しやさぐれた感じでマストが呟く。
「ち、違いますよ! ウィス様も騎士団長も甘い物がことさら大好きなようで……」
クッキーで引き抜かれた身としては、キチンと告げておくべきだろう。ウィス様の名誉のためにも。
「甘い物は美味しい。美味しいは正義です」
ウィス様は格言のように言ったが、ただの食い道楽だ。
「わかりました。正義のためならしかたありませんね。ラズ、大変かもしれないが勉強してきてくれ。俺はあんまり甘い物が得意じゃないんだよ」
マストにまで頼まれたら更に断れなくなった。
「わかりました」
上司がマストのような人で良かったとラズは胸をなで下ろした。前の上司ならラズが引き立てられたら嫌がらせをするだろう。
「ラズ、頑張ってください。また顔を見にきますよ」
「ウィス様、ありがとうございました。あの……騎士団長にもお礼を」
「あはは、クッキー三枚も食べたんですからお礼なんて……」
クッキーを一枚多く食べただけでウィス様は根にもっているようだ。
「ウィス様、今度孤児院に行ったらクッキーを作ってきますから」
人を殺しそうな顔は止めてください。
「ラズ、クッキーを食堂で作ったら小麦粉もバターも砂糖も使い放題ですよ」
惹かれる言葉だ。使い放題。けれど孤児院の売上げを上げたいなら頷けない。
「いえ、孤児院の秘伝もあるので」
嘘だけど。
「そうですか。残念です。それなら、マスト。デザートに使うという材料は好きに持って行かせてください。それからかかった時間を聞いて、正確に残業代としてください」
「それは!」
「ラズ、やめとけ。言うだけ無駄だ」
マストの諦めを含んだ声に、何故か周りで夜の仕込みをしているだろう料理人たちが頷いていた。
「あ……ありがとうございます」
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