騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち

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魔力ポーション

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「あの、昨日使ってもらったMPポーションは本当に返さなくていいのですか? 高いものですよね」

 給料三ヶ月分だと聞いたことがある。今のラズの給料なら二ヶ月分くらいだろうか。

「ああ、アーサーのものだろう? 気にしなくていい。我が家としては訴えられなかった分の賠償代を払わなければいけない。ラズは訴えなくていいのか?」

 アーサー様が弟だと聞いたけれど、その顔からは訴えるべきだという意志も見えた。

「別に掘られたわけじゃないし」
「ブッ! ほ、掘られた……」
「すみません、言い方が下品でしたね。何て言ったらいいんだろう。ヤられた?」

 騎士団は男ばかりだが侯爵家の令息は卑猥な話とかには入らないのだなと思った。

「だが、怖い思いをしただろう。魔力枯渇に近かったとエカテリテが言っていた。彼女がいてくれて良かった。下手したら死んでいたんだ。訴えるなら……」

 団長は弟といえど許せないみたいだ。つるっぱげにしただけでは気持ちが収まらないのだろう。けれど、ラズが訴えることはできない。どうなるかわかっているからだ。

「俺みたいな身分のものが侯爵家の令息に襲われたなんて言ったら鼻で笑われるだけですよ。下手したら誘惑したのに乗ってこなかったから言いがかりをつけたんだろうって言われます」

 クレセントで楽しかった気分が沈む。

「そんなことは言わせない」

 団長の目は真摯だ。
 団長は親切で言ってくれている。泣きそうなくらい嬉しかったけれど、首を横に振った。

「寮監であるエカテおばさんの失態になるから訴えません」

 アーサーを子供と同じように育てたはずだ。

「それは……」

 エカテおばさんが部屋を貸してくれたのも優しくしてくれるのも、もしかしたらラズにアーサーを訴えさせないためかもしれない。別にそれでいい。

「アーサー様の教育は……侯爵家でやってください。俺は騎士を訴えるなんてできません」

 目立つことはしたくない。ラズは父親に会いたくないし、妹にもできるだけ会わないほうがいいと思っている。調理人が騎士を訴えた日には、それはどんなやつだと注目を浴びるだろう。

「そうだな。悪かった。エカテリテのことを考えてくれて、ありがとう」

 団長はホッとしたように息を吐いた。

「MPポーションて、本当にまずくて驚きました。なのに高いのですね」

 ラズは初めて飲んだMPポーションのまずさで団長やウィス様が『魔力を回復するクッキー』に食らいついた理由を知ったような気がした。

「飲んだらしばらくあの味が口から消えないからな。ラズが飲んだのはMPポーション小だからまだマシなんだ」
「小?」
「回復が小さいんだ。アーサーは中ももっているけど、魔力がどれだけあるかわからない人間には小を少しだけ与えるんだ。魔力がなくなってきて具合が悪い相手には枯渇さえさせなけばいいから少量で様子を見る。そのへんはエカテリテの判断だろう」
「そうなんですね。あれでマシなんですか」
「ああ。大を使った後はしばらく食事したくないくらいだ」
「団長は大なんですね。さすが英雄です」

 給料何ヶ月ぶんだろうかと想像するだけでも怖い。

「いや。売ってるものは私やウィスじゃ間に合わないから特別製だ。アメージングという名前だったか」

 怖すぎる。

「凄い名前。他のが大中小なのに。知らないで俺が飲んだら一発で死にそうですね」

 魔力が少ないから溢れるだろう。そういう中毒で人が死ぬと聞いたことがある。

「アメージングはさすがに飲ませられないな。大中小と呼んでいるが名前は別にあるんだ。作者の名前がつくはずだ。だから最初はMPポーションLとか言ってたらしいんだが、いいものができたら支給されるものが変わる。同じLから始まることがあって、混乱するから大中小と呼ぶようにしたらしい」
「ああ、そういうことですか。でもアメージングも名前じゃないですよね」
「作者がこれ以上素晴らしいものはできないだろうと言ってつけたらしいぞ」

 自信の表れらしい。

「もう飲むことはないと思いますが、これを飲まないといけない騎士は俺が思っていたより大変な仕事だとわかりました」

 味覚が破壊されそうだ。

「飲まないでいられるほうがいいが……ラズは使える魔力が少ないだけで器自体は大きいからいざという時は小じゃ足りないと思う。大でも平気だと思うぞ」
「フフッ、気を遣ってくれなくていいですよ」
「いや、口づけた時ゆっくり時間をかけたのは私が楽しむだけじゃない」
「え……」

 危うくクレセントから落ちそうになった。

「ラズ、クレセントは大人しいが暴れないでくれ」

 ギュッと腰を掴まれると、なんだかソワソワしてしまった。母が初キスだとか言ってたのを思い出して思わず動揺してしまった。

「すみません」

 謝りながらも密着している身体を意識しないように気をつけた。

「なんだったか。そう、ラズの魔力の器は大きい。一度に使える量は少ないかもしれないが、持続性はあると思う。普通の魔法使いは朝から夕方まで魔法を使うことはできないんだ」
「でも俺の使う魔法はそんなに魔力がいらないものばかりですから……」
「効率もいいんだろうな。さっき応接室で見た本は、少ない魔力をいかに効率よく使うかを研究していた研究者のものがあったからな」

 院長が調べて買ってきてくれた本だからラズはよくわからなかった。

「俺は……魔力が少ないわけじゃない……のか」

 それでも伯爵家を継ぐには少なかったのだろう。それに今更だ。

「ラズ、クッキーを作るときに魔法を使ってるんじゃないか?」
「ええ、回復系の魔法を使っています。身体の弱い人にも人気なんですよ」
「ああ、わかる。ウィスは魔力が増えると言っていたが、私はそれよりも元気になると思ったからな」

 魔力が少し増えるのは甘い物を使っているからだろう。仕事で沢山魔力を使う騎士にクッキーを広めれば、バザーで沢山売れるかもしれない。計算機を振って指を丸の形にした(コインを表している)院長を想像して我に返ったが。

「子供達が笑顔になってくれたらいいなと思って、作り始めたのでそう言ってもらえて嬉しいです。あ、そこです。団長、今日はありがとうございました」

 荷物を運んでくれたこともそうだが、励ましてもらったような気がする。

「いや。役に立てたなら良かった。気をつけてな」

 団長に別れを告げて、ラズは古着屋と日用品の店をはしごした。団長にお菓子を持って帰ってもらわなければ荷物が邪魔で買い物ができなかったなと思いながら寮への帰路へついた。

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