4 / 49
第四話「殿下からのプレゼント」
しおりを挟む
「どうしたんだ? 具合が悪いのか?」
「い、いえ、大丈夫ですわ。お菓子が運ばれてきますから、よく手を洗っていただけですの」
殿下と向かい合わせにソファに座ってから、私はついさっき考えた選択肢を選んだことがいかに愚かなことかわかってしまった。
彼氏いない歴年齢のこの私が、どうやって殿下を惚れさせればいいの!?
そんな陽キャみたいなテクニック、私は具有していない。
俯いた顔を少しだけ上げて殿下を見る。
鮮やかな金髪に、やや釣り目の蒼い瞳。
背丈は私と同じくらいだけど、これから成長期がやってきてすぐに追い抜いてしまうのだろう。
綺麗な顔立ちをしていて、ああ、小説の表紙や挿絵で見た顔とそっくりだ……なんて考える。
「失礼致します」
扉がノックされ、ルルアが入ってくる。
アフタヌーンティーと、甘い香りの紅茶を持ってきてくれた。
ルルアがワゴンを片付けに部屋を出たあと、私は「どうぞ、召し上がってください」と殿下がスイーツに口をつけるのを確認してから食べる。
……あまり甘くない。
美味しいとは言い難いし、八歳のおやつにしては少し量が多くないかしら……?
「アイリスと、呼んでもいいか?」
「え? ええ」
まだ声変わりもしていない幼い殿下は、マカロンのクリームを口の端につけながら聞いてきた。
これ、私が「クリームが口についていますよ。世話が焼けますね、殿下……」って、殿下の唇に顔を寄せてクリームを取るべきなの!? そうなの!?
そういう行動をすれば殿下はときめいてくれるかしら、いえ、婚約者とはいえ初めて会った相手に顔を寄せられたら不快かも……。
というより、そんな風に殿方にいきなり迫ってしまうのは令嬢としてはしたないことだわ……。
と、悩んでるうちに殿下はナプキンで口を拭いてしまった。
白いナプキンが顔から下がって現れた唇には、もうクリームなどついていない。
殿下が後ろに控えている侍従に目配せをする。
気づかなかったが、侍従は両手に桃色の大きめな箱を持っていた。
赤と黄色のリボンで包装されていて、侍従はそれを殿下に渡す。
殿下は柔和な笑顔を私に向けた。
「今日はアイリスの誕生日だろう。それに初めて会ったから、挨拶の意味も兼ねて」
「え……」
「受け取ってくれないか」
殿下が大きな箱を私に差し出してきた。
笑みを浮かべる殿下の瞳には、少し緊張の色が滲んでいる。
貰わないのは失礼だと思って受け取ると、僅かに重かった。
「開けてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
赤と黄色のリボンを一つずつ解いていく。
しゅるりと音がして、リボンが完全に解けたあと桃色の箱を八歳の力で頑張って開ける。
そこには靴があった。
真っ白で、先端に薄水色のリボンがついている。
中底はライラックとその葉が水彩のように描かれていて、とても可愛らしかった。
「い、いいのですか? こんなものを貰って。私、何も用意していないのに……」
「ああ、構わない」
殿下がにこりと笑う。
私は再び箱の中から現れた可愛い靴を眺めた。
……正直、嬉しい。
お父様とお母様は私を外に出さないように部屋に閉じ込め、王太子妃になるための教育を施してきた人たちだから、誕生日プレゼントもこの国の歴史の本や経済学の本ばかりだった。
こんなに女の子らしいプレゼントを貰ったことはなかったものだから、嬉しさが胸の内から迫り上がり、笑みとなって零れていく。
この人が本当に私を捨てて、ミリアの元へ行ってしまうのだろうか。
最後には私をミリアに嫌がらせをした汚い女と見つめるようになるのだろうか。
そんなようには思えない……気がする。
「足のサイズは君のお母様から聞いた。……王太子からのプレゼントだ、大事にするんだぞ」
「ありがとうございます、殿下。大切にします」
「ああ」
私が礼を言ったあと、殿下はあまり私と話をせずに帰っていった。
その日は貰った靴を衣装部屋にしまわずに、ベッドの下に置いて眠る直前まで眺めた。
彼氏ができることのなかった前世の自分が、嘘みたいだ。
私は今、殿下という婚約者がいて良かったと思う。
今殿下のことを好きになれなくたって、きっとこれから好きになれる。
そう思いながら、瞼を閉じた。
「い、いえ、大丈夫ですわ。お菓子が運ばれてきますから、よく手を洗っていただけですの」
殿下と向かい合わせにソファに座ってから、私はついさっき考えた選択肢を選んだことがいかに愚かなことかわかってしまった。
彼氏いない歴年齢のこの私が、どうやって殿下を惚れさせればいいの!?
そんな陽キャみたいなテクニック、私は具有していない。
俯いた顔を少しだけ上げて殿下を見る。
鮮やかな金髪に、やや釣り目の蒼い瞳。
背丈は私と同じくらいだけど、これから成長期がやってきてすぐに追い抜いてしまうのだろう。
綺麗な顔立ちをしていて、ああ、小説の表紙や挿絵で見た顔とそっくりだ……なんて考える。
「失礼致します」
扉がノックされ、ルルアが入ってくる。
アフタヌーンティーと、甘い香りの紅茶を持ってきてくれた。
ルルアがワゴンを片付けに部屋を出たあと、私は「どうぞ、召し上がってください」と殿下がスイーツに口をつけるのを確認してから食べる。
……あまり甘くない。
美味しいとは言い難いし、八歳のおやつにしては少し量が多くないかしら……?
「アイリスと、呼んでもいいか?」
「え? ええ」
まだ声変わりもしていない幼い殿下は、マカロンのクリームを口の端につけながら聞いてきた。
これ、私が「クリームが口についていますよ。世話が焼けますね、殿下……」って、殿下の唇に顔を寄せてクリームを取るべきなの!? そうなの!?
そういう行動をすれば殿下はときめいてくれるかしら、いえ、婚約者とはいえ初めて会った相手に顔を寄せられたら不快かも……。
というより、そんな風に殿方にいきなり迫ってしまうのは令嬢としてはしたないことだわ……。
と、悩んでるうちに殿下はナプキンで口を拭いてしまった。
白いナプキンが顔から下がって現れた唇には、もうクリームなどついていない。
殿下が後ろに控えている侍従に目配せをする。
気づかなかったが、侍従は両手に桃色の大きめな箱を持っていた。
赤と黄色のリボンで包装されていて、侍従はそれを殿下に渡す。
殿下は柔和な笑顔を私に向けた。
「今日はアイリスの誕生日だろう。それに初めて会ったから、挨拶の意味も兼ねて」
「え……」
「受け取ってくれないか」
殿下が大きな箱を私に差し出してきた。
笑みを浮かべる殿下の瞳には、少し緊張の色が滲んでいる。
貰わないのは失礼だと思って受け取ると、僅かに重かった。
「開けてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
赤と黄色のリボンを一つずつ解いていく。
しゅるりと音がして、リボンが完全に解けたあと桃色の箱を八歳の力で頑張って開ける。
そこには靴があった。
真っ白で、先端に薄水色のリボンがついている。
中底はライラックとその葉が水彩のように描かれていて、とても可愛らしかった。
「い、いいのですか? こんなものを貰って。私、何も用意していないのに……」
「ああ、構わない」
殿下がにこりと笑う。
私は再び箱の中から現れた可愛い靴を眺めた。
……正直、嬉しい。
お父様とお母様は私を外に出さないように部屋に閉じ込め、王太子妃になるための教育を施してきた人たちだから、誕生日プレゼントもこの国の歴史の本や経済学の本ばかりだった。
こんなに女の子らしいプレゼントを貰ったことはなかったものだから、嬉しさが胸の内から迫り上がり、笑みとなって零れていく。
この人が本当に私を捨てて、ミリアの元へ行ってしまうのだろうか。
最後には私をミリアに嫌がらせをした汚い女と見つめるようになるのだろうか。
そんなようには思えない……気がする。
「足のサイズは君のお母様から聞いた。……王太子からのプレゼントだ、大事にするんだぞ」
「ありがとうございます、殿下。大切にします」
「ああ」
私が礼を言ったあと、殿下はあまり私と話をせずに帰っていった。
その日は貰った靴を衣装部屋にしまわずに、ベッドの下に置いて眠る直前まで眺めた。
彼氏ができることのなかった前世の自分が、嘘みたいだ。
私は今、殿下という婚約者がいて良かったと思う。
今殿下のことを好きになれなくたって、きっとこれから好きになれる。
そう思いながら、瞼を閉じた。
23
あなたにおすすめの小説
【読切短編】婚約破棄された令嬢ですが、帳簿があれば辺境でも無双できます ~追い出した公爵家は、私がいないと破産するらしい~
Lihito
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、身に覚えのない罪で婚約破棄され、辺境へ追放された。
だが彼女には秘密がある。
前世は経理OL。そして今世では、物や土地の「価値」が数字で見える能力を持っていた。
公爵家の帳簿を一手に管理していたのは、実は彼女。
追い出した側は、それを知らない。
「三ヶ月で破産すると思うけど……まあ、私には関係ないわね」
荒れ果てた辺境領。誰も気づかなかった資源。無口な護衛騎士。
アイリスは数字を武器に、この土地を立て直すことを決意する。
これは、一人の令嬢が「価値」を証明する物語。
——追い出したこと、後悔させてあげる。
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい
megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。
転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚!
魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる