22 / 49
第二十二話「働き先、ゲットです!」
しおりを挟む「……相変わらず台風みたいな人ね」
渡された地図を頼りに、ベスティエ街と王都の境目の辺りへと歩を進める。
大通りの信号をいくつも渡って、宝飾店を右に曲がると……あった。
この国の言葉で『レビィ』と書かれているカフェだ。
フレッドの言っていた通り、そこそこ行列ができている。
「ひとまず並ばないと。メニューは……あ、ありがとうございます!」
最後尾に並ぶと、店員がメニューを持ってきてくれた。
メニューを開くと、マルゲリータからビスマルクなどの定番ピザ、カルボナーラなどのパスタの他にも、スイーツが豊富でフレッドの言う通りガトーショコラの食べ比べがある。
香ばしく焼いたしっかりとした食感のガトーショコラと、しっとり食感の定番ガトーショコラ、季節のガトーショコラを楽しめるらしい。
今月はイチゴのガトーショコラだ。
「うわぁ~~! 美味しそう!」
思わず涎が垂れそうになってしまい慌てて無表情を取り繕う。
並んでいる間にちらりと店内を窺うと、店員がオーダーを取ったり会計を行ったり忙しなく働いていた。
というか……獣人と人間両方が働いている。
ここで働けばモフモフを堪能できるかもしれないと……内心ワクワクしてしまっていた。
あ、エリオットから異性のモフモフには触らないでって言われてるんだった。
女の子だけ触ろう。
「一名でお待ちのアイリス様。ご案内致します」
兎の獣人である可愛らしい女の人が私を見てにこりと笑う。
カフェの内装はピンクと白! というような感じで、白の壁に桃色のカーテンが施されている。
ピンクと白の風船が天井に向けて飾られていて、なんというか……若い子が喜んで行きそうなカフェだ。
案内された席の椅子やテーブルも白くペンキで塗られていて、ピンクと白のチェックのテーブルクロスが敷かれている。
何やら兎のぬいぐるみもテーブルに飾ってあった。
さっき店内を見ていたときは店員に夢中で気づかなかったけれど……結構ラブリーな雰囲気のお店なんだな。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、じゃあこのガトーショコラの食べ比べセットと、ホットレモンティーを一つください」
「かしこまりました」
店員がいなくなってから、辺りを見回す。
どうやらホールは兎の獣人の可愛らしい人と、今私にオーダーを取った大人びた女性だけで回しているみたいだ。
もうお昼時なのに、その二人だけでホールを回すのはキツいだろう。
確かに人手が足りていなさそうだ。
それに席にあったメニューには紙が挟んであって、『カフェレビィで働きませんか? お仕事仲間募集中!』と書かれていた。
しばらく経つと店員がガトーショコラを持ってきてくれて、メニュー通りの説明もしてくれた。
「美味しそう~~! それじゃあいただきま……あ、食物の神よ、ありがたく頂戴します」
思わず前世で食事を頂くときの挨拶をしそうになってしまった。
これは前世を思い出して以降、なかなか慣れない。
まずはこんがりと焼き上げたガトーショコラを一口。
「んー! サクサクしっとり! 美味しい!」
外側はサクサクで香ばしく、中はしっとりしていて舌に溶けていく。
しっとり食感の定番ガトーショコラは、ナッツが含まれているのかコクがあってこれもまた美味しい。
イチゴのガトーショコラも食べてみると、イチゴの香りがふんわり鼻に抜けて、ほろほろとした食感でとても美味しかった。
レモンティーもレモンの味がしっかり感じられ、紅茶もちゃんと店で作っている味わいだ。
絶品というのも頷ける。
ピザやパスタなどの料理も食べてみたいと感じるほど、美味であった。
「あの……すみません」
「あ、お会計ですか?」
ガトーショコラとレモンティーを平らげたあと、私は店員を呼んだ。
兎の獣人の店員がやってきて、耳をぴょこぴょこ動かしている。可愛い。モフモフしたい。
「いえ、えっと……先程この紙を読みまして。私もこちらで働きたいな~と思っているのですが……」
「えっ! 本当ですか! 店長呼んできますね!」
フレッドに勧められたと言っても伝わりにくいだろうから、メニューに挟まれていた『お仕事仲間募集中』の紙を見せる。
兎の獣人ははりきって店長を呼びに行ってしまった。
「ちょうどホールが足りてなかったんだ! そろそろ聖夜祭だから、人手不足だと思っていてね」
店長のルウィーナさんは熊の獣人で、どっしりとした体型で顔立ちも濃く、二十代後半くらいの若さだった。
ルウィーナさんから聞いた話では、このカフェレビィは聖夜祭付近が繁忙期らしく、それまでにホールの人を集めたかったらしい。
それでもなかなか集まらず、私はどうやら救世主のように感じたようだ。
「そ、そんなすぐ決めていいんですか?」
「なに、従業員はいつもすぐ決めてるのさ。あたしは勘がとても鋭くてね。君はアイリスと言うんだろう? アイリスちゃんから嫌なオーラなんて一つも見えやしない。どうか一緒に働いてくれないかい? 給与もしっかり払うよ」
「それなら……よろしくお願いします」
私がお辞儀すると、ルウィーナさんも「よろしくね! アイリスちゃん!」と元気に笑ってくれた。
な、なんだか日本と違ってすぐに働けてしまうのが若干不安だけれど……。
素性を明かせない身としては、かなり助かった。
会計のときにルウィーナさんがやってきて、明日来て欲しいと言われた。
明日は元々予定がない日だったし、今日エリオットに言えば大丈夫だろう。
会計を行ってくれた兎の獣人からも「これからよろしくお願いしますね」とニコっと笑ってくれて、良い職場なのかもしれないと感じた。
「……よし、頑張ろう」
店を出て、一人でガッツポーズをとる。
しっかり働こう。自分のためにも、エリオットのためにも。
33
あなたにおすすめの小説
【読切短編】婚約破棄された令嬢ですが、帳簿があれば辺境でも無双できます ~追い出した公爵家は、私がいないと破産するらしい~
Lihito
ファンタジー
公爵令嬢アイリスは、身に覚えのない罪で婚約破棄され、辺境へ追放された。
だが彼女には秘密がある。
前世は経理OL。そして今世では、物や土地の「価値」が数字で見える能力を持っていた。
公爵家の帳簿を一手に管理していたのは、実は彼女。
追い出した側は、それを知らない。
「三ヶ月で破産すると思うけど……まあ、私には関係ないわね」
荒れ果てた辺境領。誰も気づかなかった資源。無口な護衛騎士。
アイリスは数字を武器に、この土地を立て直すことを決意する。
これは、一人の令嬢が「価値」を証明する物語。
——追い出したこと、後悔させてあげる。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい
megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。
転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚!
魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる