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側妃ですか?
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アンドリュー王太子の執務室は雑然としている。
王太子の部屋とはいえ、お世辞にもきれいとは言い難い。
本が山積みになり、その積み重ねた本がそこいらに何ヶ所もある。
一言で言うなれば「汚部屋」。
とても落ち着いてられる部屋ではない。
机も本が無造作に置かれ、散らかり放題。
部屋は当然臭い。
なぜならば、王太子は葉巻を吸うからだ。
しかも、王太子の服も葉巻の匂いで臭い。
とどめは匂いのきついお茶を飲むため、口臭も酷い。
部屋はとにかくとっ散らかっている。
これがこの国の王太子の部屋かと思うと、世も末だ。
王太子には姉が二人いるが、この国は男系男子に王位継承権がある。
第二王子は身体が弱く、王位を継ぐのは難しい。
第三王子もいるが、第三王子にまで王位継承権が行くかはわからない。
窓の外はみぞれが降っている。
春とはいえ、まだまだ寒い。
執務室の暖炉には火が燃え盛っている。
凍えるような外の寒さをかき消すように。
しかし、寒さは容赦無く襲ってくる。
金色の髪をボサボサにして、赤い三白眼がキャサリンを睨んでいる。
この男こそ、この国の王太子アンドリューだ。
王太子はソファーにふんぞり返り、足を組み、葉巻を吸っている。
その横には桃色の髪を左側で束ねた女性がいた。
アトキンス男爵令嬢のイザベラだ。
キャサリンは嫌な予感を感じた。
「王太子殿下。こちらへ参りました」
「キャサリン。きみには話したい事がある」
「それより、これはどういう事なんですか? ご説明願いますわ王太子殿下」
「その事についてだ」
王太子は葉巻についた灰を灰皿に落とし込んだ。
「私達、婚約したんですの」
イザベラが弾んだソプラノの声で言った。
「こ……婚約?」
キャサリンは唾を飲み込んだ。
「どういう事ですか。婚約していたのは私と王太子殿下ではありませんか? 説明して下さい、王太子殿下」
「キャサリン! お前は側妃になったんだ」
側妃ですって!?
俄に受け入れられるわけが無い。
いつの間にイザベラと婚約していたのか?
「なぜです? イザベラ嬢はアトキンス男爵の唯一の後継者ではありませんか」
アトキンス男爵には子女はイザベラしかいない。
したがって、アトキンス男爵家の後継はイザベラただ一人。
「ふっ。お前はアトキンス男爵家の事情を知らないからそんな事が言えるんだ」
「え!? どういう事です?」
「イザベラ。袖を捲ってみろ」
イザベラはおもむろに服の袖を捲った。
そこには痛々しい青タンがあった。
「青タン……」
「そうだ。彼女はアトキンス男爵から暴行を受けているんだ。きょうだいもおらず、相談できる人が誰もいない。それに、このままアトキンス家に居続けていたら、アトキンス男爵に殺されてしまう」
アトキンス男爵が暴力を?
アトキンス男爵はおおらかで社交的で有名。
暴力を振るう人間とは程遠い。
「アトキンス男爵は誠実で紳士な方で有名ですよ。作り話はやめて下さい」
「お父様は外面が良いの。おだてられれば、どこの馬の骨ともわからない人に宝石を買い与えてしまうの」
本当なのか?
目の前の人物が嘘をついているとしか思えない。
その青タンもどこか自分でぶつけたに決まっている!!
「外面が良い?」
「そういうことだー。わかったか!」
アンドリューは机を激しく叩いた。
「知りませんわ!」
「お前は側妃なんだ。そうだよ? 一応お前とも婚姻関係結んではいるんだからな」
側妃……。
もはや、ここまでくれば婚約破棄一択だ。
「アンドリュー王太子殿下。婚約は破棄させていただきますわ」
「ふっ」
アンドリューは葉巻を咥えた。
そして、勢いよく鼻から煙を吐き出した。
「わかった。キャサリン・アメリア・フレミング。お前とは婚約破棄してやろう。好きにしろよ、糞ったれが」
「スカっとしましたわ」
「そうとわかったら、さっさと王宮から出ていけ!! 馬車は用意しないぞ。この糞寒い中自分の足で帰るんだな」
アンドリューは立ち上がった。
「はい。そうする事にしますわ」
「まー、一人じゃ心細いだろうし、野犬やら魔物やらがウロウロしている。お前に死なれたら俺に責任転嫁される。それは困る。おい、ヤン。護衛のエドワードと侍女のエスターを連れて来い」
「はい、王太子殿下」
ヤンは踵を返した。
「三人で帰るんだな。エスターなら魔法も使えるし、エドワードは剣術に長けている。帰路は彼らに任せるのが賢明だな。まー、何もできない貴族令嬢が魔物やらと闘えるとは思えないがな」
人を小馬鹿にしている。
しかし、キャサリンは魔法を少し習った事がある。
「やっぱり、アンドリュー様は私のものですわ」
元が政略結婚だ。
物心がついた時から既にアンドリューと婚約が決まっていた。
それは王室とフレミング公爵家が交流をしていたからだ。
「フレミング公爵にはこう言っとけ! 俺の同意無しで勝手に婚約者を決めたことにご立腹だとな」
「王太子殿下。エドワードとエスターを連れて来ました」
「ようし。ありがとう。ヤン」
アンドリューは再び立ち上がった。
「キャサリンが俺を裏切ったから、王宮から出ていってもらう。アンドリュー。エスター。お前らも今日で以って解雇だ。キャサリンに同行してフレミング家に行ってくれ!」
「「わかりました。王太子殿下」」
「さあ、そうとわかったらお前ら出てけ!!」
アンドリューは机を蹴飛ばした。
なんて乱暴な。
アンドリューがついに本性を表した。
「こんな男、こちらから願い下げだわ」
王太子の部屋とはいえ、お世辞にもきれいとは言い難い。
本が山積みになり、その積み重ねた本がそこいらに何ヶ所もある。
一言で言うなれば「汚部屋」。
とても落ち着いてられる部屋ではない。
机も本が無造作に置かれ、散らかり放題。
部屋は当然臭い。
なぜならば、王太子は葉巻を吸うからだ。
しかも、王太子の服も葉巻の匂いで臭い。
とどめは匂いのきついお茶を飲むため、口臭も酷い。
部屋はとにかくとっ散らかっている。
これがこの国の王太子の部屋かと思うと、世も末だ。
王太子には姉が二人いるが、この国は男系男子に王位継承権がある。
第二王子は身体が弱く、王位を継ぐのは難しい。
第三王子もいるが、第三王子にまで王位継承権が行くかはわからない。
窓の外はみぞれが降っている。
春とはいえ、まだまだ寒い。
執務室の暖炉には火が燃え盛っている。
凍えるような外の寒さをかき消すように。
しかし、寒さは容赦無く襲ってくる。
金色の髪をボサボサにして、赤い三白眼がキャサリンを睨んでいる。
この男こそ、この国の王太子アンドリューだ。
王太子はソファーにふんぞり返り、足を組み、葉巻を吸っている。
その横には桃色の髪を左側で束ねた女性がいた。
アトキンス男爵令嬢のイザベラだ。
キャサリンは嫌な予感を感じた。
「王太子殿下。こちらへ参りました」
「キャサリン。きみには話したい事がある」
「それより、これはどういう事なんですか? ご説明願いますわ王太子殿下」
「その事についてだ」
王太子は葉巻についた灰を灰皿に落とし込んだ。
「私達、婚約したんですの」
イザベラが弾んだソプラノの声で言った。
「こ……婚約?」
キャサリンは唾を飲み込んだ。
「どういう事ですか。婚約していたのは私と王太子殿下ではありませんか? 説明して下さい、王太子殿下」
「キャサリン! お前は側妃になったんだ」
側妃ですって!?
俄に受け入れられるわけが無い。
いつの間にイザベラと婚約していたのか?
「なぜです? イザベラ嬢はアトキンス男爵の唯一の後継者ではありませんか」
アトキンス男爵には子女はイザベラしかいない。
したがって、アトキンス男爵家の後継はイザベラただ一人。
「ふっ。お前はアトキンス男爵家の事情を知らないからそんな事が言えるんだ」
「え!? どういう事です?」
「イザベラ。袖を捲ってみろ」
イザベラはおもむろに服の袖を捲った。
そこには痛々しい青タンがあった。
「青タン……」
「そうだ。彼女はアトキンス男爵から暴行を受けているんだ。きょうだいもおらず、相談できる人が誰もいない。それに、このままアトキンス家に居続けていたら、アトキンス男爵に殺されてしまう」
アトキンス男爵が暴力を?
アトキンス男爵はおおらかで社交的で有名。
暴力を振るう人間とは程遠い。
「アトキンス男爵は誠実で紳士な方で有名ですよ。作り話はやめて下さい」
「お父様は外面が良いの。おだてられれば、どこの馬の骨ともわからない人に宝石を買い与えてしまうの」
本当なのか?
目の前の人物が嘘をついているとしか思えない。
その青タンもどこか自分でぶつけたに決まっている!!
「外面が良い?」
「そういうことだー。わかったか!」
アンドリューは机を激しく叩いた。
「知りませんわ!」
「お前は側妃なんだ。そうだよ? 一応お前とも婚姻関係結んではいるんだからな」
側妃……。
もはや、ここまでくれば婚約破棄一択だ。
「アンドリュー王太子殿下。婚約は破棄させていただきますわ」
「ふっ」
アンドリューは葉巻を咥えた。
そして、勢いよく鼻から煙を吐き出した。
「わかった。キャサリン・アメリア・フレミング。お前とは婚約破棄してやろう。好きにしろよ、糞ったれが」
「スカっとしましたわ」
「そうとわかったら、さっさと王宮から出ていけ!! 馬車は用意しないぞ。この糞寒い中自分の足で帰るんだな」
アンドリューは立ち上がった。
「はい。そうする事にしますわ」
「まー、一人じゃ心細いだろうし、野犬やら魔物やらがウロウロしている。お前に死なれたら俺に責任転嫁される。それは困る。おい、ヤン。護衛のエドワードと侍女のエスターを連れて来い」
「はい、王太子殿下」
ヤンは踵を返した。
「三人で帰るんだな。エスターなら魔法も使えるし、エドワードは剣術に長けている。帰路は彼らに任せるのが賢明だな。まー、何もできない貴族令嬢が魔物やらと闘えるとは思えないがな」
人を小馬鹿にしている。
しかし、キャサリンは魔法を少し習った事がある。
「やっぱり、アンドリュー様は私のものですわ」
元が政略結婚だ。
物心がついた時から既にアンドリューと婚約が決まっていた。
それは王室とフレミング公爵家が交流をしていたからだ。
「フレミング公爵にはこう言っとけ! 俺の同意無しで勝手に婚約者を決めたことにご立腹だとな」
「王太子殿下。エドワードとエスターを連れて来ました」
「ようし。ありがとう。ヤン」
アンドリューは再び立ち上がった。
「キャサリンが俺を裏切ったから、王宮から出ていってもらう。アンドリュー。エスター。お前らも今日で以って解雇だ。キャサリンに同行してフレミング家に行ってくれ!」
「「わかりました。王太子殿下」」
「さあ、そうとわかったらお前ら出てけ!!」
アンドリューは机を蹴飛ばした。
なんて乱暴な。
アンドリューがついに本性を表した。
「こんな男、こちらから願い下げだわ」
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