【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari

文字の大きさ
2 / 11

帰路

しおりを挟む
キャサリンはエスターとエドワードと共に家路に急ぐ。

空は暗い。みぞれは雨に変わっていた。

寒い……。頭に布を纏っているが、布はぐっしょりと濡れている。


街中は寂れている。

以前、ここには何件か民家があったが、今はどこも空き家になっている。

人間の代わりにいるのが魔物だったり、野犬だったりするのだ。


魔物は主にゴーゴンやガーゴイルといった魔物だ。

辺りは静かだ。

キャサリンたちの足音だけが聞こえる。


「キャサリン様。アンドリュー王太子殿下も酷いですわ! 馬車も用意してくださらないなんて」

確かにそう思った。

自分たちの足で帰ったら、何日かかるかわからない。


馬車で辛うじて3日。

「王太子殿下は自分のことしか考えてないわ。まさかイザベラがいたなんて思わなかったわ」


青天の霹靂だった。

側妃にするなど聞いた覚えはない。

イザベラが仮に本当にアトキンス男爵に暴力を振るわれていたとしても、正妃にする必要はあるのか?

「イザベラ様はなぜ王太子殿下のもとに?」

「イザベラはアトキンス男爵から暴力を受けているみたいなの。それで、アトキンス男爵にいつか殺されてしまうのでは? と王太子殿下か危惧して保護したみたいなの。でも、正妃にする必要はある?」

「イザベラ様を保護するのは確かにありかもしれません。でも、正妃にする必要はありませんわ」

それに、机を殴る、蹴るのアンドリューの姿。

暴力を振るいそうなのはむしろアンドリューのような気がした。

「そうだよね、エスター」

エスターはキャサリンの気持ちを理解していた。


「でも、むしろ王太子殿下の方が暴力的ですわ」 

「騎士団長から聞いた話だが、やはり王太子殿下は瞬間湯沸かし器だと聞きました」

と、エドワード。

瞬間湯沸かし器。滑稽だった。

騎士団長はなぜそんな事まで知っていたのか?

「瞬間湯沸かし器なんて初耳だわ」

「そうみたいです、キャサリン様」

キャサリンは思わず吹き出してしまった。

「キャサリン様。むしろ、他のやさしい王侯貴族の方と一結ばれた方がしあわせになるような気がしますわ」

そのような気がする。

アンドリューと別れて正解だったのかもしれない。


「でもね、ヌケヌケと正妃になろうとしたイザベラ様もイザベラ様ですわ」

「イザベラ嬢が王宮に出入りしていた話は有名です」


やはり。

「でも、大丈夫ですわ。いつか二人には罰が当たりますわ。神様は見ていますから」


と、そこへ後ろから物音がした。

なんと、ゴーゴンの群れだった。


「きゃあ!」

「キャサリン様、大丈夫です。僕がお守り致します」


エドワードは槍を、エスターは杖を構えた。


エスターは呪文を唱えると、杖の先からイカヅチを呼んだ。



イカヅチはまたたく間に魔物たちに直撃した。


魔物たちは地面へと落ちていった。

ガーゴイルたちをやっつけた。


キャサリンはこんな時、自分も魔法が使えたら……と思った。


代わりのキャサリンのスキルは錬金術。

石を宝石に変えることだ。


しかし、錬金術は戦闘で役に立たない。




兄のレックスは魔法が使えなかった。

一人で森に入ったまま行方不明になった。


恐らく、魔物たちに食べられたのだろう……と言われている。



雨粒が大きくなってきた。

そこに1軒の空き家があった。


廃墟の町。

魔物たちによって滅ぼされたのだろう。


「今日はここで野宿をしよう」

エドワードが言った。


3人は家の中へ入った。

家の中も寒かった。


それもそのはず。

窓は半開きになっているのだから。


「キャサリン様。貴族令嬢が野宿など屈辱でしょう」

「はい」

これも、アンドリューとイザベラによって仕組まれた事。


「ねぇ、エドワード」

「何ですか? キャサリン様」

「私はアトキンス男爵が暴力をふるうようには思えないんだけど」

「どうなんでしょうか。アトキンス男爵は野犬を駆除することに躍起になっている……と風の噂で聞きましたが」

「え!?」

キャサリンは一瞬固まってしまった。


「何でも野犬の肉を食らうみたいですよ」

「そんな!!」

なんというゲテモノ食らい。

キャサリンも面白半分で友達と野犬の肉を食べたが、とてもではないけれど食べられたものではなかった。

「ゲテモノ食らいなのね、アトキンス男爵は」

「はい。アトキンス男爵は国の要職に就いていた事もあるみたいですよ」

随分なエリートなのだな……と思った。

しかし、その娘とくれば……。


「ねぇ、キャサリン様。イザベラ様のお母様ってどうされているんですの?」

「亡くなったみたいよ」

事実、流行り病で数年前にこの世を去ったと聞いた。


「そうなんですか。イザベラ様も気の毒ですわ」

「気の毒は気の毒でも、だからと言って他人の婚約者を奪うのは余りにもイレギュラー過ぎる」 

その通り。

いつの間にか正妃になっていたのだから……。


「でも、いいの。王太子殿下との婚約は所詮政略結婚なんだから」


王侯貴族の間では既に幼少期より婚約相手が決まっていたりする。


みな、地位と名誉のために……。


そして、フレミング家と王室との関係は深く、よく交流を続けていた。


そんなキャサリンも物心がついた頃から既に王太子との結婚が決まっていた。












雨は更に強くなりだした。

屋根を勢いよく叩きつけている。


人生で初めての野宿。

その野宿は春先に降る冷たい雨の中だった。


まだまだ凍死の恐怖との隣合わせ。 



しかし、キャサリンは疲れていて、そのまま寝込んでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi(がっち)
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

【完結】私に冷淡な態度を取る婚約者が隠れて必死に「魅了魔法」をかけようとしていたらしいので、かかったフリをしてみました

冬月光輝
恋愛
キャメルン侯爵家の長女シャルロットは政治的な戦略としてラースアクト王国の第二王子ウォルフと婚約したが、ウォルフ王子は政略結婚を嫌ってか婚約者である彼女に冷淡な態度で接し続けた。 家のためにも婚約破棄されるわけにはいかないので、何とか耐えるシャルロット。 しかし、あまりにも冷たく扱われるので婚約者と会うことに半ばうんざりしていた。 ある日のことウォルフが隠れて必死に呪術の類のようなものを使おうとしている姿を偶然見てしまう。 調べてみるとそれは「魅了魔法」というもので、かけられた者が術者に惚れてしまうという効果があるとのことだった。 日頃からの鬱憤が溜まっていたシャルロットはちょっとした復讐も兼ねて面白半分で魔法にかかったフリをする。 すると普段は冷淡だった王子がびっくりするほど優しくなって――。 「君はどうしてこんなに可憐で美しいのかい?」 『いやいや、どうしていきなりそうなるのですか? 正直に言って気味が悪いです(心の声)』  そのあまりの豹変に気持ちが追いつかないシャルロットは取り敢えずちょっとした仕返しをすることにした。 これは、素直になれない王子と令嬢のちょっと面倒なラブコメディ。

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

処理中です...