公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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15. 遭遇

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 こちらは王宮内の王妃の執務室。王妃、オスカー、エレナ、アリス、宰相、ジュリアが揃っていた。いや、正確には揃ってしまったと言うべきか。

「あら、宰相にジュリア早かったのね。そうよね!やっとオスカーと婚約できるのだもの。気持ちがはやってしまうわよね」

 婚約するのは王妃かと思ってしまうほど嬉しそうな様子にわざとか……と察する面々。若い乙女のようにキャッキャとしている様はとても一国の王妃とは思えない。愚かな……人の妬み、暗い感情とは恐ろしいとエレナは思う。

 宰相とジュリアは王妃の言葉に笑顔を浮かべつつ手はビッショリと濡れているのをお互いに感じていた。下手に言葉を発せば美しき獣が飛びかかってきそうな気がして……。

「ジュリア様」

 うおっ……心臓が跳ねる。かろうじて身体がビクつくのは我慢できた。無駄だろうが平静を装い返事をする。

「はい、公爵様」

 臆してはならない。彼女が呼び捨てから敬称を付けた呼び名に変えたことはとりあえず皇太子妃として認められたということ。だが、それも誠に意味のある敬称となるか、それともただの呼び名になるかは今後の自分次第だ。

「この度は皇太子との婚約おめでとうございます。誠に遺憾ながら王家と我が家との縁はなかったようですが、王家と宰相ご一家がさらなる繁栄を得ることを心より祈っております」

 エレナの言葉に見事なカーテシーで返すジュリア。エレナがすっと手にしていた扇を振ったので顔を上げる。次は宰相に視線を向けるエレナ。視線が交わる。扇で口元を覆ったエレナの目元が語る。

 ーーーーーどうなろうとうちには関係ないけれど……と。

 自国の問題をどうでも良いとは忠臣としては終わっていると思うが、それがカサバイン家。一騎当千の猛者揃い。自分たちに火の粉が降りかからなければそれで良し。皇太子妃の座を奪われたことなどカサバイン家にとってはどうでも良いことなのだ。

 目の前の美魔女を見る宰相。大将軍であるロナルドは武には優れていたがもともと書類仕事が得意ではなかった。他者に頼る姿がしばしば見られるほどだった。しかし、この目の前の女性と結婚して暫くするとお前は誰だと思うほど処理能力が上がった。まだ出仕前の自分にまでその噂は届いた。今ではお捌き将軍なんてあだ名までつけられて……。そんなあだ名羨ましくはないが……。目の前の女傑は一体どんな手を使ったのか。子どもたちもこの親にしてこの子ありという子供ばかり。

 皆がピリピリしている中、再び胸糞悪い声が聞こえてきた。

「それにしても……本当にありがとう。我が国のためにアリスを……」

 犠牲にしてくれてーーー言葉にはしないが、誰もが察した。

「アリス。あなたは皇太子妃教育を全てやり遂げた立派なレディよ。ダイラス国の王子と結婚しても王子妃として立派にやっていけるわ」

 すっとアリスの両手を握る王妃。

「ありがとうございます、王妃様。我が国とダイラス国の架け橋となれることを誇りに思い嫁ぎたいと思います」

 笑って言っているが、まじでそう思っているのかと疑わしいほどその瞳は冷たい。だからこそ、王妃の顔に笑みが花開く。

「ダイラス国は我が国より格下の国……だからあまり大々的に喜ばしく送ってあげると我が国に傷がついてしまう可能性があるわ。だから私達王家のものは見送りには行けないけれど……頑張ってね」

 これでお別れ……と音には出さず、口だけで紡ぐ。なんだその変な理屈は。見送りたくないだけだろうに。それに、ダイラス国にこの花嫁は蔑ろにしてよいと言っているようなものでもある。

 今の会話でわかるようにアリスは隣国のダイラス国に嫁ぐことになった。もとは同じような国力だったがカサバイン家の者たちにより国力に差ができてしまった。戦争にでもなったらボロ負けだろう。その為、ダイラス国から王女がいない王家の代わりに宰相家に縁談の申し入れがされた。カサバイン家に申し入れがなかったのは、どんなことになるかわからないから。
 
 王妃は溢れる笑みが抑えられない。恐ろしい一族の娘が王家に蔑ろにされながら嫁いでくる。それを家族も受け入れている。彼らはそれをどんなふうに受け取るだろうか。ダイラス国でどのような扱いを受けるか目に浮かぶよう。


 王妃はアリスに視線を向けるとその目を見開いた。

 アリスは王妃を蕩けるような顔で見ていた。

 愉しくて愉しくてしょうがない顔。


 
 ゆっくりとアリスは音もなく口を開く。

 ご・め・ん・な・さ・い


 王妃は訝しげな顔になる。

 

 フフッおもしろい。期待しているところ申し訳ないが王妃の考えはただの妄想で終わるだろう。王妃が妄想でニヤニヤしているさまが無様でおもしろくて仕方がない。

 それにアリスは楽しみで仕方ないのだ。ダイラス国で出会うであろう愚か者たちとのやり取りが。

 様子に気づいた王妃とアリス以外のものたちは二人からさり気なく距離を取っていた。


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