公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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25. 大掃除③

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 セイラの言葉に唖然としていた女は、はっとすると再び叫んだ。

「でもっ!以前嫌がるあの女に宝石をリリア様に譲るように言っていたじゃないですか!」

 まだ言うか!!あの女って言うべきでないとなぜわからない!それにリリア、リリアと何度も自分の名前を出さないでほしい。

「「「……?」」」 

 カサバイン家の面々は皆不思議そうな顔をしている。

「あの……たぶん私がアリスが作った魔法石を欲しがったときのことだと思います……」

「「ああ!アリスが本物のルビーを渡そうとしていたやつね!!」」

「えっ……?えっ!?魔法石?本物?」

 焦る使用人を嘲るように見る周囲。

「はっ!お前、本物と偽物の違いもわからないのか」

「あら、女性をそのように笑うものじゃないわよ」

 と言いつつ、口元も目も愉しそうに笑みの形になっているエミリア。

「仕方ないわよ。アリスが魔法で作る魔法石はすごい出来だもの。魔力も宿ってるからかなり高い値段で売れるレベルよ」

「下手したら宝石よりも価値があるぞ。まあ本人は宝石のほうが価値があると思ってるからリリアを思って本物を譲ろうとしていたんだろうな」

「あの子は賢いし世の中もよく見てるけど、魔法石の価値を重視してないからね。本人に膨大な魔力があるからそんなものを欲しがる人間が理解できないのよね。それに比べてあなたはよく理解できるものね」

 じっと視線を向けられビクッとするリリア。ちなみに魔法石は魔法で生み出した宝石みたいなものだ。アクセサリーとしても需要が高いが、壊すと魔力が一時的に上がる効果もある。

「恐縮です」

 図々しいと言われているようで思わず下に視線が向く。

「やっぱり!!!」

 一際大きい声がした。使用人の女だ。

「やっぱりあの女よりリリア様の方が可愛いんじゃないですか!!!」

 どうしてそうなる。もう辞めてほしい。リリアの目尻に涙がたまる。

「だって……だって!リリア様に価値のある方を渡すように言ってたじゃないですか!!」

 皆近くにいるものと顔を見合わす。

 ーーーーー頭が悪すぎる。

 今までの会話でどうしてそう思うのか。二人がアリスに魔法石の方をあげるように言ったのはアリスの魔力は国内一。魔力が宿ったアクセサリーを持っているよりも宝石を持っている方が社交場で身につけられる。それにアリスが勧めていたのは本人が気に入っているものだった。

 それに、リリアの顔色が先程から悪いのが女には見えないのか。本当に見る目のない女。

「そうね」

 皆が声の方をばっと見た。エミリアだ。

「あら!もちろんアリスの方が可愛いわよ。だけど、リリアだってそれなりに可愛いわよ。だって……血のつながった妹だもの」

 言っていることはまともだ。まともなんだが皆は思った。お前が言うか?と。

「ねえ皆?」

「あっああ……。てか普通」

「まあ、普通」

「うん、普通に」
 
 普通。リリアの顔色が普段通りの色に戻った。彼らは別に彼女を冷遇しているわけではない。

 男衆からはまあ……普通の妹のように扱われた?使用人たちはアリスへの言動と比べて優しかったと言うが、言い換えれば厳しくする必要がないのだ。だってどんな人間になろうともどうでも良いから。

 女衆とは会えば喋るし、プレゼントだってくれる。……まあ、彼女たちにとって不要なものばかりだが。中には髪の毛とかラブレターとか入ってるものもあった……一体誰からもらったものなのか。まあ売ってしまえば金になるので受け取っている。

 妹扱いと言ってよいのか微妙なところ。

 エミリアだって、リリアを嫌いなわけではない。恨んでいるわけでもない。もちろん好きでもないが。何せ大きくなってからの不倫とか生理的に受け付けない。とはいうもののリリアを責めるのは違うと理解している。
 
 お菓子に関しては……まあ、単純にもったいないということもある。そして、エミリアは国一と言われる治癒士。魔法だけでなく薬の開発も手掛けている。毒、異物に効果を発揮する薬を開発するためにはまず毒、異物による症状を見なければわからない。

 そんなわけでリリアを実験台にして、毒に対する症状を観察していた。笑っていたのは……新しい薬ができるかもという期待から。

 かなり危ないやつ。基本的に笑顔だし優しい。しかし、治癒に関しての知識を求める意欲が強すぎた。

 リリアにとって地獄だったが、エミリアが意地悪でしたわけではないのはわかっていた。ただ大事にする存在ではなかっただけ。最初は怖かったが、何か慣れてしまった。最終的には治してくれるし。

 それにリリアはただでやっていたわけではない。彼女のお陰で開発された薬の売上の一部をもらう契約を結んでいた。

 リリアは泣き寝入りするだけの女ではなかった。

 意外と強かだった。



 使用人の女に話を戻そう。女は先程まで全く話が通じなかったのに普通発言を聞き、急に現実が見えた。

 しかし、諦めない。それが愚者というものだ。


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