公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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43. 深夜の密会

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 深夜、公爵邸の廊下にある大きい窓に人影がある。縁に腰掛けるのはアリスだ。そこに近づいてくる複数の影。近くで止まる気配を感じ、そちらに視線を向ける。

 愛人の娘たち8人だ。皆王家に嫁ぎたいと言っている者ばかり。一人の女性ーーーお茶会でずっと鋭い視線を向けてきた女性が近寄ってきた。

「アリス様」

「あら、怖い目。あなたが公爵夫人を階段から突き落とした愛人の娘さんね。自称博愛主義の公爵に特に可愛がられていると聞いているわ。博愛主義の人間に特にという存在があることにびっくりよね。ああ、そういえばお母様も足を怪我されたと聞いたけれど、今も歩けないのかしら?」

 嘲笑いながら紡がれていく言葉。そんなアリスの言葉に返すことなく、女性は更に鋭い目つきへと変える。

「ガルベラ王国の嫌われ者。家族からも婚約者からも見放された娘。カサバイン家の無能娘。公爵家の面汚し」

 女性から淡々と言い放たれる言葉。後ろにいる他の娘たちがクスクスと笑っている。アリスはハッと小さく笑う。

「そうね。で、そんな出来損ないの娘になんのご用?わざわざ深夜に嫌がらせ?一応王子妃だから人目のある昼間にはできなかったものね」

「………………」

「あら、違うの。じゃあ、なあに?」

「あなたにはお見通しなんでしょ?」

「さあ、あなたは……いえ、あなたたちはどう思う?」

 娘たちはお互いの顔を見合い、瞳に力が宿った。代表して視線の鋭い娘が口を開く。黙って話を聞くアリス。全て聞き終わった後、口を開く。

「本当に良いのね?」

 ゆっくりと頷く8人の娘。8人はアリスが暗闇の中艶然と微笑むのを確認すると去っていった。


「さてと………………」


 アリスは立ち上がると、歩き出した。

「フランク」

「はい、アリス様」

 護衛として連れてきていたフランクに声をかける。彼はアリスとイリスと一緒に来ていたが、アリスの命令で姿を消し、屋敷の探索をしていた。

「私はあそこへ行くわ。何が言いたいかわかるわね?」

 彼女が指差すのは愛人たちが住まう区域。愛人たちの部屋が並ぶのを目の端で捉え、こくんと頷くフランク。


 アリスが歩みだすとフランクは足音を立てず彼女を追い越し走り出す。



 ドッと人を殴る音に伴い、うっ…………という声が数回。ドサッという音が同じ回数した。魔法が発動され光が生み出されかけたり、爆発音のようなドッという音が鳴りかける度に不自然にそれらは消えた。結構派手に暴れたが寝静まる人々の気配は変わらない。誰にも気づかれなかったよう。

「ありがとうございます。アリス様」

 アリスの手には何やら透明のシャボン玉のような物が複数あった。アリスはそれを上に放り投げ遊んでいる。

「フランクあなたはもう少し魔法を勉強したほうが良いんじゃない?」

「ははっ、御冗談を。勉強したところでそんな繊細な魔法は操れませんよ」

 アリスの手にあるものは結界のようなものだ。光や音が発生した空間を閉じ込め圧縮したもの。アリスが手を振るとパリンという音と共にガラスのようなものが飛び散り、砂となり消えた。

「あなたはもっと魔法の腕上達すると思うわよ。これで魔法の腕も優秀と言われてるんだから、いかに見る目がない人が多いかってことがよくわかるわよね」

 ハハッとフランクは困ったように笑う。アリスはこう言うが、フランクは剣術だけでなく魔法の腕も一流だった。見る目もなにもアリスが規格外すぎるだけで、一般人……いや騎士から見てもフランクの魔法の腕前はスゲーと感嘆されるものだった。即ちアリスのほうが見る目がない…………。

「さっ、アリス様。邪魔者はいなくなりましたしどうぞ」

「もう戻って大丈夫よ」

「それではお先に。おやすみなさい」

「普通ほっておけないから一緒に行くとか言わない?休まずにお待ちしてますとか」

「ハハハッ、何を言ってるんですか。アリス様に勝てる人間なんていないんですから。不安になることなんてありませんよ。なんでしなくてもいいことを心配して寝不足にならなくちゃいけないんですか?」

 これで良いのか主従関係。人を猛獣かなにかだとでも思っているのだろうか。

「…………まあいいわ。お休みフランク、良い眠りを」

「アリス様も有意義な時間をお過ごしください」

 フランクが去るのを確認したアリスは歩みだす。彼女は一番近くにある扉に手を掛ける。気配を消すことなく室内に置かれたベッド……いやそこに横たわる女性に近づく。

 女性は若い女がベッドの側にいるのに気づき、悲鳴を上げかけその美貌に見惚れて動きを止めた。

 アリスは艶然と微笑むと女性に手を伸ばす。


 この後の出来事はアリスと愛人たちとの秘密。


~~~~~



 夜が明けた公爵邸は大騒ぎだった。

「どういうことだ!?」

「申し訳ありません。私にも何が起こっているのかわからず……。とりあえずこちらにお越しくださいっ!」

 バタバタと早朝から大声を出し、廊下を走るのは公爵と執事だった。



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