公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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67. お助け退治

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「ねえ……あれ何?なんか空が燃えてない……?」

「ん~~~。ホントじゃん怖っ。うわっ火の粉が降ってきた」

「ねえ、あれ近づいてきてない?」

「何あれ……鳥が燃えてる……?」

 ファレス王国のある村で皆が空を見上げている。

「村長……もしやあれは魔物では?」

「ああ、早急に領主様に知らせをーーーーー」

 ーーーーーーーーーー

 言葉は続かなかった、村が炎に包まれたから。




「皇太子様、大変です!フェニックスが現れました!」

「!!!」

 執務中だった皇太子は驚きのあまりペンを手から落とした。

「状況は?」

「領主が対応しているようですが、押される一方です。陛下から討伐命令が出されて王都からも出兵されますがどうなるかわかりません」

 フェニックスの強さは半端ない。何が半端ないかというとそもそも熱くて近づくことができない。

「俺も出る……が、カサバイン家に援助要請をしてくれ」

 ファレス王国皇太子シオンは魔法使いそして剣士としても非常に優秀だと自負している。だが、天才には及ばない。もし万が一自分の力で止められない場合、天才の力を借りなければならない。他国の者だが魔物討伐においては協力関係である。

 彼の姿は消えた。数人の護衛とともに。



~~~~~


 彼の視線の先には奇声をあげるフェニックス。至るところで炎の竜巻が発生し、ここは炎の国かと錯覚しそうだ。

 シオンは水を生み出すとフェニックスに向けて放つが届く前に蒸発した。魔法で強化した短刀を投げるも今度は溶けた。

 これは無理だ。更に側近から最悪な言葉が発された。

「殿下、カサバイン家の方々は今直ぐには行けないそうです」

 最悪の事態だ。結界を張れば時間は稼げるか?いやいや、たぶん溶ける。大人数で水浴びせればなんとかなるか?いや、たぶん無理だ。だがなんとかしなければーーーーー

『シオン皇太子』

「なんだ?」

 くるりと護衛を振り返るが何かと不思議そうな顔。

『シオン皇太子、アリスです』

 ボンッと透き通ったアリスが現れる。

「なんだこれ。魔法か?幽体離脱か?」

 アリスの透き通った身体の胸やらお腹やらにズボズボと何度も手を突き刺すシオン。

『幽体離脱ですね。別に害はないですけど気分悪いんでやめてもらえます?』

「それはすまない」

 大人しく自分の体の横に手を戻す。

『お困りのようですね、手助けしましょうか?』

「嫁いだんだろう?勝手に大丈夫なのか?」

『婚姻条件で魔物討伐は自由にできます。とりあえずイリスとフランクを送ります』

 ニュッと透明アリスが割れ、出てくるイリスとフランク。

「気味が悪いな」

「申し訳ありません。空間をつなげているから使えと言われまして……。それよりもこれはなかなかですね」

「ああ、近づけないからどうしようもない。とりあえず周りの炎は消すように努めているが……」

 視線の先には炎が広がるのみ。少し前までは人や動物、建物があった場所。唇を噛み締めるシオンをイリスとフランクはちらっと一瞥すると飛んだ。

「「参ります」」

「まじか……」

 二人共フェニックスに斬り掛かっている。痛みなのか威嚇なのかぎゃあぎゃあと叫ぶフェニックスは二人に集中しだし炎の竜巻が消えた。

『ゲッ……面倒な』

「どうした」

『そちらに行こうと思ったのですが、何やらこうるさいのが近づいてきているようで……。できたらそちらに魔物が現れていることや私が助太刀に行くことは知られないほうが良いですよね』

 国の問題を他国に知られるのはあまり良いことではない。この騒ぎに攻め込まれたり……ということもなくはない。

『何やら変な気配がするとは思っていたので、侍女たちにイリスとフランクは外出することは伝えてあったのですが、私が離れるとなるとぎゃあぎゃあ騒ぎそうですね。そちらにご迷惑になってもいけませんし……』

 かといってそちらも放っておけなさそう。イリスとフランクをちらりと見ると苦戦している。

 飛び回るフェニックス。速度もあるし、何より熱い。身を守るために強固な結界を張って動く分、魔力消費量も尋常じゃない。動きも疲れから鈍くなってくる。

 フランクが振り下ろした剣が首に届く前に溶ける。

「チッ」

 イリスが放った水魔法の矢も蒸発する。

「いや、もう無理」

 無理……無理……?無理……!?ボーと見ている場合ではない。己も参戦をと動くシオンに透け透けアリスがついてくる。

「なんだ?」

『もうこのまま戦います』

「本体は大丈夫なのか?」

『まああちらは私の状態などどうでもよい方ばかりなので大丈夫ですよ』

 アリスの言葉にそれはどうなんだと思いつつ、身体に強化魔法と結界を纏う。が、チリッと頬が焼ける。

「やっぱり俺の力では無理か。お前は大丈夫なのか?魂丸焦げにならないか?」

『これくらいなら大丈夫そうです。シオン様は離れたところから攻撃してください』

「効かないだろう」

『運が良ければ効くかもしれません』

 いや、運任せかい。

 フェニックスから離れるシオンと近づく透け透けアリス。その手から出るのは魔法でできた光るムチ。アリスから振るわれたムチはフェニックスの身体に巻き付いた。翼の部分が胴体にくっつきうまく飛べないようだが、力任せに暴れまわるフェニックスを地面に叩きつける。

 ザッと近づくイリスとフランク。その手に持つのは光る剣。アリスはムチを剣に変え首に振り下ろす。イリスとフランクはそれぞれ胸と腹部に突き刺す。

 甲高い声が一瞬聞こえたもののすぐに消えた。

「消火活動を急げ!」

 シオンの激が飛ぶ。倒したとはいえ、生み出された炎は勝手には消えずに燃え広がるばかり。指示を出し終えたシオンは3人に相対する。

「礼をいう」

『これ弾んでくださいね』

 3人が手のひらを上に向け親指と人差指で丸を作る。

 この主人にしてこの使用人ありだ。引きつりそうになる顔を引き締める。彼らの要求は正当なものだ。命がけで戦ったのだから。少々その手ははしたないが。

『それでは我々はこれで失礼します』

「ああ、またな」

 彼らは戻っていった。


 はー……と息を吐くシオン。終わった。終わったのだが……脳裏に村が浮かぶ。昔視察したことがあるが貧しいながらも温かい者が多い村だった。

 彼は膝をつくと手を合わせ、彼らの冥福を祈った。



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