公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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帰郷遊戯⑥

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 ~オスカーとジュリアの寝室~

 パーティがお開きになり娘のアナベルの部屋に行き顔を見た後、寝室に戻ったオスカーとジュリア。

「アリスは何か変わったわね。公の場では王妃様になにか言われてもいつもスルーするだけだったのに」

「いやあれは変わったというより、本性を表に出して言葉に出しただけだろう。立ち場も変わったし、今は一国の王子妃だ」

「ウフフ……でも格下の国の王子妃が格上の国の王妃に噛みついたら駄目でしょう?でもその方がアリスらしいわね」

 幼き日、一緒に遊んだ日々。天使と見紛うばかりの可憐な少女だったアリス。その口から紡ぎ出されるは非常識と無礼千万な言葉。浮かぶは嘲笑だった。

 変人だと思っていたが、アリスと過ごす日々はなにかワクワクした。ジュリアの口から笑みが溢れる。

「母上があのようなことで怒るわけがないとわかってるからな、アリスは。それに裏ではアリスも母上に結構物申してたぞ。二人にとってはあんなのは挨拶だ」

「そうなのね。アリスは昔から強いものね……羨ましい。私にもあんな強さがあればお義母様にアナベルのことをもっと強く言えるのかしら?私がもっとしっかりすればアナベルを認めてくれるのかしら?いえ……アリスがあなたの妻になっていたらお義母様が認めるような子が産まれていたかもしれない!」

「ジュリアやめるんだ。アナベルへの態度は母上の性格に問題があるんだ。君のせいじゃないよ。それにアリスが皇太子妃になっていたら色々と大変なことになっていたはずだ」

 先程の出来事を思い出す。王妃の言動も頂けないが、アリスの言動も頂けなかった。他国の者たちがいる場であのようなやり取り。隣にいたブレッツェル公爵は微動だにしていなかったが、呼吸していたよな……?

 あれが自分の妻としての行動だったら……オスカーは、少し遠い目になった。そしてバルコニーに続く窓が視界に入る。いや、正確にはバルコニーにある何かを視界が捉えた。目を凝らす。薄いカーテンがあるうえに今日は少々曇り気味の為、外の様子が見えにくい。バルコニーにゆっくり近づく。

 一瞬お月様が雲の間から覗いた。

「うおっ!?」

 珍しいオスカーの驚く姿と声。ジュリアもバルコニーに目を向ける。


「!?アリス!!」

 そこにいたのは窓にくっついたアリスだった。

『あーけーてーーー。あーけーてーーー。あーけーてーーー………………』

 低い声で開けて開けてと繰り返す様は少々気味が悪い。

 だが、恐る恐るガチャリと窓の鍵を開けるオスカー。

「何してるんだ?お前には鍵なんてあってないようなものなんだから勝手に入ってこれば良いだろう?っていうかなんで張り付いてるんだ?気味が悪いぞ」

「いや、一応他国の人間だし不法侵入はまずいかなと思って」

「いや、バルコニーにいる時点でアウトだと思うぞ。よくバレなかったな」

「外からバルコニーを見上げてもわからないように認識阻害の魔法をかけたからね」

「無駄なところに労力を使うな」

「フフッ……」

 オスカーとアリスのやり取りを黙って見ていたジュリアが軽く笑う。

「お久しぶりジュリア」

「アリス、久しぶりね。相変わらず美人なのにやることは変ね………………あら?嫌だわ……」

 ジュリアの瞳からポロポロと零れ落ちるのは涙だ。アリスはジュリアに近寄るとそっと抱きしめ、ぽんぽんと背中を叩き続けた。




~~~~~~~~~~

「落ち着いた?」

「ごめんなさいね。妊娠中だからかしらどうにも不安定で」

「大丈夫よ。誰だって裏では泣いたり、暴れたりするものよ。さっきのパーティではなんの違和感もない立派な皇太子妃だったわ」

「……そうかしら?」

「そうよ、どこぞの王妃様なんてたくさんの人が見ている前で堂々と人を蔑ろにしていたじゃない。こちらは一応他国の王子妃だっていうのに。まあ国力が違いすぎるから問題にはならないでしょうけど」

「そうだな。どちらかと言うとお前の発言のほうが問題だったな」

「あら、政務を頑張ってる王妃様を尊敬します~って言っただけじゃない。それに王妃様に痛い目に合ってもらいたいと思っているのはあなたでしょう?皇太子様が味方なのだから大国相手でも怖くないわ」

 アリスの手には一枚の手紙があったが一瞬にして燃えた。

「お前に怖いものなんてあったのか」

「そりゃああるわよ。私一人で大国の王妃にちょっかい出すのはちょっとね……。実家は王家に忠誠を誓ってるし、彼らと戦うのも流石に……やれたとしても半分くらいかしら。それに国力が違いすぎて私がやられたらダイラス国なんて木っ端微塵にされちゃうでしょう?陛下や王妃様が気の毒すぎるわ」

「へー……お前でも人との力関係とか考えることがあるんだな」

「そうね。常にパワーバランスを考えて行動しているあなたから見たら微々たるものだろうけどね」

「なんか俺がちまちました男みたいじゃないか?」

「あら、流石国を担っていく方は勢力図を頭に描きながら行動をしているから尊敬すると言っているのに」

「ちょっと待って……」

 淡々と繰り広げられるアリスとオスカーの会話にジュリアがストップをかける。

「「ジュリア?」」

「あなた達何するつもりなの?」

 ニタリと笑む二人にとてつもなく不吉な予感がする。

「あなた王妃様に思うところがあるでしょう?」

「そんなことないわ。何かされているわけではないし……。そもそも私が悪いのよ。お義母様の期待に答えられない私が……」

「まあ確かに何もされてないわよね……。王妃様の頭の中にはいない姫だものね」

 アリスの言葉と射抜くような視線にビクリと跳ねる身体。

「ジュリア……昔は親友を蔑ろにされて虐められて、今は自分の子をいない者のように扱われて悔しくないの?」

「悔しいわ!アナベルのことはもちろんそうだけど。自分のことを親友とか言っちゃう子が親友とか微妙だけど……それでもあなたが蔑ろにされて悔しかったわ!でもだからといってどうにもできない自分が一番情けないわ……」

 下を向いて唇を噛みしめるジュリア。

「幼い頃からお義母様には可愛がられてきたわ。それがたとえあなたに対する当てつけであったとしても私にとっては大切な方なの。嫌われたくないし、気に入られていたい。それに皇太子妃という立場になったとはいえ、格上の存在。強く言うことができないのよ」

「ジュリア……」

 再び目に涙が浮かぶジュリアの背をゆっくり撫でるオスカー。そんな二人を見てアリスは言い放った。

「まあそうでしょうよ。娘のためとはいえ姑、まして格上の相手に物申すことは難しいし、力技でどうにか出来るわけないわ。所詮この世は力、権力を持った者が正義になるのだもの」

「だから力を持つあなたがどうにかするというの?」

「フフッ。私が強いのは否定しないけど、一人では無理よ。だからオスカーの提案にのったのよ。というか正直なところ、あなたの気持ちはどうでも良いわ」

「は?」

「私は王妃様に溜まった鬱憤をぶつけてやりたい。ただそれだけ。オスカーの提案に難色を示す実家や宰相家、陛下も説得したのよ。私は私のやりたいことのために行動するのみ。それにオスカーの策がどうなるかは王妃様次第よ」

「……本当にあなたたち何をしようとしているの?」

「アリスも言っていただろう。母上が動かなければ我らも動かない。我らではなく母上が動くかどうかだ」

「?」

 不思議そうなジュリアとどこか少し寂しげな表情をするオスカーを置いて再びバルコニーから出ていくアリス。

 

「全ては明日次第……」

 アリスの呟きは闇に消えた。








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