公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

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131.幸せ?

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「「「ただいま」」」

「お帰りなさい」

 ルビーの家から帰ってきた3人をアリスが笑顔で迎える。

「楽しかった?」

「「うん!」」

 元気いっぱいに答える双子を部屋にいた侍女たちは微笑ましそうに見つめながら浴室に促す。トキと近所の子達と遊んだ為汚れがたくさんついている。

 浴室に子どもたちが向かった後ブランクはアリスにルビーの夫のことを話し始めた。


「本当にとても良い方だったよ。修道院や孤児院でボランティアをよくしているからか、子どもたちと遊ぶのも上手でね。はっ!騎士をしている人だからもしかしたら王宮で会う機会があるかもしれない!声をかけても良いものかな?」

 その後もべらべらとルビーの夫がどれだけ良い人か、ルビーが幸せそうで安心したということを話し続けるブランクとそれを穏やかな笑みで黙って聞いているアリス。

 部屋に控えていたイリスは気づく。

 アリスがどこか愉しげなことに。

 ?

 王子の話が楽しいのか。いや、どう楽しいとは思えない。人の不幸は蜜の味と考えるような主人が幸せ話を楽しいと思うわけがない。

 まして幸せなのはルビー。

 では、なぜ…………?

 イリスの背にゾッとする悪寒が走った。

 話し終えたブランクが満足そうな表情で部屋を出て行った後、イリスはアリスに声をかけた。

「アリス様」

「なあに?イリス」

「とても楽しそうですね」

「ふふっそうね」

「ルビー様の幸せ話や彼女のご主人の話が面白いですか?」

「あらあらイリス。縁のあったルビーさんが幸せになったのに嬉しくないの?」

「私は嬉しくありません。それに……」

 アリスも絶対にそんなこと思っていないはず。

「あらあら、イリスは知り合いの幸せを喜んであげられないなんて意地悪さんね~」

 ニヤニヤと笑うアリスにイリスもニヤリと笑い返す。

「……アリス様も同類でございましょう?」

「あらあら。そんなこと「「お母様~」」」

 アリスの言葉の途中にナイトウェアを着た双子が戻ってきた。

「さっぱりした?」

「「うん!」」

 双子が戻ってきたのでアリスもイリスも先程の話の続きをしようとは思わなかった。

 が……

「ねえ、お母様」

「どうしたの?オリビア」

「ルビーちゃんの旦那さんのこと皆いい人いい人って言うの」

「そう」

「そうなんだよ!お父様もルビーちゃんも近所の人も修道院の人も皆いい人だって言うんだよ!」

 オリビアの補足をするかのように話すラルフの頭を撫でながらうんうんと頷くアリス。

 イリスはちょっとムッとした。そんないい人がなぜルビーのご主人に……。二人は一旦顔を見合わせるとアリスをじっと見つめながら言った。

「「お母様はルビーちゃんの旦那さんをいい人だと思う?」」

 こてんと首を傾げて聞いてくる様はとても可愛らしい。

 だが

 侍女たちの頭の中は??????だった。侍女たちは主人であるアリスがどのように答えるか見守ることにした。

「そうねぇ……。ところでオリビアとラルフ、私は良い人かしら?」

「「?お母様はいい人ではないような……」」

 質問返しに二人は戸惑いながらも同じことを言った。母が善良かと問われれば素直には頷けないものがある。この前も何やら大臣たちをやり込めていたし、何やら頭を悩ます王妃様の様子を見てニヤニヤしていたこともあるし。お父様も何やらこき使われているし…………

 そんな姿を見れば、お母様っていい人!とは言えない。

「じゃあ悪い人?」

「「うーん?悪い人でもないような……」」

 命をかけ魔物を退治し、時には人助けもする。民のために政務に励む。デザートも作ってくれる。いろいろなことを教えてくれる。優しく名前を呼びながら抱きしめてくれる自慢の母だ。

 うんうん唸る子供たちを見て口元に笑みが浮かぶアリス。

 何やら侍女までもうんうんと頭を唸らせているのはどうなのかと思うが、まあ彼女たちとは後ほど話をしよう。

「人は色々な面を持つものよ。あなたたちは私のことを良い人でも悪い人でもないと言ったけれど、私のことを良い人と言う人もいるでしょう」

「「「え!?」」」

 え!?ってどういうことよ。じろりと侍女を見るとさっと顔をそらされた。全く最近遠慮というものがなくなってきた気がする。

「コホンッ!私を悪い人と言う人もいるでしょう」

 うんうんと頷く侍女たちに減給を考えるべきか。

「人によって捉え方は違うし、時には評判だけでこの人はこういう人だと思い込んでしまうこともあるわ」

 うんうんと真剣に母の言葉を聞く子供たち。

「あなたたちがルビーさんのご主人をどう思ったかは聞かないわ。けれどあなたたちには自分の目で見て感じた思いを大切にしてほしいわ。あなたたちはとても賢い私の自慢の子供たちだもの」

 そう言ってゆっくりと二人を抱きしめるアリス。

「「お母様」」

 ラルフとオリビアはアリスの髪の毛が顔に当たりくすぐったそうに笑う。二人から身を離したアリスはドカッと椅子に深く腰がけ足を組む。

「「お母様?」」

「彼は私にとっては害のない人間ではあるわね。国家転覆を狙うでもないし、私の命やあなたたちの命を狙うでもない。政敵でもない」

「「「?」」」

 双子も侍女たちも彼女が何を言いたいのかわからずきょとん顔だ。

「でも…………」

「「「でも?」」」

 食い気味に尋ねてくる子供と侍女たちにアリスはひっそりと小さい声で囁く。

「彼は私に―――――――――れる」

「「「もう一回(お願いします)!!!」」」

 一番大事な部分が聞き取れなかった。

 興味津々に迫る面々にゆったりと微笑むとアリスはそっと人差し指を自らの口元に当てた。

「「え~~~~~~!!!お母様の意地悪~~~~~!」」

 双子たちは頬を膨らましながら部屋を飛び出していった。

 二人を慌てて追いかける侍女たち。

 部屋に残ったのはアリスとイリスだけだった。
 
「ねぇ、イリス……」

「はい」

「彼女は本当に楽しませてくれるわ」

 彼女とはルビーのことだろうか。

「…………………………」

「ふふっふふふふっ……ルビーさんが幸せねぇ?」

 意味がわからず黙るイリスとは対照的に堪えきれないとばかりにアリスは笑みを漏らす。

「本当に……見る目のない人……………」

 それはゾクリとするほど美しいがどこか残酷な響きを含んだ声音だった。



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