公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ

文字の大きさ
148 / 186

133.疫病神

しおりを挟む
 アリスを蔑み、ブランクを都合よく利用した罰だろうか。彼女たちだけじゃない、取り巻きたちや身分の低い子息や令嬢たちもバカにしてきた。

 醜い心を持つから醜いものを引き寄せてしまうのだろうか。

 ならば仕方ない。

 でも、

 この子だけは

 強く胸に甥っ子を抱く。

 願わくばこの子にはあの刃が届きませんように。


「っつ!」

 強く目を瞑った彼女に届いたのは刃ではなく、トキの小さい悲鳴だった。彼女は慌てて目を開く。

 そこにいたのは

 まだ5歳の子供2人だった。

「ルビーちゃんから離れろ!」

 トキの腕に絡ませたムチを引っ張りながらラルフが叫ぶ。

「騎士が女子供に手を上げるなんて最低よ!つーか、普通に罪なき人に斬りかかるんじゃないわよ!」

 オリビアが眦を釣り上げながら叫ぶ。よっぽど怒っているのか後ろにオーラが見えるのは気のせいか……。

 驚くルビーとは裏腹にトキは冷静だった。持っていた剣でムチを斬るとそのままルビーを斬ろうとする

 が

 その切っ先は見えぬ何かに阻まれた。結界だ。

「オリビア、ナイス!」

 ラルフの声にフフンと気を良くしたオリビアは両手を口元に近付けるとふーっと思いっきり吹いた。

 キラキラと光る花びらのようなものがトキの上に舞い落ちる。とても美しい光景にこんな非常事態でありながら目を奪われるルビー。

 トキが双子を睨みつけ剣を手に二人に向かっていこうとして気づく。

 身体が動かない。

「オリビアの魔法だよ。身体を痺れさせるんだ」

「きれいでしょう?お母様直伝よ」

「いいな~オリビア。それ魔力のコントロールが難しくて僕できないんだよね」

「ラルフは大雑把だからね」

「おおらかって言ってよ」

 トキやルビーを放置しておしゃべりを始める二人にトキが床に崩れ落ちながら忌々しそうに呟く。

「クソガキが……っ!」

「「…………………………」」

「?」

 なに……?

 子供たちの様子が……。

 急に黙り込み、下を向く二人。よく見ると二人共唇を噛んでいる。それに微かに震えている。

「ねえ、どうし「「…………った」」」

 今、なんて?と口を開こうとすると

「「クソガキって言った」」

「えっ?はっ!?」

 トキが戸惑うように声を上げる。5歳の子相手に一方的にやられ、情けない声を上げる彼は非常に無様だった。が、そんな彼を気にすることなく金切り声が響く。

「「クソガキって言ったーーーーーーーーーー!!!」」

「僕たちは王族だぞ!」

「あんたなんか犯罪者でしょ!なあんであんたみたいな奥さんや身内殺そうとするクズ男にクソガキなんて言われなきゃいけないのよーーーーーーーーーー!」

 二人の周りに彼らの怒りに呼応するようにピリピリと電流のようなものが漂っている。ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人に呆気にとられる大人2名。

 これは一体どうすれば…………これは魔力の暴走か?

 どんどん電流が漂う範囲が広がっていく。いやいや、普通に怖い。

 そして、先程以上に危機的状況だ。

「お二方落ち着いてください」

 まだ若いが落ち着いた男性の声が部屋に響いた。いや、声だけでない。いつの間にか現れた男性――――二人の護衛のエリアスが電流を気にすることなく床に膝をつき二人の背中を撫でている。

「いつの間に」

「扉の影に最初からおりました」

 まじか、気づかなかった。ルビーの呟きに律儀に答えるエリアスの視線は二人に向けられたままだった。

 ――――あいつクソガキって言った
 ――――あいつ私達のこと睨みつけたのよ
 ――――あいつ子供だからってバカにしてるんだよ
 ――――あいつ不敬だよ、不敬
 ――――あいつ弱いくせに
 ――――あいつ犯罪者だよ
 ――――あいつ自分の甥っ子や奥さん傷つけようとするやばいやつだよ
 
 幼い子供らしくあいつあいつとトキを指差しながら癇癪に近い叫び声を上げる二人に律儀にうんうんと頷く様は

「お父さん?」

 その言葉にピクリと口角を震わすエリアス。

 どうやら嬉しいようだ。

 双子が落ち着いたのを確認したエリアスはトキを縛り上げ連行していく。ルビーは彼に何も言えなかった。

 いや、何を言っていいかわからなかった。

 彼に甥っ子も自分も命を狙われたのは事実。

 でも、彼に救われたのも、
 彼を愛したのも事実。

 それに……自分に向けられた優しさも嘘ではなかったと思う。

 なのに、何が起きたか未だに理解できなかった。

 彼が目の前からいなくなったら力が抜けた。頭が真っ白になり働かなかった。双子やエリアスが何やら話しかけてくるが相槌を打つだけで精一杯だった。

 彼らはそんなルビーに気を悪くする様子もなく、部屋の片付けをすると去っていった。




 ……あんぎゃー…………あんぎゃー…………

 あっ…………


 どれくらいぼーっとしていたのだろうか。己の身を守るかのようにずっと静かにしてた腕の中の甥っ子が泣き声を上げたことで意識が浮上した。

 優しく揺らしたり頭を撫でたりしても泣き止まない。

「お腹すいたかな?おしめかな?……怖かったかな?」

 殺められかけたことを覚えていないといいのだが……こればかりはもう祈るしかない。

「……それとも、寂しい?」

 なんて……そんなこと思っているのは自分か……。

「お母さんとお父さんのところに帰ろうね……」

 涙が溢れてきて止まらない。頬に当たる涙に驚いたのか甥っ子は泣くのをやめた。ぎゅっと抱き締めると頬にてしっと小さな手があたった。

「ごめんね……私のせいで」

 
 甥っ子はルビーのせいで親元から離され、その尊い命を奪われそうだったのだ。本当に申し訳ない。


 トキだってルビーと出会わなかったらこんな罪を犯さなかったかもしれない。あのときブランクだって……。ビアンカだって……。


 自分は

 人を狂わす

 疫病神なのかもしれない。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...