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139.成敗①
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なんで自分がこんなところにいないといけないのか。
あの恩知らずの女が……。
散々優しくしてやったじゃないか。可哀想だから不幸だから可愛がってやったじゃないか。
あんな不幸なやつを選んでやったんだから、僕の幸せのための行為を目を瞑ってくれてもいいじゃないか。
トキは現在王都にある牢の中にいた。妻と甥の殺害未遂で、だ。
彼はここに放り込まれたものの自分が犯罪者だという自覚はなかった。彼の心に生まれるはルビーへの愚痴ばかり。
彼は壊れた人間だから。
トキは簡素なベッドに横たわると目を瞑る。よく考えてみるとルビーは大して不幸な女ではなかった。衣食住に困ることなく、職場の仲間ともそれなりに上手くやっていた、男には振られていたが最終的には自分と結婚もできた。
どこが不幸なのか?ただのそのへんにいる平民だ。
自分は見誤ったのだ。高位貴族から平民に転落する者は少ない。転落したとしても娼館送りになったり、もっと品格のある修道院行きになったりと自分と接点などないと思っていた。
だから自分の手が届くところに彼女が来たとき運命だと思った。勘違いしたのだ。可哀想で仕方ない、不幸な人間だと。
彼女は別に不幸な人間じゃなかった。
そんなのに執着していたなんて……なんと愚かだったのだろうか。苦労させてやろうと姉に怪我させて甥を預かったり、甥を殺めようとしたり、なんであの女の為にそんな労力を使ったのだろうか。
無駄な時間だった。
ああ、あんな女よりも彼女の元へさっさと向かえばよかった。彼女は最高だ。生まれも最低、親も最低、夫も最低、暴力、借金、浮気……etc.
所詮平民同士の殺人未遂。
大した罪にはならない。数年ここにいれば釈放だ。ここから出たら彼女を迎えに行こう。
いや、自分は日頃から行いが良い。ボランティアに精を出し、人助けも欠かさなかった。そんな出来た人間である自分が長い間こんなところに入れられるわけがない。
騎士としても優秀な自分はすぐに釈放される可能性が高い。
ふふっ、はははっ。だって自分は能のある優しく善良な人間だから。
コツッコツッ
誰かが近づいてくる足音がした。看守ではない。女物のヒールの音だ。
彼が入れられた檻の前でその音は止まった。そしてその人物がトキの視界に入る。
「あれ?ルビーじゃないか。どうやってここへ?たかが一平民の君がこんなところに入れないと思うんだけど。というか看守はどうしたんだい?まさか無断で入ることなんてできないだろうし「ねえ」」
トキがベラベラと話すのをぶった切るルビー。
「あんなことしといて言うことはそれなの?」
「え?ああ。あの子を手に掛けようとしたこと?あれは失敗だったよ。君なんかに執着したせいでこんなところに入れられてしまった」
「あの子はあなたの甥っ子なのよ?お義姉さんにも申し訳ないと思わないの!?」
「?君のせいなのになぜ僕を責めるんだい?君が幸せそうなのが悪いんだろう?ずーーーーっと下を向いて不幸って顔していれば良かったのに」
「あなたが……あなたが、私を幸せにしてくれたんじゃない!」
「えー?僕はできた善い人間だからね。酷いことはできないんだよ。僕とは関係のないところで不幸でいてくれないと」
ルビーは目を見開いた。
こいつは何を言っているのか。
できた善い人間?
酷いことはできない?
確かに彼は優しい。評判もいい。
だけど
「自分が不幸な人が好きだからって、あんな小さい子を手に掛けようとするなんてありえないでしょ!」
「?人なんてものは勝手なものだろう?自己中な生き物だよ。君だってやりたい放題だったから平民に落ちたわけだろう?君にありえないなんて言われるなんて心外だよ」
そう言うトキの顔は後悔もなければ、悪びれる様子もない。ただいつもと同じ普通の会話をしているかのようだった。
こいつ――――――おかしい。というか、そもそもわけがわからない。不幸な人が好きでそれを愛でて優しく接する自分も好きで……でもそんな大切にされれば人は幸せな気持ちになるわけで。自分で幸せにしておいてなぜ不幸でいないのかって――――。
「あらあら結構ヤバ目の男に捕まってしまったのねルビーさん」
気配もなくぱっとルビーの隣に現れたのはアリスだった。
「アリス……」
ルビーが呆然と呼ぶ。
「なぜこんなところに一平民のルビーが入れたのかと疑問でしたが、アリス様のお陰でしたか」
ルビーとは正反対にうんうんと平然とした様子で頷くトキにアリスは冷たい視線を向ける。
「許可もなく私の名を口にしないでちょうだい。不敬だわ。妃殿下と呼んで頂けるかしら。あなたに名を呼ばれるとゾッとするわ」
バサリと広げた扇を口元に当て、気味悪そうにトキを見るアリス。
「で……ですが」
ちらりとルビーを見るトキ。その表情は不服そうだ。
「ルビーさんと私は特別な仲なのよ。あなた騎士らしいわね。まさか騎士だから私との距離が近いなんて勘違いしているわけではないわよね?」
「そんなことはありません。でも罪人である彼女はあなたの名を呼ぶことを許されて僕が許されないのは納得がいきません」
いやいやあなたも罪人でしょうがとルビーは思うが沈黙を貫く。この牢屋に入れられている身で自分は罪人ではないような言い方をできる彼に呆れてしまう。
アリスがはあと悩ましげな息を吐いた。それを聞いたルビーの背筋に何やら悪寒が走る。
「可哀想」
「「え?」」
どうして今そんな言葉を?
「妃殿下はルビーを可哀想だと思うのですか?」
何やらトキが目を輝かせて言う。
「うん?ルビーさん?彼女の何が可哀想なの?ちゃんと平民として生活できてるし、元気そうだし……あ!あなたみたいなクズ男に惚れたこと?いや、別にルビーさんは元からダメンズホイホイだし、見る目がないなんてお気の毒様とは思うけれど可哀想だなんて思わないわよ~」
誰がダメンズホイホイだ。
まあ確かに一理あるけど……。
「可哀想なのは……あ・な・た」
アリスが指し示す先にいるのは
トキだ。
あの恩知らずの女が……。
散々優しくしてやったじゃないか。可哀想だから不幸だから可愛がってやったじゃないか。
あんな不幸なやつを選んでやったんだから、僕の幸せのための行為を目を瞑ってくれてもいいじゃないか。
トキは現在王都にある牢の中にいた。妻と甥の殺害未遂で、だ。
彼はここに放り込まれたものの自分が犯罪者だという自覚はなかった。彼の心に生まれるはルビーへの愚痴ばかり。
彼は壊れた人間だから。
トキは簡素なベッドに横たわると目を瞑る。よく考えてみるとルビーは大して不幸な女ではなかった。衣食住に困ることなく、職場の仲間ともそれなりに上手くやっていた、男には振られていたが最終的には自分と結婚もできた。
どこが不幸なのか?ただのそのへんにいる平民だ。
自分は見誤ったのだ。高位貴族から平民に転落する者は少ない。転落したとしても娼館送りになったり、もっと品格のある修道院行きになったりと自分と接点などないと思っていた。
だから自分の手が届くところに彼女が来たとき運命だと思った。勘違いしたのだ。可哀想で仕方ない、不幸な人間だと。
彼女は別に不幸な人間じゃなかった。
そんなのに執着していたなんて……なんと愚かだったのだろうか。苦労させてやろうと姉に怪我させて甥を預かったり、甥を殺めようとしたり、なんであの女の為にそんな労力を使ったのだろうか。
無駄な時間だった。
ああ、あんな女よりも彼女の元へさっさと向かえばよかった。彼女は最高だ。生まれも最低、親も最低、夫も最低、暴力、借金、浮気……etc.
所詮平民同士の殺人未遂。
大した罪にはならない。数年ここにいれば釈放だ。ここから出たら彼女を迎えに行こう。
いや、自分は日頃から行いが良い。ボランティアに精を出し、人助けも欠かさなかった。そんな出来た人間である自分が長い間こんなところに入れられるわけがない。
騎士としても優秀な自分はすぐに釈放される可能性が高い。
ふふっ、はははっ。だって自分は能のある優しく善良な人間だから。
コツッコツッ
誰かが近づいてくる足音がした。看守ではない。女物のヒールの音だ。
彼が入れられた檻の前でその音は止まった。そしてその人物がトキの視界に入る。
「あれ?ルビーじゃないか。どうやってここへ?たかが一平民の君がこんなところに入れないと思うんだけど。というか看守はどうしたんだい?まさか無断で入ることなんてできないだろうし「ねえ」」
トキがベラベラと話すのをぶった切るルビー。
「あんなことしといて言うことはそれなの?」
「え?ああ。あの子を手に掛けようとしたこと?あれは失敗だったよ。君なんかに執着したせいでこんなところに入れられてしまった」
「あの子はあなたの甥っ子なのよ?お義姉さんにも申し訳ないと思わないの!?」
「?君のせいなのになぜ僕を責めるんだい?君が幸せそうなのが悪いんだろう?ずーーーーっと下を向いて不幸って顔していれば良かったのに」
「あなたが……あなたが、私を幸せにしてくれたんじゃない!」
「えー?僕はできた善い人間だからね。酷いことはできないんだよ。僕とは関係のないところで不幸でいてくれないと」
ルビーは目を見開いた。
こいつは何を言っているのか。
できた善い人間?
酷いことはできない?
確かに彼は優しい。評判もいい。
だけど
「自分が不幸な人が好きだからって、あんな小さい子を手に掛けようとするなんてありえないでしょ!」
「?人なんてものは勝手なものだろう?自己中な生き物だよ。君だってやりたい放題だったから平民に落ちたわけだろう?君にありえないなんて言われるなんて心外だよ」
そう言うトキの顔は後悔もなければ、悪びれる様子もない。ただいつもと同じ普通の会話をしているかのようだった。
こいつ――――――おかしい。というか、そもそもわけがわからない。不幸な人が好きでそれを愛でて優しく接する自分も好きで……でもそんな大切にされれば人は幸せな気持ちになるわけで。自分で幸せにしておいてなぜ不幸でいないのかって――――。
「あらあら結構ヤバ目の男に捕まってしまったのねルビーさん」
気配もなくぱっとルビーの隣に現れたのはアリスだった。
「アリス……」
ルビーが呆然と呼ぶ。
「なぜこんなところに一平民のルビーが入れたのかと疑問でしたが、アリス様のお陰でしたか」
ルビーとは正反対にうんうんと平然とした様子で頷くトキにアリスは冷たい視線を向ける。
「許可もなく私の名を口にしないでちょうだい。不敬だわ。妃殿下と呼んで頂けるかしら。あなたに名を呼ばれるとゾッとするわ」
バサリと広げた扇を口元に当て、気味悪そうにトキを見るアリス。
「で……ですが」
ちらりとルビーを見るトキ。その表情は不服そうだ。
「ルビーさんと私は特別な仲なのよ。あなた騎士らしいわね。まさか騎士だから私との距離が近いなんて勘違いしているわけではないわよね?」
「そんなことはありません。でも罪人である彼女はあなたの名を呼ぶことを許されて僕が許されないのは納得がいきません」
いやいやあなたも罪人でしょうがとルビーは思うが沈黙を貫く。この牢屋に入れられている身で自分は罪人ではないような言い方をできる彼に呆れてしまう。
アリスがはあと悩ましげな息を吐いた。それを聞いたルビーの背筋に何やら悪寒が走る。
「可哀想」
「「え?」」
どうして今そんな言葉を?
「妃殿下はルビーを可哀想だと思うのですか?」
何やらトキが目を輝かせて言う。
「うん?ルビーさん?彼女の何が可哀想なの?ちゃんと平民として生活できてるし、元気そうだし……あ!あなたみたいなクズ男に惚れたこと?いや、別にルビーさんは元からダメンズホイホイだし、見る目がないなんてお気の毒様とは思うけれど可哀想だなんて思わないわよ~」
誰がダメンズホイホイだ。
まあ確かに一理あるけど……。
「可哀想なのは……あ・な・た」
アリスが指し示す先にいるのは
トキだ。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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