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146.作戦会議①
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カオスだ。
キャッキャと盛り上がるアリスとブランク、意気消沈のルカ、力が抜けた大臣達、怒りで顔を赤らめるタリス男爵、してやったりとご満悦の王妃と公爵とハーゲ伯爵。
ルビーはそれらをぼーっと見る。
貴族世界に戻ってきたという感じがする。自分はまたこの世界で生きていかねばならないのだ。
この前アリスに強制参加させられた作戦会議を思い出す。
~~~~~~
「ルビーさん、ルビーさん…………寝てます?」
「いや、あのこの状況についていけなくて」
「あら、どうか致しまして?」
どうか致しまして?どうか致しまくりだ。この状況におかしいと思わない方がおかしいというもの。アリスに無理やり連れて行かれたのは王妃が所有する庭園だった。
昔来たことがあるが相変わらず美しい。
実に見事だ。
だが、
ちらりと……いやぐるりと目だけで周囲を窺う。
王妃、ラシア妃殿下、宰相、父、公爵、ハーゲ伯爵が目の前でお茶を嗜んでいた。
なんだこの豪華なメンバーは?
「ルビーさん、今の王宮というか王家はあまり宜しくない状況なのよ」
いや、挨拶もしてないのに普通に話し始めちゃったよ。ルビー以外は気にもしていないよう。
ならば…………とりあえず聞いてみようか。
「それは経済的にとかですか?」
「一部金使いの荒い人もいるけれど、王室の予算を過剰に使っているわけではないから大丈夫よ。もともと微妙だけれど、今現在も微妙でそこは良くも悪くも変わりなくてよ」
なんとも返答しづらい言葉に黙る。
「女よ」
「女……ですか?」
「そうよ。王妃様と私以外の女よ」
「あなたも大概トラブルメーカーだけどね」
王妃の言葉にあははははと笑う男性陣。
アリスはニコリと笑うとお口にチャックとばかりに自らの口をなぞった。静かになる男性陣。
空気が読める男たちだ。
いや、あれは魔法で無理矢理閉じられたよう。何やらモゴモゴしている。見て見ぬふりをしておこう。
「まずはこの方」
ブオンとある人物の立体映像が現れた。
うおっ!
「無駄に見事な」
王妃の呟きに大きく頷きそうになるのを堪える。
目の前にはちょっと透けたマリーナ皇太子妃がいた。
「ルビーさん。マリーナ様が王子を失われたことはご存知かしら?」
「はい。2年前に病で亡くなられたと」
3年前マリーナは待望の第一子にして王子を出産した。皇太子夫妻の長男ということでお祭り騒ぎとなり罪人にも恩赦がくだされた。ルビーもその恩恵に預かった一人である。
だが…………1歳になる前に儚くなった。
魔法での治癒は不可能、薬もまだない病だった。誰にもどうにもできなかった。
――――それがその子の運命だった。
「それからマリーナ様は心身ともに病んでしまわれたのよ。何度も自分でお命をお捨てになろうとして、酷なことにお子を望めぬ身体になってしまわれた」
「そんな…………」
「とはいうものこの事態を好機とする下劣な奴らもいたものでね。廃妃だ、側室をと外野がうるさいのよ。ねえ公爵?」
ぷはあと息を吐いた公爵が頷く。宰相とルビー父とハーゲ伯爵がジタバタしているがアリスは完全に無視している。
「はい。とはいえこの国を思えば皆が廃妃、側室をと騒ぐのも理解はできます。皇太子様に王子を望むのは当然のこと」
その言葉に異を唱える者はいない。後継者の存在は必要、それが王族というものだ。
「ですが、それらを皇太子様が拒否なさっておられる。家臣としては複雑ですが、娘の父親としてはなんと有り難いことか……。それだけ心を砕いてくださっているのに娘の心は閉ざされたまま。そして政務が滞っていることも問題です」
意気消沈な様子の公爵。ルビーが公爵のそんな姿を見るのは初めてだった。
「後継者は大丈夫よ、ルカもブランクもラルフもいるのだから。陛下の血を引く者がいるのだから。政務も可能な限り私が頑張るから気にしないで頂戴」
王妃も昔は自分の血を引くものを継がせていきたいと思っていたが、その考えは薄まりつつあった。マリーナへの情。それに色々と疲れてしまった。
「王妃様そんな……。王妃様は今でも十分頑張っておられますわ。でもねルビーさん、やっぱり人って年々ほら皺も増えていくし衰えていくものじゃない?」
「あえて失礼な言い方をするんじゃないわよ!」
「まあ怖い!」
睨む王妃とケラケラと笑うアリスに周囲は呆れ顔だ。
「と冗談はさておき、マリーナ様の心をどうにかしなければ、このままでは彼女が……完全に壊れてしまうわ」
「マリーナ様……」
ルビーの脳裏にマリーナの笑顔が浮かぶ。
いや、目の前の映像が穏やかに微笑んでいる。
紛らわしい。再現度高すぎだろう。
「お次はこの方よ」
「は?」
え?マリーナ様のことは?
マリーナの映像が消え、小柄な女性の透き通った姿が現れる。この人は……ちらりとハーゲ伯爵とラシア妃殿下に目線を向ける。
「そう。こちらにいらっしゃる第三王子ルカ様の妃ラシア様よ」
「はあ?」
目の前にいるのになぜ映像を出す?
「今日はこっそり参りました。ご迷惑お掛けしております」
座ったまま深々と頭を下げる彼女になぜかルビーもいえいえと頭を下げてしまった。
「ご迷惑をお掛けしているのはルカ義兄様でしょう?本当に最悪なのよ、ラシア様を廃妃にするため病気療養中だとして王宮を追い出して政務もやらせないのよ。責任を果たしていないとしたいみたいね。かといってその政務を元凶が代わりにやるわけでもなし、こちらに丸投げよ」
「アリス様……ご理解頂きありがとうございます」
「困った時はお互い様よ」
「アリス様……」
お互いうるうるした目で見つめ合う様は百合のよう。
さっと目を逸らしたアリスはバタバタと口を指差すハーゲ伯爵をちらりと見るとぱちんと指を鳴らす。
ぷはあと思いっきり空気を吸う音がした。
「我が家と致しましてもこのような扱いは納得がいきません。私が娘を強引に妃にねじ込んだ為、愛情が芽生えないこともあるかとは思いますが、支援は惜しみなくしてきたつもりです。魔物退治も金銭的支援も……しかしここまで蔑ろにされるとは……。子供は母親といた方が良いと孫まで王宮から追い出され……まあジジイとしましては孫と暮らせるのは嬉しくもあるのですが」
「お黙り伯爵」
ムグっと伯爵の口が再び塞がれる。
「あの……すみません。状況がよくわからないのですが……」
王妃と公爵がうんうとわかるとでも言いたげにしている中、ルビーが説明をと声を上げる。
「ああ失礼。ルカ義兄様ね、今夢中になっている女性がいるのよ。その人を側室に迎えるってうるさいのよ。その小娘が態度やら何やらもう色々と大きくてね。その母親も父親もヤバイ奴らなのよ。もう本当にムーカーツークー、何様あ?って感じなのよ」
「は、はあ?もう離縁してしまえば……」
「駄目よ、金蔓逃すまじ!」
「駄目です、権力逃すまじ!」
気合でアリスの魔法を破壊して口を開けたハーゲ伯爵――この人こんな人だったかしら?アリスに毒されているような、とルビーは思う。
キャッキャと盛り上がるアリスとブランク、意気消沈のルカ、力が抜けた大臣達、怒りで顔を赤らめるタリス男爵、してやったりとご満悦の王妃と公爵とハーゲ伯爵。
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「あら、どうか致しまして?」
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だが、
ちらりと……いやぐるりと目だけで周囲を窺う。
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「ルビーさん、今の王宮というか王家はあまり宜しくない状況なのよ」
いや、挨拶もしてないのに普通に話し始めちゃったよ。ルビー以外は気にもしていないよう。
ならば…………とりあえず聞いてみようか。
「それは経済的にとかですか?」
「一部金使いの荒い人もいるけれど、王室の予算を過剰に使っているわけではないから大丈夫よ。もともと微妙だけれど、今現在も微妙でそこは良くも悪くも変わりなくてよ」
なんとも返答しづらい言葉に黙る。
「女よ」
「女……ですか?」
「そうよ。王妃様と私以外の女よ」
「あなたも大概トラブルメーカーだけどね」
王妃の言葉にあははははと笑う男性陣。
アリスはニコリと笑うとお口にチャックとばかりに自らの口をなぞった。静かになる男性陣。
空気が読める男たちだ。
いや、あれは魔法で無理矢理閉じられたよう。何やらモゴモゴしている。見て見ぬふりをしておこう。
「まずはこの方」
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うおっ!
「無駄に見事な」
王妃の呟きに大きく頷きそうになるのを堪える。
目の前にはちょっと透けたマリーナ皇太子妃がいた。
「ルビーさん。マリーナ様が王子を失われたことはご存知かしら?」
「はい。2年前に病で亡くなられたと」
3年前マリーナは待望の第一子にして王子を出産した。皇太子夫妻の長男ということでお祭り騒ぎとなり罪人にも恩赦がくだされた。ルビーもその恩恵に預かった一人である。
だが…………1歳になる前に儚くなった。
魔法での治癒は不可能、薬もまだない病だった。誰にもどうにもできなかった。
――――それがその子の運命だった。
「それからマリーナ様は心身ともに病んでしまわれたのよ。何度も自分でお命をお捨てになろうとして、酷なことにお子を望めぬ身体になってしまわれた」
「そんな…………」
「とはいうものこの事態を好機とする下劣な奴らもいたものでね。廃妃だ、側室をと外野がうるさいのよ。ねえ公爵?」
ぷはあと息を吐いた公爵が頷く。宰相とルビー父とハーゲ伯爵がジタバタしているがアリスは完全に無視している。
「はい。とはいえこの国を思えば皆が廃妃、側室をと騒ぐのも理解はできます。皇太子様に王子を望むのは当然のこと」
その言葉に異を唱える者はいない。後継者の存在は必要、それが王族というものだ。
「ですが、それらを皇太子様が拒否なさっておられる。家臣としては複雑ですが、娘の父親としてはなんと有り難いことか……。それだけ心を砕いてくださっているのに娘の心は閉ざされたまま。そして政務が滞っていることも問題です」
意気消沈な様子の公爵。ルビーが公爵のそんな姿を見るのは初めてだった。
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王妃も昔は自分の血を引くものを継がせていきたいと思っていたが、その考えは薄まりつつあった。マリーナへの情。それに色々と疲れてしまった。
「王妃様そんな……。王妃様は今でも十分頑張っておられますわ。でもねルビーさん、やっぱり人って年々ほら皺も増えていくし衰えていくものじゃない?」
「あえて失礼な言い方をするんじゃないわよ!」
「まあ怖い!」
睨む王妃とケラケラと笑うアリスに周囲は呆れ顔だ。
「と冗談はさておき、マリーナ様の心をどうにかしなければ、このままでは彼女が……完全に壊れてしまうわ」
「マリーナ様……」
ルビーの脳裏にマリーナの笑顔が浮かぶ。
いや、目の前の映像が穏やかに微笑んでいる。
紛らわしい。再現度高すぎだろう。
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「は?」
え?マリーナ様のことは?
マリーナの映像が消え、小柄な女性の透き通った姿が現れる。この人は……ちらりとハーゲ伯爵とラシア妃殿下に目線を向ける。
「そう。こちらにいらっしゃる第三王子ルカ様の妃ラシア様よ」
「はあ?」
目の前にいるのになぜ映像を出す?
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座ったまま深々と頭を下げる彼女になぜかルビーもいえいえと頭を下げてしまった。
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「困った時はお互い様よ」
「アリス様……」
お互いうるうるした目で見つめ合う様は百合のよう。
さっと目を逸らしたアリスはバタバタと口を指差すハーゲ伯爵をちらりと見るとぱちんと指を鳴らす。
ぷはあと思いっきり空気を吸う音がした。
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