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152.非常識な女
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ラシアの話を聞いたルビーはポツリと呟く。
「それは……彼女にとって本当に暇つぶしなのでは?」
アリスは基本的に自ら関わらない。特に自分に関係のないことは。よっぽど暇……というより刺激がない日が続いていたのかもしれない。
「ふふ、それならそれで良いのです。私の心が軽くなったのは事実ですから。でも、それだけではないのですよ?弟も改心させたり、あのたわわ娘が……」
トントン
ラシアの話の途中で扉をノックする音がした。
「ルビー様、来たようです」
ラシアの緊張した声にルビーまで緊張してくる。
ガチャリと開く扉。
入室してきた人を迎えるために侍女たち含め皆が立ち頭を下げる。
「皆頭を上げてくれ。ラシア、ナディア、ルビーかけてくれ」
その言葉に頭を上げ、椅子に腰掛けたルビーの目の前には
かつて婚約破棄した婚約者にして、結局夫になったルカがいた。
「お帰りラシア。無理して戻って来なくても良かったのに」
「恐れ入りますルカ様。ですが王妃様から新たな側室を教育するのに王宮に戻るようにと指示がありましたので」
二人の間には見えぬ火花が散る。せっかくラシアを追い出したのに王妃が理由をこじつけて無理矢理王宮に戻してしまった。ルカはニコニコと笑みを浮かべているが内心非常に苛立っていた。
「ナディアもお帰り。少し見ない間に大きくなったね」
ルカが娘であるナディアに視線を向ける。数ヶ月ぶりに会う女に狂った父親、自分を追い出した父親と言葉を交わしたくないナディアはふわりと微笑むと頷く。
肯定しつつ、言葉を交わさなくても良い。非常に賢いやり方にルビーは感心する。そんな彼女にも声がかかる。
「ルビー、久しぶりだね。側室とはいえ見事な返り咲きだ。おめでとう」
それは皮肉か、素直な感想か。
「どうも」
ルビーのそっけない受け答えにルカの顔が引き攣る。だが、引き攣りたいのはこちらの方だ。彼の隣にクレアが座っている。
この場は王子と正妃と側妃の顔合わせの場。その場に侍女でもない部外者が居るなどおかしい。まして正妃と側妃の前で彼女たちの夫の腕に自らの腕を絡め、たわわに実ったものを押し付けながら隣に座るなど非常識極まりない。
「ああ、こちらはクレア・タリス嬢だ。本当だったら今頃彼女が側妃の座にいたはずなんだけどね」
「「「………………」」」
「今回は正妃と側妃の顔合わせだろう?僕の中ではクレアこそが最愛の人。色々と邪魔が入って恋人という立場に甘んじてもらっているが、彼女こそが僕の正式な妻。だからこの場に連れてきたんだよ」
「いや~~~ん、ルカ様。クレアは嬉しゅうございますぅ」
お、おお…………。なんというブリブリ感。自分もかつてぶりっ子したことはあるがここまでではない……はず。とにかく見ていて痛々しい。
品性の欠片もないがルカは嬉しそうな顔をしている。
こんな男に昔とはいえ恋い焦がれていたとは――――
自分が情けなくなるのでやめてほしい。
「でもぉそんなこと言ったらラシア様もルビー様も可哀想ですぅ。めっ!ですよぉ?」
「クレアは優しいなあ。自分の立場を奪った彼女たちのことを思いやれるなんて。彼女たちにも見習ってほしいものだよ」
「あ~~~ん、そんなこと当たり前の事ですぅ。できない方がおかしいんですよぉ。あっ!ごめんなさぁい?」
「誰にでもできることではないよ。でも、君たちは妃であり模範となるべき人間なのだからクレアを見習うべきだね」
「クレア、お妃様たちの見本になっちゃうなんて恥ずかしいですぅ。でもぉこれからもルカ様のために頑張りたいですぅ」
「クレア……」
いちゃいちゃとボディタッチをしながら二人の世界に浸るルカとクレア。こちらのことなどお構いなしだ。ラシアやルビーは仕方ないにしてもナディアもいるというのに。
それに二人の世界にいるくせに人をディスってくるのは一体なんなのか。
これはムカつくわ。王妃様以下お偉方様にもこのような態度であればイライラマックス、ストレスマックスというものだ。
ひたすら二人の会話を聞き続けること数分。ちらりとルカがこちらに視線を寄越した。
「それにしてもクレア、世の中には厚かましい者が多いと思わないかい?相手の気持ちを考えず行動するやつが多いこと多いこと。立場にしがみつくもの、人から立場を奪うもの、愛想のないガキ、金や権力があるものは好き放題振る舞えて羨ましいものだ。王子たる僕などただの名ばかりだとつくづく思うよ」
なっ!なんたるいい草。あんたが王子じゃなかったらただの下半身バカ不倫野郎でしょうが。そもそも王子じゃなかったらそこのデカパイだってあんたの腕にしなだれかかったりしないわよ!と言いたいが言ってはいけない。
ルビーはチラリとラシアとナディアを見るが二人は微笑みという仮面をつけている為、どう思っているかよくわからない。
ムカつく。ムカつく。ムカつく!
思いっきり罵ってやりたい。
が、できない。
「ねえ、黙ってないで何か言ったらどうだい?つまらない女たちだなあ」
んがーーーーーーーーーっ!と思いっきり叫びたい。
我慢。我慢。我慢。
だがそれ以上何も言ってくれるな王子様。
ぽろりと暴言の一つも吐いてしまいそうだ。
「はー、本当にクレアをみなら…………うん?」
ルカの声でルビーも気づく。
うん?
うんん?
うんんんんん?
何やら廊下が騒がしい。男女の言い争う声がする。
『誰もお通しするなとのご命令です』
『おどきなさい』
『アリス様、お願いです。私共がお叱りを受けてしまいます』
『私とルカ王子とどちらが大事なの?』
『そのようなことを言われましても』
『答えられないの?私とルカ王子、どちらが大切なの?』
『そ、そう言われましても。私たち王宮の護衛でありますので』
何やら恋人や夫婦がするようなやり取りが聞こえてくる。
『埒が明かないわね。もう殴っちゃうわよ?』
その言葉にざっと動く気配。
コンコンコンコン、コンコンコンコン
忙しないノックとラシアの入室許可の後部屋に入ってきたのは――――――
最側近である侍女のイリス、護衛のフランクを引き連れたアリスだった。さらにその後ろにはおめかししたラルフとオリビア、護衛のエリアスがいた。
「それは……彼女にとって本当に暇つぶしなのでは?」
アリスは基本的に自ら関わらない。特に自分に関係のないことは。よっぽど暇……というより刺激がない日が続いていたのかもしれない。
「ふふ、それならそれで良いのです。私の心が軽くなったのは事実ですから。でも、それだけではないのですよ?弟も改心させたり、あのたわわ娘が……」
トントン
ラシアの話の途中で扉をノックする音がした。
「ルビー様、来たようです」
ラシアの緊張した声にルビーまで緊張してくる。
ガチャリと開く扉。
入室してきた人を迎えるために侍女たち含め皆が立ち頭を下げる。
「皆頭を上げてくれ。ラシア、ナディア、ルビーかけてくれ」
その言葉に頭を上げ、椅子に腰掛けたルビーの目の前には
かつて婚約破棄した婚約者にして、結局夫になったルカがいた。
「お帰りラシア。無理して戻って来なくても良かったのに」
「恐れ入りますルカ様。ですが王妃様から新たな側室を教育するのに王宮に戻るようにと指示がありましたので」
二人の間には見えぬ火花が散る。せっかくラシアを追い出したのに王妃が理由をこじつけて無理矢理王宮に戻してしまった。ルカはニコニコと笑みを浮かべているが内心非常に苛立っていた。
「ナディアもお帰り。少し見ない間に大きくなったね」
ルカが娘であるナディアに視線を向ける。数ヶ月ぶりに会う女に狂った父親、自分を追い出した父親と言葉を交わしたくないナディアはふわりと微笑むと頷く。
肯定しつつ、言葉を交わさなくても良い。非常に賢いやり方にルビーは感心する。そんな彼女にも声がかかる。
「ルビー、久しぶりだね。側室とはいえ見事な返り咲きだ。おめでとう」
それは皮肉か、素直な感想か。
「どうも」
ルビーのそっけない受け答えにルカの顔が引き攣る。だが、引き攣りたいのはこちらの方だ。彼の隣にクレアが座っている。
この場は王子と正妃と側妃の顔合わせの場。その場に侍女でもない部外者が居るなどおかしい。まして正妃と側妃の前で彼女たちの夫の腕に自らの腕を絡め、たわわに実ったものを押し付けながら隣に座るなど非常識極まりない。
「ああ、こちらはクレア・タリス嬢だ。本当だったら今頃彼女が側妃の座にいたはずなんだけどね」
「「「………………」」」
「今回は正妃と側妃の顔合わせだろう?僕の中ではクレアこそが最愛の人。色々と邪魔が入って恋人という立場に甘んじてもらっているが、彼女こそが僕の正式な妻。だからこの場に連れてきたんだよ」
「いや~~~ん、ルカ様。クレアは嬉しゅうございますぅ」
お、おお…………。なんというブリブリ感。自分もかつてぶりっ子したことはあるがここまでではない……はず。とにかく見ていて痛々しい。
品性の欠片もないがルカは嬉しそうな顔をしている。
こんな男に昔とはいえ恋い焦がれていたとは――――
自分が情けなくなるのでやめてほしい。
「でもぉそんなこと言ったらラシア様もルビー様も可哀想ですぅ。めっ!ですよぉ?」
「クレアは優しいなあ。自分の立場を奪った彼女たちのことを思いやれるなんて。彼女たちにも見習ってほしいものだよ」
「あ~~~ん、そんなこと当たり前の事ですぅ。できない方がおかしいんですよぉ。あっ!ごめんなさぁい?」
「誰にでもできることではないよ。でも、君たちは妃であり模範となるべき人間なのだからクレアを見習うべきだね」
「クレア、お妃様たちの見本になっちゃうなんて恥ずかしいですぅ。でもぉこれからもルカ様のために頑張りたいですぅ」
「クレア……」
いちゃいちゃとボディタッチをしながら二人の世界に浸るルカとクレア。こちらのことなどお構いなしだ。ラシアやルビーは仕方ないにしてもナディアもいるというのに。
それに二人の世界にいるくせに人をディスってくるのは一体なんなのか。
これはムカつくわ。王妃様以下お偉方様にもこのような態度であればイライラマックス、ストレスマックスというものだ。
ひたすら二人の会話を聞き続けること数分。ちらりとルカがこちらに視線を寄越した。
「それにしてもクレア、世の中には厚かましい者が多いと思わないかい?相手の気持ちを考えず行動するやつが多いこと多いこと。立場にしがみつくもの、人から立場を奪うもの、愛想のないガキ、金や権力があるものは好き放題振る舞えて羨ましいものだ。王子たる僕などただの名ばかりだとつくづく思うよ」
なっ!なんたるいい草。あんたが王子じゃなかったらただの下半身バカ不倫野郎でしょうが。そもそも王子じゃなかったらそこのデカパイだってあんたの腕にしなだれかかったりしないわよ!と言いたいが言ってはいけない。
ルビーはチラリとラシアとナディアを見るが二人は微笑みという仮面をつけている為、どう思っているかよくわからない。
ムカつく。ムカつく。ムカつく!
思いっきり罵ってやりたい。
が、できない。
「ねえ、黙ってないで何か言ったらどうだい?つまらない女たちだなあ」
んがーーーーーーーーーっ!と思いっきり叫びたい。
我慢。我慢。我慢。
だがそれ以上何も言ってくれるな王子様。
ぽろりと暴言の一つも吐いてしまいそうだ。
「はー、本当にクレアをみなら…………うん?」
ルカの声でルビーも気づく。
うん?
うんん?
うんんんんん?
何やら廊下が騒がしい。男女の言い争う声がする。
『誰もお通しするなとのご命令です』
『おどきなさい』
『アリス様、お願いです。私共がお叱りを受けてしまいます』
『私とルカ王子とどちらが大事なの?』
『そのようなことを言われましても』
『答えられないの?私とルカ王子、どちらが大切なの?』
『そ、そう言われましても。私たち王宮の護衛でありますので』
何やら恋人や夫婦がするようなやり取りが聞こえてくる。
『埒が明かないわね。もう殴っちゃうわよ?』
その言葉にざっと動く気配。
コンコンコンコン、コンコンコンコン
忙しないノックとラシアの入室許可の後部屋に入ってきたのは――――――
最側近である侍女のイリス、護衛のフランクを引き連れたアリスだった。さらにその後ろにはおめかししたラルフとオリビア、護衛のエリアスがいた。
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