9 / 10
SIDE:レオン
5.傷つけたい訳じゃなくて
しおりを挟む
■
自分から手を離すと決めた癖に、誕生日の贈り物を、ローラが、昼休みの食事中に、立ったまま手渡ししておしまいにしようとしたのは、キツかった。
差し出されたのは、ちいさな紙包みで、細いリボンが掛けられているだけの簡素な物だった。
早く受け取れという圧を感じる。
受け取ったなら、義務は果たしたと、その足で侯爵家の兄妹の所にでも行くつもりなのだろう。
手を離すと決めたのは自分なのに、何故か猛烈に、悲しくて悔しかった。
「なんて無粋なんだ。今、俺はフランと話をしているんだ。勝手に話へ割ってくるな。後で時間を取る」
そう言って、手を振っただけのつもりだった。なのに。
パシッ。
差し出されていた包みに、振った手が当たってしまった。
「あっ」
それは思いの外勢いよく窓の外へと飛び出していき、ローラが伸ばした手を越え、テラス席の柵を越えていく。
ぱしゃん。
中庭の、前日の雨でできた水たまりの中へと落ちる音がした。
「あぁ……」
柵に縋りつき、下を覗き込んだローラが落胆の声を漏らした。
さすがにそんなことをするつもりはなかったので、慌てて言い訳を口にした。
「わ、わざとじゃない。けど、こんなところで立ったままとか。そっちだって酷い」
こんなことを言いたい訳じゃないのに。ちゃんと謝らないと駄目だ。
それなのに。
謝罪の言葉を探している間に、ローラは踵を返して去ってしまった。
「うわー、さすがにあれは駄目ですよ、レオン様」
「フ、フラン嬢。すまないが、ひとり置いていってもいいだろうか」
「早く追って差し上げて下さい。黙って置いていかれるようでしたら、反射的に捕まえようとしちゃったかもしれませんけど。変な所で紳士ですよね、レオン様って」
ひらひらと手を振るフランに背中を押される。
「ありがとう。約束した将来の婿候補は必ず見つけるから!」
手を振り答えて、走っていったローラを追いかけた。
***
「あんなに未練たっぷりじゃどうにもならないわよねぇ。一緒にいても、ローラさんがいかに優秀で、侯爵夫人になってもやっていけるほど素晴らしいかって話と、幼い頃の思い出を延々と繰り返し聞かされるばっかりだし。あーあ。私も、誰かにそんな風に一途に想われたいー!!」
自分から手を離すと決めた癖に、誕生日の贈り物を、ローラが、昼休みの食事中に、立ったまま手渡ししておしまいにしようとしたのは、キツかった。
差し出されたのは、ちいさな紙包みで、細いリボンが掛けられているだけの簡素な物だった。
早く受け取れという圧を感じる。
受け取ったなら、義務は果たしたと、その足で侯爵家の兄妹の所にでも行くつもりなのだろう。
手を離すと決めたのは自分なのに、何故か猛烈に、悲しくて悔しかった。
「なんて無粋なんだ。今、俺はフランと話をしているんだ。勝手に話へ割ってくるな。後で時間を取る」
そう言って、手を振っただけのつもりだった。なのに。
パシッ。
差し出されていた包みに、振った手が当たってしまった。
「あっ」
それは思いの外勢いよく窓の外へと飛び出していき、ローラが伸ばした手を越え、テラス席の柵を越えていく。
ぱしゃん。
中庭の、前日の雨でできた水たまりの中へと落ちる音がした。
「あぁ……」
柵に縋りつき、下を覗き込んだローラが落胆の声を漏らした。
さすがにそんなことをするつもりはなかったので、慌てて言い訳を口にした。
「わ、わざとじゃない。けど、こんなところで立ったままとか。そっちだって酷い」
こんなことを言いたい訳じゃないのに。ちゃんと謝らないと駄目だ。
それなのに。
謝罪の言葉を探している間に、ローラは踵を返して去ってしまった。
「うわー、さすがにあれは駄目ですよ、レオン様」
「フ、フラン嬢。すまないが、ひとり置いていってもいいだろうか」
「早く追って差し上げて下さい。黙って置いていかれるようでしたら、反射的に捕まえようとしちゃったかもしれませんけど。変な所で紳士ですよね、レオン様って」
ひらひらと手を振るフランに背中を押される。
「ありがとう。約束した将来の婿候補は必ず見つけるから!」
手を振り答えて、走っていったローラを追いかけた。
***
「あんなに未練たっぷりじゃどうにもならないわよねぇ。一緒にいても、ローラさんがいかに優秀で、侯爵夫人になってもやっていけるほど素晴らしいかって話と、幼い頃の思い出を延々と繰り返し聞かされるばっかりだし。あーあ。私も、誰かにそんな風に一途に想われたいー!!」
261
あなたにおすすめの小説
【完結】前世の恋人達〜貴方は私を選ばない〜
乙
恋愛
前世の記憶を持つマリア
愛し合い生涯を共にしたロバート
生まれ変わってもお互いを愛すと誓った二人
それなのに貴方が選んだのは彼女だった...
▶︎2話完結◀︎
婚約者が一目惚れをしたそうです
クロユキ
恋愛
親同士が親友で幼い頃から一緒にいたアリスとルイスは同じ学園に通い婚約者でもあった。
学園を卒業後に式を挙げる約束をしていた。
第一王子の誕生日と婚約披露宴に行く事になり、迎えに来たルイスの馬車に知らない女性を乗せてからアリスの運命は変わった…
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
性格が嫌いだと言われ婚約破棄をしました
クロユキ
恋愛
エリック・フィゼリ子息子爵とキャロル・ラシリア令嬢子爵は親同士で決めた婚約で、エリックは不満があった。
十五歳になって突然婚約者を決められエリックは不満だった。婚約者のキャロルは大人しい性格で目立たない彼女がイヤだった。十六歳になったエリックには付き合っている彼女が出来た。
我慢の限界に来たエリックはキャロルと婚約破棄をする事に決めた。
誤字脱字があります不定期ですがよろしくお願いします。
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
嘘だったなんてそんな嘘は信じません
ミカン♬
恋愛
婚約者のキリアン様が大好きなディアナ。ある日偶然キリアン様の本音を聞いてしまう。流れは一気に婚約解消に向かっていくのだけど・・・迷うディアナはどうする?
ありふれた婚約解消の数日間を切り取った可愛い恋のお話です。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる