幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人

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SIDE:レオン

5.傷つけたい訳じゃなくて

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 自分から手を離すと決めた癖に、誕生日の贈り物を、ローラが、昼休みの食事中に、立ったまま手渡ししておしまいにしようとしたのは、キツかった。

 差し出されたのは、ちいさな紙包みで、細いリボンが掛けられているだけの簡素な物だった。
 早く受け取れという圧を感じる。
 受け取ったなら、義務は果たしたと、その足で侯爵家の兄妹の所にでも行くつもりなのだろう。

 手を離すと決めたのは自分なのに、何故か猛烈に、悲しくて悔しかった。


「なんて無粋なんだ。今、俺はフランと話をしているんだ。勝手に話へ割ってくるな。後で時間を取る」

 そう言って、手を振っただけのつもりだった。なのに。

 パシッ。

 差し出されていた包みに、振った手が当たってしまった。

「あっ」

 それは思いの外勢いよく窓の外へと飛び出していき、ローラが伸ばした手を越え、テラス席の柵を越えていく。

 ぱしゃん。

 中庭の、前日の雨でできた水たまりの中へと落ちる音がした。

「あぁ……」

 柵に縋りつき、下を覗き込んだローラが落胆の声を漏らした。
 さすがにそんなことをするつもりはなかったので、慌てて言い訳を口にした。

「わ、わざとじゃない。けど、こんなところで立ったままとか。そっちだって酷い」

 こんなことを言いたい訳じゃないのに。ちゃんと謝らないと駄目だ。

 それなのに。

 謝罪の言葉を探している間に、ローラは踵を返して去ってしまった。


「うわー、さすがにあれは駄目ですよ、レオン様」

「フ、フラン嬢。すまないが、ひとり置いていってもいいだろうか」

「早く追って差し上げて下さい。黙って置いていかれるようでしたら、反射的に捕まえようとしちゃったかもしれませんけど。変な所で紳士ですよね、レオン様って」

 ひらひらと手を振るフランに背中を押される。

「ありがとう。約束した将来の婿候補は必ず見つけるから!」

 手を振り答えて、走っていったローラを追いかけた。


***


「あんなに未練たっぷりじゃどうにもならないわよねぇ。一緒にいても、ローラさんがいかに優秀で、侯爵夫人になってもやっていけるほど素晴らしいかって話と、幼い頃の思い出を延々と繰り返し聞かされるばっかりだし。あーあ。私も、誰かにそんな風に一途に想われたいー!!」


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