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エピローグ:顔と爵位がいいだけの先輩の話
叱る兄と叱られる妹
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「でもおにいさまだって。本当は彼女を気に入っていらしたでしょう?」
涙目になって耳を押さえる可愛い妹を、兄が目が笑っていない笑顔で問い掛けた。
「まだそんなことを言っているのかい。私の妹は、存外頭が悪かったようだな。失望したよ」
やれやれとばかりに、両掌を肩の高さで天に向け、首を横に振ってみせた。
そこまでして見せたというのに。妹がその愛らしい唇を尖らせてまだ言うのだ。
「でも。おにいさまが笑いかける令嬢なんて、ローラだけじゃない。だから、わたくし……」
しょんぼりと肩を落とした妹の、綺麗に纏められた髪をぐりぐりと乱暴に撫でた。
「きゃあ、やめてくださいまし。髪が、セットが崩れますわ!」
騒ぐ妹を無視して「罰だ」と呟き、更に両手に力を込めて乱暴に撫でてやる。
すっかりぼさぼさになったところで手を緩めた。
「馬鹿だな、そんなの。お前が自分から欲しいと動いた、数少ない友人だからだよ」
「……そうですの?」
ぼさぼさの頭のまま見上げてくる、ぽかんとした表情の妹へ、笑顔を向ける。
「勿論だ。あぁ。それと、私の顔と地位だけをみて目の色を変えるような令嬢ではなかったのも大きいな。まぁ、そんな狩人みたいな令嬢をお前が友人に望む訳ないだろうがね」
「そうでしたか。わたくし、勘違いしてしまって。恥ずかしいですわ。ローラと婚約者様にも謝らなくてはなりませんね」
しょんぼりとしていた妹の顔が幼い頃のような甘えたそれに変わっていくのに、目を細めた。
理想の令嬢だと賞されるようになった妹がみせなくなってしまった表情だった。
やはり兄という生き物は妹に弱いのだなと、諦めの入った息をはいた。
ぼさぼさになった髪を、ゆっくりと手櫛で整えてやる。
「あぁ、そうだ。それがいい」
この会話に疑問など持たず。
受け入れてくれ。
私も、心に宿りかけていた想いに、気が付かなかったことにするから。
婚約者に疎まれている哀れな令嬢などいなかった。
新しい知識や気付きに目を輝かせる礼儀正しい令嬢の記憶は、婚約者と心を通わせた幸せな笑みで上書きされた。
後輩の幸せを祈る、優しい尊敬される先輩。
それが自分に求められる立ち位置なのだから。
「でもおにいさまだって。本当は彼女を気に入っていらしたでしょう?」
涙目になって耳を押さえる可愛い妹を、兄が目が笑っていない笑顔で問い掛けた。
「まだそんなことを言っているのかい。私の妹は、存外頭が悪かったようだな。失望したよ」
やれやれとばかりに、両掌を肩の高さで天に向け、首を横に振ってみせた。
そこまでして見せたというのに。妹がその愛らしい唇を尖らせてまだ言うのだ。
「でも。おにいさまが笑いかける令嬢なんて、ローラだけじゃない。だから、わたくし……」
しょんぼりと肩を落とした妹の、綺麗に纏められた髪をぐりぐりと乱暴に撫でた。
「きゃあ、やめてくださいまし。髪が、セットが崩れますわ!」
騒ぐ妹を無視して「罰だ」と呟き、更に両手に力を込めて乱暴に撫でてやる。
すっかりぼさぼさになったところで手を緩めた。
「馬鹿だな、そんなの。お前が自分から欲しいと動いた、数少ない友人だからだよ」
「……そうですの?」
ぼさぼさの頭のまま見上げてくる、ぽかんとした表情の妹へ、笑顔を向ける。
「勿論だ。あぁ。それと、私の顔と地位だけをみて目の色を変えるような令嬢ではなかったのも大きいな。まぁ、そんな狩人みたいな令嬢をお前が友人に望む訳ないだろうがね」
「そうでしたか。わたくし、勘違いしてしまって。恥ずかしいですわ。ローラと婚約者様にも謝らなくてはなりませんね」
しょんぼりとしていた妹の顔が幼い頃のような甘えたそれに変わっていくのに、目を細めた。
理想の令嬢だと賞されるようになった妹がみせなくなってしまった表情だった。
やはり兄という生き物は妹に弱いのだなと、諦めの入った息をはいた。
ぼさぼさになった髪を、ゆっくりと手櫛で整えてやる。
「あぁ、そうだ。それがいい」
この会話に疑問など持たず。
受け入れてくれ。
私も、心に宿りかけていた想いに、気が付かなかったことにするから。
婚約者に疎まれている哀れな令嬢などいなかった。
新しい知識や気付きに目を輝かせる礼儀正しい令嬢の記憶は、婚約者と心を通わせた幸せな笑みで上書きされた。
後輩の幸せを祈る、優しい尊敬される先輩。
それが自分に求められる立ち位置なのだから。
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