公爵令嬢ジュスティーヌ・アフレは美しいモノが好き

喜楽直人

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「さぁ。ここまでが、わたくし達がどう考えて今回王太子殿下へ『神の監視』を付けることになったのかの説明です。そうして、ここからが、本番ですわ」

 話を進めようとジュスティーヌは、侍女から受け取った書類を二枚、両手で周囲へ見えるように掲げ持った。

「どうぞこちらをご覧ください」

 会話の最中も繰り返し流し続けられていた先ほどのあの無様で醜悪な映像に代わり、その書類が大きく会場に映し出された。

 耳と目を塞いでいた令嬢令息たちが、ホッとした様子で目を開く。

「右が、アールド王太子殿下が婚約者への贈り物であると予算を使った際に王宮へ届いた請求書だそうです。そうして左が、殿下が婚約者の為にドレスを仕立てた筈のドレス工房が本当に使っている請求書ですわ」

 それは、明らかに別物だった。

 書式だけならばよく似ていた。書かれている文字もよく似ている。
 だが、使われている紙が違い過ぎる。そしてなにより住所と支払先とされる口座が違っていた。

「王太子殿下側からは、『王太子の婚約者に相応しい特別仕様のものばかりなので振込先が違うそうだ』という説明がされたそうですね。ですわよね、リガ・イーデン様?」

 ビクン。大袈裟なほど大きくその大きな身体が跳ねた。
 鉄薔薇の蔓に拘束された巨体がガタガタと煩いほどに震えている。

「あぁ、失礼致しました。口元まで覆われていては、質問に答えることはできませんね。『鉄薔薇』」

 呪文と呼べるほどのものですらない。自らの魔法へ呼び掛けるようにジュスティーヌがその名を口にすると、まるで意を汲むように鉄の蔓がしゅるりと解けていく。ただし当然のように解放されたのは、リガの口元の部分だけだ。

「さぁ、どうぞ」

 言質を取ろうという気満々であるジュスティーヌへ、リガは理不尽にも怒りを覚えた。

「……、アールド様の選んだ、真なる婚約者への贈り物だ。何の問題も、ない」

「なるほど。そういう理屈でしたか」

 パチン、と音を立てて扇を閉じる。
 その声には納得したという響きが確かにあった。

 リガは、まさか自分の苦し紛れの回答に納得するジュスティーヌではないと思っていたので、あっけに取られた。そうして、じんわりと喜びが湧きあがってくる。

 ──どれだけ賢いと言われても所詮ジュスティーヌは女なのだ、騙すのは容易い、と。

 しかし、薄っすらと口元に笑みを貼り付かせて、ジュスティーヌはリガに裁定を申し渡した。

「それならば、せめて婚約を破棄する手続きを為し、新しくララ・コロー子爵令嬢との間に婚約を成立させてからにするべきでした。わたくしを婚約者の座に据えたまま勝手に予算を使うのは許されません。国家予算の横領、それをお認めになられたということですね」

「そ、それは、その」

「そして、横領とはまったく別の問題も残されたままです。先ほどの請求書に関してドレス工房に問い合わせた結果、『自分の店の名前を勝手に使われた』との回答を得ました。同等の告発を、宝飾品店や靴工房などから受けております」

「!」

「請求書を偽造し、振り込まれたお金を詐取した罪についても、お認めになられますか?」

「そそそそそれは、その、あー、ああああーるどデンカが」
「アールド王太子殿下からの指示だった、ということでしょうか」

「は、はひ」

 間髪入れずに問われた言葉に、リガは頷く以外できなかった。

「んんっ、んんん、んっんんんんっ!(リガ、お前ちょっと黙れ!)」

「偽造するにしても調査不足と言わざるを得ません。詐取するつもりでしたのでしょうから口座が違うのはともかく、その口座を開かれたのがリガ様ご自身というのもお粗末ですし、請求書に使われている紙の種類くらいは合わせるべきです。そこをケチッてどうするのです」

 懇々と説教されて、リガは涙目になった。
 偽造したいと相談したのは、懇意にしている平民の生徒だった。
 母親の処へ届いたドレス工房の請求書を一枚盗みだし、それを元に振込先を書き換えたものを用意させたのだ。その時リガは、殿下が卒業して側近として召し抱えられた暁にはその生徒の親が持つ商会を贔屓にして金を落すという約束で請求書の製作代金をかなり値切ったのだ。
 あそこで値切らなければ、発覚しなかったのではないか。いいや、ひと目で分かるほど質の劣る紙を使うような男を信用したのが間違いだったのだ、やはり平民などに任せたのが間違いだったのだと、自身の油断を後悔していた。

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