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その夜会は王子殿下と侯爵令嬢の婚約発表の場だった、招かれた貴族達は高位順にお祝いの言葉を述べるために列を作った。順当に進みアシュトン伯爵家は挨拶を済ませて各人散って知り合いを見つけては談笑を始める。
身重なルシアナは壁際へ退きソファに腰かけ侍女に世話を焼かれていた。
「ふぅ、安定期は過ぎたとはいえ長時間立っているのは辛いわ」
「ご安心下さい、私が側におります」
「ええ、ありがとうリリア助かるわ」
妊婦の令嬢を気遣って侍女はそう言った、幼いころからの専属だったのでルシアナは誰よりも頼りにしていた。
額に噴き出た汗を拭われていると夫のニコラスが彼女らのもとへやって来た。
「さすが王家主催の夜会だ、上等なワインがあるぞ。一杯どうだ?」
夫は給仕の真似事でもしてるのか、いくつかの飲み物を乗せた銀盆を手の平にのせて笑う。
「……あなた、いくら私に興味がないからと妊婦に酒をすすめるのですか」
妻の怒りを孕んだ台詞を聞いたニコラスは肩を竦めて「ただの冗談に目くじらを立てるな」と言った。
ならば果実水はどうかとすすめて来た、オレンジと林檎の果汁が注がれたグラスが三つほどそこに鎮座していた。
「……では、林檎味をいただきましょう」
「あぁ」
ルシアナは銀盆から一つを選んで一口含む、少し温かったが渇いた喉には有難い爽やかな甘味が広がる。
グラスを傾けて飲みだした妻を見て、興味が失せたらしい夫はすぐにその場から離れていく。
「普段はいない者のように無視している癖にどういう気まぐれかしら?」
「左様ですね、いつも食えない男です」
遠ざかるニコラスの背を見つめてルシアナと侍女は苦々しい気持ちでいっぱいになっていた。彼の姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなる。
ほどなくして会場にはダンス音楽が流れはじめた、誰ともなくステップを踏み出して踊りの輪が広がって行く。
招待客達は程よく酔いも回ってきたのか話し声も大きくなる、祝いの会はどんどん賑やかになって行った。
「なんだか眠いわ……先に暇して良いかしら」
「畏まりました、すぐに馬車を回させましょう」
侍女は会場を巡回していた騎士を呼び止めて、事情を話し侯爵家の馬車を呼んでくれないかと依頼した。
すぐに会場を後にしたルシアナ達は馬車に乗り込み帰路を急がせる。
彼女は気分は悪くないがやたらと眠気に襲われていた、こんな事は初めてだと少し恐ろしくなる。
「眠い……でも寝てはいけない気がするの……」
ルシアナはしきりに腹を撫でてまだ見ぬ我が子を気遣っていた、どうしてだか寝ては駄目だと心が警鐘を鳴らすのだ。
”ダメ寝てはいけない……あぁ、誰か助けて。私は……眠りたくないの……”
付き添っていた侍女は余程お疲れなのだろうと主の身体を気遣って静かにストールを掛けてやった。
不自然な眠気に抗い続けていたルシアナはとうとう意識を手放す。
邸宅に着きそのまま寝室へと運ばれた彼女は深い眠りに落ちた。
翌日、朝の支度へと顔を出した侍女が声を掛けるがやはり眠りから目覚めない。
もう少し様子を見ようと寝具の側で見守った。
だが、昼近くになってもルアシナが目を覚ますことはなかった。侍女が異変を察知して両親を読んだ時には遅かった。
彼女はそのまま永遠の眠りについてしまったのだ。
――死に際、彼女は不思議な夢をみた。
お腹を抱えて『ごめんなさい、産んであげられなくてごめんなさい』と懺悔しながら泣くルシアナ。
昏くて悲しい空間に沈んでいく身体は徐々に落ちて行った。
だが、しばらくすると白くて何もない空間に浮かんでいた。
身動きがとれずじっとしていると、か細い声が彼女の耳に届いてきた。声のした方へ顔を向けると羽を生やした小人が佇んでいた。
”だいじょうぶ、恐れないで”
”次こそは貴女の未来と家族を護ってね。そしたら会えるから、今度こそ、その腕の中に”
『待ってあなたは誰?未来ってなに?私は死ぬのでしょう?』
だがその者は答えず、少し寂しそうに微笑むとゆっくりと彼女から遠ざかって行く。
身重なルシアナは壁際へ退きソファに腰かけ侍女に世話を焼かれていた。
「ふぅ、安定期は過ぎたとはいえ長時間立っているのは辛いわ」
「ご安心下さい、私が側におります」
「ええ、ありがとうリリア助かるわ」
妊婦の令嬢を気遣って侍女はそう言った、幼いころからの専属だったのでルシアナは誰よりも頼りにしていた。
額に噴き出た汗を拭われていると夫のニコラスが彼女らのもとへやって来た。
「さすが王家主催の夜会だ、上等なワインがあるぞ。一杯どうだ?」
夫は給仕の真似事でもしてるのか、いくつかの飲み物を乗せた銀盆を手の平にのせて笑う。
「……あなた、いくら私に興味がないからと妊婦に酒をすすめるのですか」
妻の怒りを孕んだ台詞を聞いたニコラスは肩を竦めて「ただの冗談に目くじらを立てるな」と言った。
ならば果実水はどうかとすすめて来た、オレンジと林檎の果汁が注がれたグラスが三つほどそこに鎮座していた。
「……では、林檎味をいただきましょう」
「あぁ」
ルシアナは銀盆から一つを選んで一口含む、少し温かったが渇いた喉には有難い爽やかな甘味が広がる。
グラスを傾けて飲みだした妻を見て、興味が失せたらしい夫はすぐにその場から離れていく。
「普段はいない者のように無視している癖にどういう気まぐれかしら?」
「左様ですね、いつも食えない男です」
遠ざかるニコラスの背を見つめてルシアナと侍女は苦々しい気持ちでいっぱいになっていた。彼の姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなる。
ほどなくして会場にはダンス音楽が流れはじめた、誰ともなくステップを踏み出して踊りの輪が広がって行く。
招待客達は程よく酔いも回ってきたのか話し声も大きくなる、祝いの会はどんどん賑やかになって行った。
「なんだか眠いわ……先に暇して良いかしら」
「畏まりました、すぐに馬車を回させましょう」
侍女は会場を巡回していた騎士を呼び止めて、事情を話し侯爵家の馬車を呼んでくれないかと依頼した。
すぐに会場を後にしたルシアナ達は馬車に乗り込み帰路を急がせる。
彼女は気分は悪くないがやたらと眠気に襲われていた、こんな事は初めてだと少し恐ろしくなる。
「眠い……でも寝てはいけない気がするの……」
ルシアナはしきりに腹を撫でてまだ見ぬ我が子を気遣っていた、どうしてだか寝ては駄目だと心が警鐘を鳴らすのだ。
”ダメ寝てはいけない……あぁ、誰か助けて。私は……眠りたくないの……”
付き添っていた侍女は余程お疲れなのだろうと主の身体を気遣って静かにストールを掛けてやった。
不自然な眠気に抗い続けていたルシアナはとうとう意識を手放す。
邸宅に着きそのまま寝室へと運ばれた彼女は深い眠りに落ちた。
翌日、朝の支度へと顔を出した侍女が声を掛けるがやはり眠りから目覚めない。
もう少し様子を見ようと寝具の側で見守った。
だが、昼近くになってもルアシナが目を覚ますことはなかった。侍女が異変を察知して両親を読んだ時には遅かった。
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”だいじょうぶ、恐れないで”
”次こそは貴女の未来と家族を護ってね。そしたら会えるから、今度こそ、その腕の中に”
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だがその者は答えず、少し寂しそうに微笑むとゆっくりと彼女から遠ざかって行く。
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