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落とした手鏡
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アメリア・エンドルフ公爵令嬢は学園に入学して半年経つが、平凡が過ぎる日々に飽きていた。
少し頑固な彼女には婚約者がいない、釣書きが来ても悉く無視をしていた。
両親のような恋愛結婚を望んでいたが、一向に恋の予感はまったくなくて絶望している。
「兄が家督を継ぐもの、私はいっそ職業婦人にでもなろうかしら?」
好きでもない男と無理矢理結婚しても幸せになれる気がしないと思うのだ。
そんな彼女が貴族生徒用のカフェに向かう途中の廊下で声を掛けられる。またご機嫌伺いの生徒かとウンザリした。だが、社交用の笑顔を貼り付けて振り向き「なにか?」と言った。
背後には何かを拾ったらしい男子生徒が微笑んで立っていた。見覚えのない人物に頭を傾げる。
ネクタイの色から同学年の平民クラスの子だと理解する。
「いきなり失礼、手鏡を落とされたようなので」
「あ、あら。ありがとうございます」
分厚い絨毯が敷かれた廊下では落下音が小さすぎて聞こえなかったようだ。ウッカリさに恥ずかしいと思うアメリアだが彼の発する言葉に固まる。
「割れてなくて良かった、……今日もとても美しいね」
「え!?」
面識のないはずの生徒に容姿を褒められた彼女は吃驚した、”今日も”という箇所に過剰に反応してしまったのだ。
「あ、あの……今日もというのは」
「ええ、いつも見ているから。はい、どうぞ落とさないでね」
彼は爽やかに微笑むと反対方向へと去って行った、平民故なのか敬語なしの気さくな態度にアメリアは新鮮さを感じた。
「お名前くらい聞いておけば良かったわ」
お礼も碌に言えないまま別れてしまったことを彼女は後悔する。
「公爵令嬢として礼節に欠ける言動だったわ……」
ちゃんとお礼をしたいと思った彼女の頬には薄っすらと紅がさしていた。
少し頑固な彼女には婚約者がいない、釣書きが来ても悉く無視をしていた。
両親のような恋愛結婚を望んでいたが、一向に恋の予感はまったくなくて絶望している。
「兄が家督を継ぐもの、私はいっそ職業婦人にでもなろうかしら?」
好きでもない男と無理矢理結婚しても幸せになれる気がしないと思うのだ。
そんな彼女が貴族生徒用のカフェに向かう途中の廊下で声を掛けられる。またご機嫌伺いの生徒かとウンザリした。だが、社交用の笑顔を貼り付けて振り向き「なにか?」と言った。
背後には何かを拾ったらしい男子生徒が微笑んで立っていた。見覚えのない人物に頭を傾げる。
ネクタイの色から同学年の平民クラスの子だと理解する。
「いきなり失礼、手鏡を落とされたようなので」
「あ、あら。ありがとうございます」
分厚い絨毯が敷かれた廊下では落下音が小さすぎて聞こえなかったようだ。ウッカリさに恥ずかしいと思うアメリアだが彼の発する言葉に固まる。
「割れてなくて良かった、……今日もとても美しいね」
「え!?」
面識のないはずの生徒に容姿を褒められた彼女は吃驚した、”今日も”という箇所に過剰に反応してしまったのだ。
「あ、あの……今日もというのは」
「ええ、いつも見ているから。はい、どうぞ落とさないでね」
彼は爽やかに微笑むと反対方向へと去って行った、平民故なのか敬語なしの気さくな態度にアメリアは新鮮さを感じた。
「お名前くらい聞いておけば良かったわ」
お礼も碌に言えないまま別れてしまったことを彼女は後悔する。
「公爵令嬢として礼節に欠ける言動だったわ……」
ちゃんとお礼をしたいと思った彼女の頬には薄っすらと紅がさしていた。
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