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絵の中で微笑む

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廊下で出会った男子生徒を探すが、僅か数分の事で覚えていたのは淡い金髪と赤茶の瞳、それから笑うと笑窪ができるということくらい。
それぞれの校舎も身分によって分けられており、上位貴族である彼女は王族と同じ学び舎で過ごしている。共同で使われる廊下での出会いは本当に奇跡的なことだった。偶然を期待してあの廊下を往復してみたが、あの彼が通ることはなかった。

学生食堂のテーブルで匙を持ったままアメリアは深いため息を吐いていた。
「はぁ、どういうことなのかしら。いくらなんでも……同じ学園内にいますのに!」
出会いからすでに一月も経過していて、このままでは面差しさえ忘却しそうだと彼女は焦る。
仲の良い学友が心配して、一向に減らない食事のトレイを指差して「代わりに食べて差し上げる」と言ってケーキを取り上げた。

「宜しくてよ、カボチャケーキはあまり好きではないの果物が好きですわ」
「あら、そうでしたの。では林檎のタルトが出た時は差し上げるわ」
この子供のように振る舞う女子はシュリーという、従姉で身分は同じ公爵家である。時期は秋になっていて栗やカボチャの美味しい季節だとシュリーは微笑む。

「貴女が殿方に懸想するなんて私はびっくり!」
「……懸想だなんて、そこまでのことでは」
慌てて否定するアメリアに従姉は悪戯な笑みを浮かべて彼女に耳打ちする。それを聞いたアメリアは「んまぁ!」と少し大きめに声を出してしまう。

***

「ほ、本当に行きますの?用もなく私達が出入りするなんて」
「用がないなら作れば宜しいのよ、例えば……迷子になったとか?」
「迷子って……不自然さしかないのだけど」
アメリアは従姉の勢いに負けて付いてきてしまった己を呪う、考えなしに行動するシュリーの性格を忘れていたのだ。

無計画にも拘わらず従姉は鼻歌交じりにドンドン先を行く、貴族令嬢としてはかなり大胆で無作法だ。
「はしたない、こんな事はいけませんのよ」箱入りのアメリアは気が気ではないのだ。そう言いつつもキョロキョロと視線を這わせる彼女はチャッカリあの青年を探している。
「素直じゃないんですのねぇ」
「だ、だって私、こんな大胆なこと……お母様に知れたら」
「恋して結婚したかったのでは?貴女ってほんと矛盾しているわ」
「うっ」

論破されたアメリアは渋々としたがって歩を進める。
すると廊下ですれ違う生徒が貴族令嬢に気が付いて振り向き、コソコソと話す声が聞こえてくる。居たたまれなくなったアメリアはやはり引き返そうとシュリーを引っ張った。
「ねぇシュリー、十分よ。もう気が済んだから戻りましょうよ」
「え~せっかく来たのに、何も成し遂げてないわよ?」
好奇心でワクワクするシュリーと青褪めて縮こまるアメリアは対照的である。

そして、平民学舎の中央へ辿り着いた時、音楽室と美術室に差し掛かった。
そこの壁に見覚えがあるものを見つけてアメリアは立ち止まった、異変に気が付いたシュリーは彼女の視線先を辿った。

壁にあったのは美しい青年が描かれた一枚のポスターだった。
「この方、そうよ廊下で出会ったのはこの人に間違いないわ!」
「そうですの?でもこの人って確か……」





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