完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)

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方々各所に頭を下げまくったバルドラッド伯爵夫妻はすっかり憔悴しきり、結婚式当日の意気揚々とした姿は見る影も無かった。あの日、テルミナに招待されたマルガネットは彼女の両親に挨拶をした、その時、妙な違和感を感じた。

「今覚えば……道理であの時の視線は私を見下していたのよね、夫を捕られた癖に良くも顔を出せたものだと嘲笑していたのだわ」
バスルームに沈みながらそんな事を回顧しているマルガネットは、ぶくぶくと泡を吐いて苦しくなってから「ぷはぁ」と顔を出した。

「あ~頭がグチャグチャだわ、あの莫迦夫のせいで!どうしてくれようかしら」
あの後、床にめり込むのではと思うほど頭を下げて来たバルドラッド伯爵夫妻を少し小馬鹿にしてから、今度はブレンドンの両親であるバイパー子爵夫妻のことを思い浮かべる。
「正念場よね」



急遽シュナイザ家に呼び出された彼らは最初なんの話をしているのだろうと小首を傾げ、キョトン顔でこちらを見て来た。しかし、弁護士同席で話を進めると見る見ると青褪めて悲鳴を上げたものだ。
「こ、この度は愚息が申しわけないことをしました!なんとお詫びをして良いが!」
「ひぃ~なんてこと……どうしてこんな馬鹿げたことを!大恩あるシュナイザ伯爵に顔向け出来ませんわ!」
オイオイと咽び泣きパニックを起こした夫人を別室に通して再び話し合いになる。ちなみにシュナイザ卿は領地の視察で不在である。

だがしかし、バイパー子爵は窶れながらも謝罪さえすれば元鞘とでも思ったのかヘラヘラと媚びへつらってきた。小娘一人と侮ったのだ。
「愚息には徹底的に指導しますのでここはどうか穏便に……慰謝料とかそういうのは……ね?」
「なんですって!?」
マルガネットは怒りが頂点に達したのか持っていた紅茶カップにピキリと罅を入れた。それからワナワナと震えたかと思うとバキンとカップを真っ二つにした。氷の魔法が勝手に発動したのである。天井に突きそうなくらいの氷柱をその場に顕現してしまう。横幅は50センチはあるだろうか。

「ひっ、ひぃぃ!?」
目の前で魔法を目の当たりにしたバイパー子爵は後ろに倒れギャイギャイと騒ぎ立てる。夫のブレンドンと同じ格好でジタバタする様は瓜二つだとマルガネットは呆れかえる。
この国では魔法が使えるのは極一部の人間である、命が尽きない限り魔法は発動し続け、感情の起伏に大きく影響するのだ。

「どうしてそのような発想になるのか、私には理解に苦しみましてよ?」
今度は指を弾きそこに氷の矢を十本作って見せた、尖った切っ先を卿に向けてニッコリと微笑む。だが、目は笑っていない。
「ひえ……そ、そそそそうですよね……も、もももう仕分けございませんでじたぁぁぁ!」
後日改めて不祥事について詫びると言い放つと脱兎の如く帰っていった。

「あら、夫人の事を忘れていっちゃったわ」
そう言った瞬間、軽い地震が起きた。かなり緩めだった為に直ぐに忘れたが後に良くない事に繋がる。





一方で、役所に婚姻届けを出そうとしていた莫迦二人が顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。
「どうしてこう役所の職員は頭がガッチガチなの!もっと柔軟に対応できないのかしら」
「あぁ全くその通りだよ!マニュアルの通りにしか出来ないのさ、呆れたものだよ」
『ブレンドン様は離縁が成立していないので結婚出来ません』と突き返された婚姻届けをクシャクシャにしてブレンドンは震える。
順番を間違えている事にどうして気付かないのか……。

「決めたぞ、今日中に離婚してやろうじゃないか!待ってろ女狐め、三行半を叩きつけてくれる!」








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