完結 私は何を見せられているのでしょう？

４

頭に血が上っていた愚かなブレンドンとテルミナの二人はシュナイザ伯爵邸に馬車で乗り付けた。「早くしろ」と急かす二人に馭者は泣く泣く馬に鞭を揮ったらしい。
何度か歩行者を撥ねそうになりながらだったので”生きた心地がしなかった”と後に語った。それでも泥水を掛けれたらしい婦人からクレームが来たのだが、それはまた別の話である。


「何処だ！女狐め！さっさと離縁状にサインをしろ！聞こえているだろう？」
「そーよ、離婚して私のダーリンを解放しなさいよね！」
ギャーギャーと煩い騒音の元凶を能面顔で対応したのは家令であった、彼はバンディと言って物腰が柔らかだが世間知らずの馬鹿や不届き者には情け容赦がない。

「何事ですかな、今日はシュナイザ伯爵様はご不在でございますれば。さて、先触れも無く邸宅に押しかけなさるとは……どういう常識を学ばれたのか躾をされたのか甚だ疑問でございます」
口調は優しいが端々に棘がある言い方である、我が主を軽く見られたバンディは酷く立腹なのだ。忠臣な家令故に許されないと怒り心頭である。

「そ、そんな細かい事を言うなよ！こちらは緊急事態なんだ、なぁマルガネットはいるんだろう？呼び出してくれよ」
「そうよ、さっさと離婚して欲しいのよ！愛されてもないのに彼に執着するのは滑稽だわ！」
嫌味が通じないのか、やいのやいのと自分達の都合ばかり言ってくるブレンドン達を、話の通じない宇宙人と話しているようだと家令は頭を押さえ左右に振った。そして、パチリと指鳴らせば何処からともなく護衛兵ら10人ほどやってきて二人を包囲する。

「お客様方はどうやら自分達の足で帰るのが困難のようだ、お前達お連れして差し上げろ」
「はい、直ちに」
リーダーらしき一人がそう言うとザザッと左右に割れて左と右に別れブレンドンとテルミナを引き剥がした。ここに来てからというものガッチリとホールドしながら咆えていた二人は無理矢理に裂かれて「ふぎゃぁ」とマヌケな声を上げた。

「やめろぉ！俺達は一心同体なのだぞ、こんな無体は許されない！」
「イヤァ！ダーリン、ダーリン！愛してるぅ！」
咽び泣きながら抵抗する二人だったが所詮は多勢に無勢である、ポイポイと馬車に乗せられて「バイパー子爵家へ連れて帰れ」と馭者に命令した。


＊＊＊

「何をやらかしているのだブレンドン！シュナイザ伯爵令嬢から猛抗議が来ているぞ！あぁ我が家は御終いだ！そこの阿婆擦れと結婚式を挙げようとしただけでなくシュナイザ令嬢を脅迫したらしいじゃないか！」
何とか事を荒げらげないようにと迷惑料を搔き集めていたバイパー卿は語気荒くバカ息子を叱責した。林業で長い事業務提携してきたバイパー家はシュナイザ家の下請けをしていた。
卿は新たに事業を大きくしようと画策していた、今回の婚姻はそういう事情が絡んでいた。

「父上、息子より金ですか？なんて非情なんだ！俺達の愛を引き裂こうなどと」
「そうですぅ義父様ぁ、私達は愛し合っているんですよ？」
またもヒシッと抱き合う二人に卿は怒りの筋を膨らませる。

「あぁ！お前達の件で我が家の目論見は霧散したさ！何が愛だ、たった一月前に盛っただけだろうが！誘惑してきたバルドラッド家にも今回の件は抗議するからな！容赦しないから覚悟しておけ！」