完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)

文字の大きさ
5 / 16

しおりを挟む
「では、そのように。宜しいですかな?」
領地から戻ったシュナイザ伯爵はバイパー子爵令息の心無い行動に立腹しながら言葉を紡いだ。卿の顔には深い皺が寄り、今にも憤怒で爆発しそうだ。業務提携という絡みでの縁だったがブレンドンの裏切りでそれは霧散した。

婚姻して日も浅いことから白い結婚として処理される運びとなったのだ。もちろん、大打撃を受ける側のバイパー子爵は最後まで粘ったがそれも虚しくお粗末に終わる。そして、力なく「はい」と項垂れて返事をした。その表情からは今は疲弊していて言葉もないのだと分かる。

結局、バイパー家が全面的に悪いと決定された、当然と言えば当然である。慰謝料は莫大ではないものの、何れ貴族達に知れ渡り信頼は一気に失墜することだろう。信用を失うことは貴族家にとって大きな損失で致命的である。
帰りの馬車内は通夜状態で「我が家は終わりだ」と死んだ目でバイパー卿はそう呟く。




「やっと終わったのね……いいえ、あっという間と言うべきかしら?二週間とかからなかったもの」
トプトプと紅茶が注がれる様をボンヤリ眺めてそう言ったのはマルガネットだ。メイドはふわりと微笑んで「お疲れさまでした」と労う。
「ふふ、ありがとう。これで暫くは周囲は静かになりそうだわ、まぁの方はそうもいかないでしょうけど」
ブレンドン達のことを揶揄して皮肉気に笑う、彼のしでかした事を考えると、それくらいしても良いだろうと肩を竦める。そして、僅かな期間だった結婚生活をうっかり思い浮かべて「嫌だ早く忘れたい」と頭を振る。

「ところでバイパー家の後釜はどちらになるのかしら、まぁあまり興味はないのだけど」
「そうですねぇ、そればかりは何とも、シュナイザ卿の御心次第でしょう」
「ええ、そうだわね」
家の事業に少々携わっているものの、マルガネットが任されていたのは事務処理だった。営業でもないのだから仕方ない。根幹に関わることはブレンドンが担うはずだったのだ。

「どこまでも煩わしいことだわ、でも任せなくて正解だわね」
やはりバカはバカで、彼に叩き込んだとしてもボロは出ていただろとマルガネットは看破していた。
「その辺りが父様は緩いのだわ、あの男は太鼓持ちをやらせたら天下一品だもの。まんまと乗せられて……はぁ」
元々、この結婚には乗り気ではなかった彼女は破談になって清々すると思った。


***

「いろいろその……済まなかった、男を見る目が無さ過ぎた」
「本当ですよ、お父様。しっかりなさってくださいね」
気落ちするシュナイザ卿に情け容赦ない文句を言う娘に閉口してしまう、そして、縁談は暫く無理そうだと大きく溜息を吐く。

それでも万が一にもとこう切り出した。
「その、何だ……クレイグ・ベレット侯爵が名乗りを上げているのだが」
「は?」
怒気を孕んだ娘の「は?」に「ひぃ!ごめんよ、二度と言わない」と尻尾を丸めて退散する情けない卿の姿があった。

そんな時だ、東側の山脈付近が騒がしいと王家から連絡が来たのである。
所謂スタンピードの発生の予兆があるとのことだった。子細はまだ通達されないが、近年続いていた地震が関係しており、新たなダンジョンの出現が確認されていた。恐らく新ダンジョンの顕現の影響であると思われた。

「あ~気を許す暇もないないわね、どうなっちゃうのかしら」
そう呟くマルガネットだが不敵に笑っていることをメイドに指摘される。
「お嬢様、悪い癖が出ておいでですよ?」

「あら、そう?ふふふ、腕が鳴るわ!」
ピキピキと氷の魔法を無意識に出して、部屋半分を氷漬けにしてしまい、シュナイザ夫人に雷を落とされたのは言うまでもない。







しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

その支払い、どこから出ていると思ってまして?

ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。 でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!? 国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、 王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。 「愛で国は救えませんわ。 救えるのは――責任と実務能力です。」 金の力で国を支える公爵令嬢の、 爽快ザマァ逆転ストーリー! ⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中

【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~

Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。 さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。 挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。 深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。 彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。

【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪

山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」 「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」 「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」 「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」 「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」 そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。 私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。 さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

処理中です...