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「では、そのように。宜しいですかな?」
領地から戻ったシュナイザ伯爵はバイパー子爵令息の心無い行動に立腹しながら言葉を紡いだ。卿の顔には深い皺が寄り、今にも憤怒で爆発しそうだ。業務提携という絡みでの縁だったがブレンドンの裏切りでそれは霧散した。
婚姻して日も浅いことから白い結婚として処理される運びとなったのだ。もちろん、大打撃を受ける側のバイパー子爵は最後まで粘ったがそれも虚しくお粗末に終わる。そして、力なく「はい」と項垂れて返事をした。その表情からは今は疲弊していて言葉もないのだと分かる。
結局、バイパー家が全面的に悪いと決定された、当然と言えば当然である。慰謝料は莫大ではないものの、何れ貴族達に知れ渡り信頼は一気に失墜することだろう。信用を失うことは貴族家にとって大きな損失で致命的である。
帰りの馬車内は通夜状態で「我が家は終わりだ」と死んだ目でバイパー卿はそう呟く。
「やっと終わったのね……いいえ、あっという間と言うべきかしら?二週間とかからなかったもの」
トプトプと紅茶が注がれる様をボンヤリ眺めてそう言ったのはマルガネットだ。メイドはふわりと微笑んで「お疲れさまでした」と労う。
「ふふ、ありがとう。これで暫くは周囲は静かになりそうだわ、まぁアッチの方はそうもいかないでしょうけど」
ブレンドン達のことを揶揄して皮肉気に笑う、彼のしでかした事を考えると、それくらいしても良いだろうと肩を竦める。そして、僅かな期間だった結婚生活をうっかり思い浮かべて「嫌だ早く忘れたい」と頭を振る。
「ところでバイパー家の後釜はどちらになるのかしら、まぁあまり興味はないのだけど」
「そうですねぇ、そればかりは何とも、シュナイザ卿の御心次第でしょう」
「ええ、そうだわね」
家の事業に少々携わっているものの、マルガネットが任されていたのは事務処理だった。営業でもないのだから仕方ない。根幹に関わることはブレンドンが担うはずだったのだ。
「どこまでも煩わしいことだわ、でも任せなくて正解だわね」
やはりバカはバカで、彼に叩き込んだとしてもボロは出ていただろとマルガネットは看破していた。
「その辺りが父様は緩いのだわ、あの男は太鼓持ちをやらせたら天下一品だもの。まんまと乗せられて……はぁ」
元々、この結婚には乗り気ではなかった彼女は破談になって清々すると思った。
***
「いろいろその……済まなかった、男を見る目が無さ過ぎた」
「本当ですよ、お父様。しっかりなさってくださいね」
気落ちするシュナイザ卿に情け容赦ない文句を言う娘に閉口してしまう、そして、縁談は暫く無理そうだと大きく溜息を吐く。
それでも万が一にもとこう切り出した。
「その、何だ……クレイグ・ベレット侯爵が名乗りを上げているのだが」
「は?」
怒気を孕んだ娘の「は?」に「ひぃ!ごめんよ、二度と言わない」と尻尾を丸めて退散する情けない卿の姿があった。
そんな時だ、東側の山脈付近が騒がしいと王家から連絡が来たのである。
所謂スタンピードの発生の予兆があるとのことだった。子細はまだ通達されないが、近年続いていた地震が関係しており、新たなダンジョンの出現が確認されていた。恐らく新ダンジョンの顕現の影響であると思われた。
「あ~気を許す暇もないないわね、どうなっちゃうのかしら」
そう呟くマルガネットだが不敵に笑っていることをメイドに指摘される。
「お嬢様、悪い癖が出ておいでですよ?」
「あら、そう?ふふふ、腕が鳴るわ!」
ピキピキと氷の魔法を無意識に出して、部屋半分を氷漬けにしてしまい、シュナイザ夫人に雷を落とされたのは言うまでもない。
領地から戻ったシュナイザ伯爵はバイパー子爵令息の心無い行動に立腹しながら言葉を紡いだ。卿の顔には深い皺が寄り、今にも憤怒で爆発しそうだ。業務提携という絡みでの縁だったがブレンドンの裏切りでそれは霧散した。
婚姻して日も浅いことから白い結婚として処理される運びとなったのだ。もちろん、大打撃を受ける側のバイパー子爵は最後まで粘ったがそれも虚しくお粗末に終わる。そして、力なく「はい」と項垂れて返事をした。その表情からは今は疲弊していて言葉もないのだと分かる。
結局、バイパー家が全面的に悪いと決定された、当然と言えば当然である。慰謝料は莫大ではないものの、何れ貴族達に知れ渡り信頼は一気に失墜することだろう。信用を失うことは貴族家にとって大きな損失で致命的である。
帰りの馬車内は通夜状態で「我が家は終わりだ」と死んだ目でバイパー卿はそう呟く。
「やっと終わったのね……いいえ、あっという間と言うべきかしら?二週間とかからなかったもの」
トプトプと紅茶が注がれる様をボンヤリ眺めてそう言ったのはマルガネットだ。メイドはふわりと微笑んで「お疲れさまでした」と労う。
「ふふ、ありがとう。これで暫くは周囲は静かになりそうだわ、まぁアッチの方はそうもいかないでしょうけど」
ブレンドン達のことを揶揄して皮肉気に笑う、彼のしでかした事を考えると、それくらいしても良いだろうと肩を竦める。そして、僅かな期間だった結婚生活をうっかり思い浮かべて「嫌だ早く忘れたい」と頭を振る。
「ところでバイパー家の後釜はどちらになるのかしら、まぁあまり興味はないのだけど」
「そうですねぇ、そればかりは何とも、シュナイザ卿の御心次第でしょう」
「ええ、そうだわね」
家の事業に少々携わっているものの、マルガネットが任されていたのは事務処理だった。営業でもないのだから仕方ない。根幹に関わることはブレンドンが担うはずだったのだ。
「どこまでも煩わしいことだわ、でも任せなくて正解だわね」
やはりバカはバカで、彼に叩き込んだとしてもボロは出ていただろとマルガネットは看破していた。
「その辺りが父様は緩いのだわ、あの男は太鼓持ちをやらせたら天下一品だもの。まんまと乗せられて……はぁ」
元々、この結婚には乗り気ではなかった彼女は破談になって清々すると思った。
***
「いろいろその……済まなかった、男を見る目が無さ過ぎた」
「本当ですよ、お父様。しっかりなさってくださいね」
気落ちするシュナイザ卿に情け容赦ない文句を言う娘に閉口してしまう、そして、縁談は暫く無理そうだと大きく溜息を吐く。
それでも万が一にもとこう切り出した。
「その、何だ……クレイグ・ベレット侯爵が名乗りを上げているのだが」
「は?」
怒気を孕んだ娘の「は?」に「ひぃ!ごめんよ、二度と言わない」と尻尾を丸めて退散する情けない卿の姿があった。
そんな時だ、東側の山脈付近が騒がしいと王家から連絡が来たのである。
所謂スタンピードの発生の予兆があるとのことだった。子細はまだ通達されないが、近年続いていた地震が関係しており、新たなダンジョンの出現が確認されていた。恐らく新ダンジョンの顕現の影響であると思われた。
「あ~気を許す暇もないないわね、どうなっちゃうのかしら」
そう呟くマルガネットだが不敵に笑っていることをメイドに指摘される。
「お嬢様、悪い癖が出ておいでですよ?」
「あら、そう?ふふふ、腕が鳴るわ!」
ピキピキと氷の魔法を無意識に出して、部屋半分を氷漬けにしてしまい、シュナイザ夫人に雷を落とされたのは言うまでもない。
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