10 / 16
10
しおりを挟む
未公開株を進められ、言われるがまま買ってしまったブレンドン・バイパーは投資した先を確認していた。彼は彼女テルミナ・バルドラッドのことを信用しきっていたが、やはり確かめたほうが良かろうと父親に進められたからだ。
「やれやれ、父上は慎重過ぎるのだ、そんなだから資産が増えないんだよ」
鼻で笑いながら株の入ったカバンをパンパンと叩く、そして車窓を流れていく景色をみながらニヤけている。そうしているうちに証券会社に馬車がついた。
ブレンドンは偉そうにふんぞり返り我が物顔で玄関ホールを通る、社員らしきが会釈してきて「いらっしゃいませ」と声を掛けて来た。
「今日はこれの確認にきただけだ、もし換金するとしたいくらだろうか」
「はい、確認いたしますのでお待ちください」
従業員が腰を折りながら証券を持って行く、分厚いそれを見送る彼は思わず「ふふ」と笑ってしまう。工面できるギリギリまで買ったのだ、期待に胸が膨らむというもの。
ところが、待てど暮らせど従業員が戻ってこない、不審に思ったブレンドンはイライラしだした。終いには椅子から立ち上がり従業員が消えていった方向を何度も見る、前のめりに見たものだからコケそうになった。はずみで近くにいた婦人にぶつかってしまう。
「ううん!ゲホン!」
あ、いや失礼した」
不安になったのもあってブレンドンは縮こまって椅子に戻る、特に悪い事をしていないのにバツが悪い。そのうち周囲から視線が刺さっている気がした。衝立があるにも拘わらず何故か衆目を集めている気がしてならないのだ。
「お待たせしました」
やっときた従業員に「遅いぞ」と声を荒げて文句を言う、しかし、待たせた割に悪びれる様子がない。益々と苛立ちを感じたブレンドンである。
「……お返しします、はぁ、全くどういうつもりなんです?こちらは遊びではないのですよ」
「な!客に対してなんだその態度は!」
苦言を呈してきた従業員にムカついた彼は勢いよく立ち上がり怒鳴り散らす。顔を赤らめて机を叩く当然と言えば当然である。だがしかし……
「はっ?こんな子供騙しの証券もどきを持ってきておいて失礼する!」
今度は従業員の方が怒って窓口奥へと引っ込んでしまう。ポカンとするブレンドンは自分の置かれた状況に追い付いていない。
「ど……どういうことだ……子供騙し?え……証券もどき?……え、え……」
サァっと顔が蒼くなって足がガクガクしだした、そして今しがた突き返された証券を慌てて解く、株券は確かにそこにあって間違いなく”ミカルディオ商会百株券”と記されていた、枚数は150枚で発行者はミガルディオ・ノーマンとある。
「あ、なんだちゃんと株券じゃないか……焦らせやがって、え……ちょっと待て、この印は!?」
そこに押してある判はミガルディオ・ノーマン社の物ではなく”エカルディオ・ソートン社”と記されていた。いくら読み返してもそう書かれている。
「うわぁぁああ!やられた!そんなぁ!チクショー!テルミナ!テルミナはどこだーーー!」
「やれやれ、父上は慎重過ぎるのだ、そんなだから資産が増えないんだよ」
鼻で笑いながら株の入ったカバンをパンパンと叩く、そして車窓を流れていく景色をみながらニヤけている。そうしているうちに証券会社に馬車がついた。
ブレンドンは偉そうにふんぞり返り我が物顔で玄関ホールを通る、社員らしきが会釈してきて「いらっしゃいませ」と声を掛けて来た。
「今日はこれの確認にきただけだ、もし換金するとしたいくらだろうか」
「はい、確認いたしますのでお待ちください」
従業員が腰を折りながら証券を持って行く、分厚いそれを見送る彼は思わず「ふふ」と笑ってしまう。工面できるギリギリまで買ったのだ、期待に胸が膨らむというもの。
ところが、待てど暮らせど従業員が戻ってこない、不審に思ったブレンドンはイライラしだした。終いには椅子から立ち上がり従業員が消えていった方向を何度も見る、前のめりに見たものだからコケそうになった。はずみで近くにいた婦人にぶつかってしまう。
「ううん!ゲホン!」
あ、いや失礼した」
不安になったのもあってブレンドンは縮こまって椅子に戻る、特に悪い事をしていないのにバツが悪い。そのうち周囲から視線が刺さっている気がした。衝立があるにも拘わらず何故か衆目を集めている気がしてならないのだ。
「お待たせしました」
やっときた従業員に「遅いぞ」と声を荒げて文句を言う、しかし、待たせた割に悪びれる様子がない。益々と苛立ちを感じたブレンドンである。
「……お返しします、はぁ、全くどういうつもりなんです?こちらは遊びではないのですよ」
「な!客に対してなんだその態度は!」
苦言を呈してきた従業員にムカついた彼は勢いよく立ち上がり怒鳴り散らす。顔を赤らめて机を叩く当然と言えば当然である。だがしかし……
「はっ?こんな子供騙しの証券もどきを持ってきておいて失礼する!」
今度は従業員の方が怒って窓口奥へと引っ込んでしまう。ポカンとするブレンドンは自分の置かれた状況に追い付いていない。
「ど……どういうことだ……子供騙し?え……証券もどき?……え、え……」
サァっと顔が蒼くなって足がガクガクしだした、そして今しがた突き返された証券を慌てて解く、株券は確かにそこにあって間違いなく”ミカルディオ商会百株券”と記されていた、枚数は150枚で発行者はミガルディオ・ノーマンとある。
「あ、なんだちゃんと株券じゃないか……焦らせやがって、え……ちょっと待て、この印は!?」
そこに押してある判はミガルディオ・ノーマン社の物ではなく”エカルディオ・ソートン社”と記されていた。いくら読み返してもそう書かれている。
「うわぁぁああ!やられた!そんなぁ!チクショー!テルミナ!テルミナはどこだーーー!」
111
あなたにおすすめの小説
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから
越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。
新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。
一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。
公爵令嬢ローズは悪役か?
瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」
公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。
隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。
「うちの影、優秀でしてよ?」
転ばぬ先の杖……ならぬ影。
婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。
独自設定を含みます。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる