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騙された愚かなブレンドン・バイパーが嘆いている間にも魔物の暴走は止まらない。マルガネット・シュナイザは連日のように討伐に駆り出されていた。心配した母マリアベルが少しは休むようにと声を掛けるほどだ。
しかし、正義感の強いマルガネットは母の言葉を撥ね退ける。
「いま戦わずどうします、未曾有の大災害の真っ只中なのです。近隣の村では未だ避難民が逃げきれていないと聞きます」
そんな風に大真面目に答える彼女を止めるわけにもいかず、母親は苦渋の決断をする。
「わかりました……ですが備えが十分とはいえません。これを持っていきなさい、あらゆる攻撃を無効化する腕輪です。ただし回数が限られます良く考えて使うように」
母はフッと笑い王都は任せなさいと言った。
「はい、お母様。王都の事は心配しておりません、だって氷の悪鬼と呼ばれる怖い魔女がいるんですもの」
「あら、誰の事かしらねぇ。ふふ、さぁお行きなさい」
母は娘をそっと抱きしめてから名残惜しそうに離れて手を振った。それを見たマルガネットはちょっと驚いてから微笑んで手を振る。
「……母様の涙を初めて見たわ」
***
「きひひひ、ここまで来れば大丈夫よね」
カラカラと馬車を優雅に転がすとある貴族がいた。その馬車の銘と家門はバルドラッド伯爵のものである。大きく「B」と言う文字を筆記体にして優美に飾られている。「きひひ」という下品な笑い方をするのはテルミナであった。
「ふはははっ、面白いほどに引っ掛かってくれたものだな」
「ひひ、そうよ!あのバカはちょっと媚びるとコロリと騙されてくれた、今までで一番容易かったわ」
またも爪を磨きつつ「きひひ」と笑うその顔は愛らしさの欠片も無かった。目は吊り上がり口元は歪んで左端に大きく弧を描いていた。
彼らが走っているそこは東側の山脈地帯である、もうすぐ国境という所だ。時刻は夜半過ぎ、当然ながら関所を通らず非合法で国外へ逃げおおせるつもりだ。
「それにしても警備が緩々だわねぇ、時々獣が咆えているようだけれど大丈夫かな?」
気味の悪い遠吠えを聞いて少しばかり怯えるテルミナだ、いかに豪胆な彼女でも怖いようだ。けれども騙し取った金を丁寧に数えるバルドラッド卿は「はん、野犬の類だろう」と気に掛けない。
その傍らでグースカ寝ていたバルドラッド夫人が、馬車が大きく揺れた弾みで起きてしまう。
「ちょっと、もう少し緩やかに移動出来ないの?せっかく豪華なディナーを食べている夢が台無しだわ」
「お母様、ここは荒野ですわ。少々の不便は我慢しませんと」
肩を竦めてそう言うテルミナ自身もオンオンと騒がしい野犬の声に苛立っていた。
「もう!ほんと煩いわね!どうにか出来ないの?」
「そういえばスタンピーが何とか……男爵が騒いでたような、なんだったかな」
「は?スタンなんですって?」
その時、馭者の悲鳴が聞こえてきてガタリと大きく馬車が傾いた、何かに乗り上げたのかそれきり前に進まない。護衛たちが後方にいたはずだが彼らの声など聞こえて来なかった。
「どうなっているのよ!もう、どいつもこいつも使えないんだから」
バンと激し目にドアを開けたテルミナの目の前に現れたのは牙を剥き出しにして威嚇する狼型の魔物とオークとゴブリンの群れであった。
「あ?何よこれ……」
普段は共闘などしない魔物であったがいまはスタンビードの最中である、下卑た笑みを浮かべるゴブリン達が舌なめずりしてテルミナを品定めをする。
しかし、正義感の強いマルガネットは母の言葉を撥ね退ける。
「いま戦わずどうします、未曾有の大災害の真っ只中なのです。近隣の村では未だ避難民が逃げきれていないと聞きます」
そんな風に大真面目に答える彼女を止めるわけにもいかず、母親は苦渋の決断をする。
「わかりました……ですが備えが十分とはいえません。これを持っていきなさい、あらゆる攻撃を無効化する腕輪です。ただし回数が限られます良く考えて使うように」
母はフッと笑い王都は任せなさいと言った。
「はい、お母様。王都の事は心配しておりません、だって氷の悪鬼と呼ばれる怖い魔女がいるんですもの」
「あら、誰の事かしらねぇ。ふふ、さぁお行きなさい」
母は娘をそっと抱きしめてから名残惜しそうに離れて手を振った。それを見たマルガネットはちょっと驚いてから微笑んで手を振る。
「……母様の涙を初めて見たわ」
***
「きひひひ、ここまで来れば大丈夫よね」
カラカラと馬車を優雅に転がすとある貴族がいた。その馬車の銘と家門はバルドラッド伯爵のものである。大きく「B」と言う文字を筆記体にして優美に飾られている。「きひひ」という下品な笑い方をするのはテルミナであった。
「ふはははっ、面白いほどに引っ掛かってくれたものだな」
「ひひ、そうよ!あのバカはちょっと媚びるとコロリと騙されてくれた、今までで一番容易かったわ」
またも爪を磨きつつ「きひひ」と笑うその顔は愛らしさの欠片も無かった。目は吊り上がり口元は歪んで左端に大きく弧を描いていた。
彼らが走っているそこは東側の山脈地帯である、もうすぐ国境という所だ。時刻は夜半過ぎ、当然ながら関所を通らず非合法で国外へ逃げおおせるつもりだ。
「それにしても警備が緩々だわねぇ、時々獣が咆えているようだけれど大丈夫かな?」
気味の悪い遠吠えを聞いて少しばかり怯えるテルミナだ、いかに豪胆な彼女でも怖いようだ。けれども騙し取った金を丁寧に数えるバルドラッド卿は「はん、野犬の類だろう」と気に掛けない。
その傍らでグースカ寝ていたバルドラッド夫人が、馬車が大きく揺れた弾みで起きてしまう。
「ちょっと、もう少し緩やかに移動出来ないの?せっかく豪華なディナーを食べている夢が台無しだわ」
「お母様、ここは荒野ですわ。少々の不便は我慢しませんと」
肩を竦めてそう言うテルミナ自身もオンオンと騒がしい野犬の声に苛立っていた。
「もう!ほんと煩いわね!どうにか出来ないの?」
「そういえばスタンピーが何とか……男爵が騒いでたような、なんだったかな」
「は?スタンなんですって?」
その時、馭者の悲鳴が聞こえてきてガタリと大きく馬車が傾いた、何かに乗り上げたのかそれきり前に進まない。護衛たちが後方にいたはずだが彼らの声など聞こえて来なかった。
「どうなっているのよ!もう、どいつもこいつも使えないんだから」
バンと激し目にドアを開けたテルミナの目の前に現れたのは牙を剥き出しにして威嚇する狼型の魔物とオークとゴブリンの群れであった。
「あ?何よこれ……」
普段は共闘などしない魔物であったがいまはスタンビードの最中である、下卑た笑みを浮かべるゴブリン達が舌なめずりしてテルミナを品定めをする。
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