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彼女の愛した人
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少し遡った話である――。
子爵家の長女として生まれたロクサーヌだが、貴族という身分を嫌っていた。余裕のない癖に両親は見栄を張って夜会に参加しては財が減ったと嘆く。その矛盾だらけの振る舞いを止めようとしない親の背を見て、いつか家を出たいと願うようになった。
やがて己の才能に気が付いた彼女は腕輪に魔石を付けて、これを店頭に置いて欲しいと父に直訴した。
当初は疑っていた父だが、お試し価格で冒険者に買って貰うとその性能が素晴らしいものだと評価を受けた。
「ハハハッ!良いぞロクサーヌ、じゃんじゃん作れ!これで我が家は安泰だ」
単純な親は大儲けできると皮算用するがそう単純なものではなかろうと娘は呆れた。自分の能力は控えめに使うことにした彼女は儲け過ぎない程度に抑えたのだ。
魔法の付与はその気になればいくらでも付けられるが、誰にも教えない。親たちが調子に乗って散財しないようにセーブしたのである。生活に困窮しない程度の儲けを調整したロクサーヌは慎ましくいることを貫く。
「魔力枯渇に陥る」と嘯けば親は無理強いしようとはしなかった。だがそれは、娘の身を案じたわけではない。細く長く使って飼殺すほうが得策と考えただけだ。
賢く聡いロクサーヌは毒親の本性を見抜いていた。
一方で、愛らしい容姿が自慢の妹マリエッタは金持ちの恋人探しに躍起になっていた。様々な夜会や茶会に顔を出しては男を落とす手管に磨きをかけた。そして、侯爵家のシルヴァンを落としたのだ。
「お姉様にはない美貌で私は幸せを掴んだわ!どう羨ましい?」
「……そう、貴女らしい生き方ね。幸せにね」
「ふぅん……素直に祝われるとモヤッとするけど、まぁいいわ。ねぇ、来月の夜会用のドレスが欲しいの」
「わかった、仕立て金は出すけど予算内で買うのよ」
少し憎らしいが妹を可愛いと甘やかすロクサーヌは小遣いを工面して渡していた。真面にお礼など言われたことはないが、妹が幸せになるための投資と思うことにしていた。我儘なマリエッタだが彼女が笑うとロクサーヌは何故か温かい気持ちになるのだった。
そんな地味目の彼女だったが、密かに恋をしていた。
店の常連であった騎士見習いの青年と心を通じ合わせていたのだ。その人物の名はクレール。伯爵家の次男の彼はとても真面目で優しい人だ。
「継ぐ爵位はないけど、生活に困窮することはない自信があるよ、ボクはキミを大切にする。生涯愛すると誓うよ」
「ありがとうクレール、時が来たら私を攫いに来てね」
「ああ、もちろんだよ!」
互いに結婚資金を貯めて、遠い地に家を買いたいと計画を立てていた。
平凡な夢だったが彼らには十分に幸せな未来である。
だがそんな細やかな夢がアスラーネ侯爵家の横暴で壊されてしまった。
姉の夢も、妹の野望も――。
子爵家の長女として生まれたロクサーヌだが、貴族という身分を嫌っていた。余裕のない癖に両親は見栄を張って夜会に参加しては財が減ったと嘆く。その矛盾だらけの振る舞いを止めようとしない親の背を見て、いつか家を出たいと願うようになった。
やがて己の才能に気が付いた彼女は腕輪に魔石を付けて、これを店頭に置いて欲しいと父に直訴した。
当初は疑っていた父だが、お試し価格で冒険者に買って貰うとその性能が素晴らしいものだと評価を受けた。
「ハハハッ!良いぞロクサーヌ、じゃんじゃん作れ!これで我が家は安泰だ」
単純な親は大儲けできると皮算用するがそう単純なものではなかろうと娘は呆れた。自分の能力は控えめに使うことにした彼女は儲け過ぎない程度に抑えたのだ。
魔法の付与はその気になればいくらでも付けられるが、誰にも教えない。親たちが調子に乗って散財しないようにセーブしたのである。生活に困窮しない程度の儲けを調整したロクサーヌは慎ましくいることを貫く。
「魔力枯渇に陥る」と嘯けば親は無理強いしようとはしなかった。だがそれは、娘の身を案じたわけではない。細く長く使って飼殺すほうが得策と考えただけだ。
賢く聡いロクサーヌは毒親の本性を見抜いていた。
一方で、愛らしい容姿が自慢の妹マリエッタは金持ちの恋人探しに躍起になっていた。様々な夜会や茶会に顔を出しては男を落とす手管に磨きをかけた。そして、侯爵家のシルヴァンを落としたのだ。
「お姉様にはない美貌で私は幸せを掴んだわ!どう羨ましい?」
「……そう、貴女らしい生き方ね。幸せにね」
「ふぅん……素直に祝われるとモヤッとするけど、まぁいいわ。ねぇ、来月の夜会用のドレスが欲しいの」
「わかった、仕立て金は出すけど予算内で買うのよ」
少し憎らしいが妹を可愛いと甘やかすロクサーヌは小遣いを工面して渡していた。真面にお礼など言われたことはないが、妹が幸せになるための投資と思うことにしていた。我儘なマリエッタだが彼女が笑うとロクサーヌは何故か温かい気持ちになるのだった。
そんな地味目の彼女だったが、密かに恋をしていた。
店の常連であった騎士見習いの青年と心を通じ合わせていたのだ。その人物の名はクレール。伯爵家の次男の彼はとても真面目で優しい人だ。
「継ぐ爵位はないけど、生活に困窮することはない自信があるよ、ボクはキミを大切にする。生涯愛すると誓うよ」
「ありがとうクレール、時が来たら私を攫いに来てね」
「ああ、もちろんだよ!」
互いに結婚資金を貯めて、遠い地に家を買いたいと計画を立てていた。
平凡な夢だったが彼らには十分に幸せな未来である。
だがそんな細やかな夢がアスラーネ侯爵家の横暴で壊されてしまった。
姉の夢も、妹の野望も――。
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