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止らない災い
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国を脅かす大災害が起きようとしているのを知らないシルヴァンとマリエッタは、心地よい気怠さを抱え微睡んでいた。夜半過ぎ、王国騎士団は南方から迫りくる脅威に備えて王都門の前に集結していた。臨時の傭兵と民間兵らを合わせてその数は三万を超える、それでも厄介な魔物相手とあって心許無いと思う者も少なくない。
「負傷者や疲弊した者は迷わず撤退しろ!スタンピードは長期戦だ、作戦通りに交代制で戦うぞ!誰一人欠けることなくこの窮地を乗り越えるのだ!そして国を護る英雄となれ!我らはその力と価値を備えている猛者である」
総指揮をする騎士団の大将が声高に口上を述べて兵達を鼓舞する。それに応える数万の兵が一斉に剣を掲げて咆えた。彼らを見渡した大将は士気上げは十分だと鷹揚に頷いた。
待機してから約三十分ほど、地鳴りのような音が遠方から轟いてきた。
群成す魔物たちがもうもうと土煙を高く上げて近づいてくる、行く手を阻む砦壁を幾重にも設置して、足元を掬う穴もかなりの数を掘ったはずだが、そんなものは無意味とばかりに蹴散らして突進してくるのだ。
「瘴気で力を蓄えた魔物どもめ、理性をすっかり失った相手ほど怖い者はないな」
「はい、ですが我らは怯みません!」
「国を民を護るのです、それこそが騎士の誉で矜持にございます」
大将の声に応える部下の目には迷いはなかった。そして数分後、彼らは狂い猛った獣たちと対峙することになる。
***
その頃、侯爵領に居城を構えているアスラーネ一家は呑気にベッドへ潜っていた。
西側の領地とあって安心しきっていたのだ。
だが、たった一人異変に気が付いたロクサーヌは、侍従達を叩き起こして「屋上へ避難しなさい!」と呼び掛けて回っていた。警鐘を鳴らしながら移動を急かしているというのに、惰眠に落ちているシルヴァン達は目を覚まさない。
「奥様!本邸のほうは如何いたしましょう?」侍女長が困惑して声を掛けて来た。
「大丈夫よ、フットマンを報せに走らせたわ、今頃は避難していますよ」
それを聞いた侍女は安堵の顔をして己も上へと走って行く。
全員が退避したのを確認したロクサーヌは屋敷の損傷を最低限に抑える為にと走る、なんと屋敷を形どる石や煉瓦に魔力を込めて魔石化させたのだ。建造物そのものが巨大な防御魔石となったのである。
「これだけ補強すれば小さめの離れは大丈夫ね、本邸はもともと頑強だから……たぶん大丈夫」
彼女も最後に屋上へと駆け上っていき、魔物群れの動きを観察する。
遠くて森林に遮られて見えにくいが、大群が巻き上げる土煙で着々と近寄っているのはわかった。
「なんてこと……想像以上の数がこちらへ移動しているわ」
新聞の報せでは南方からとあったが、やはり魔物の動きを全て把握していたわけではなかったようだ。
そして、ロクサーヌは避難した者達の点呼を取った。アフォカップルの姿だけない事に気が付いて愕然とした。
「誰も起こしにいってないの?」
「いいえ、ドアを叩いて騒ぎましたがまったく反応はなく、てっきり避難されたとばかり」
「……はぁ、仕方ないわね」
ロクサーヌは御守り代わりにと各人へ魔石を渡して身を護るよう言い伝えた。そして、彼らの寝室へと向かう。
「奥様、危険ですよ」
「平気よ。私には最高防御に仕上げた魔石があるからね、心配ないわ」
彼女は不安がる侍従たちを後に残して、一人で階段を下りて行った。
二階の居室フロアに着くと屋敷で一番広いそこへ乱入する、鍵はかかっていなかった。
「起きなさい二人とも、魔物の群れが間もなくこちらに来るわ。屋上へ逃げて頂戴」
強めの声で怒鳴ると寝具の上で動く影があった、どうやらシルヴァン一人のようだ。そして、面倒そうに起き上がると言い返す。
「なんだって?避難とは……南方だけなんだろ。報せにあったはずだ」
「報せにあったのはあくまで予測よ。理性のない魔物がどこへ向かうなどわからないわ」
確実に領地に向かって走ってくる様子が確認できたと言うとやっと飛び起きて文句を垂れた。
「なんで、もっと早く報せないんだ!」
「侍女が起こそうとしたわ、でも反応せずにグースカ寝腐ってたらしいわよ」
「チッ」
身支度し始めた彼に妹はどうしたと訊ねれば、腹が空いたと言ってキッチンへ下りたと言うではないか。
その行動に呆れた彼女は、連れ戻すからここで待機しておいてと指示した。
「待て!お前が不在中に魔物が来たらどうする!誰が俺を護るんだよ!」
「はぁ?彼方は女の私に盾になれというの?どうしようもないチキンね」
「う、煩い!俺は繊細なんだ!優男に力を求めるなよ!」
「……」
問答する時間が惜しいと思った彼女は、ドアに防御魔石を設置するから安心だといって出て行った。
「負傷者や疲弊した者は迷わず撤退しろ!スタンピードは長期戦だ、作戦通りに交代制で戦うぞ!誰一人欠けることなくこの窮地を乗り越えるのだ!そして国を護る英雄となれ!我らはその力と価値を備えている猛者である」
総指揮をする騎士団の大将が声高に口上を述べて兵達を鼓舞する。それに応える数万の兵が一斉に剣を掲げて咆えた。彼らを見渡した大将は士気上げは十分だと鷹揚に頷いた。
待機してから約三十分ほど、地鳴りのような音が遠方から轟いてきた。
群成す魔物たちがもうもうと土煙を高く上げて近づいてくる、行く手を阻む砦壁を幾重にも設置して、足元を掬う穴もかなりの数を掘ったはずだが、そんなものは無意味とばかりに蹴散らして突進してくるのだ。
「瘴気で力を蓄えた魔物どもめ、理性をすっかり失った相手ほど怖い者はないな」
「はい、ですが我らは怯みません!」
「国を民を護るのです、それこそが騎士の誉で矜持にございます」
大将の声に応える部下の目には迷いはなかった。そして数分後、彼らは狂い猛った獣たちと対峙することになる。
***
その頃、侯爵領に居城を構えているアスラーネ一家は呑気にベッドへ潜っていた。
西側の領地とあって安心しきっていたのだ。
だが、たった一人異変に気が付いたロクサーヌは、侍従達を叩き起こして「屋上へ避難しなさい!」と呼び掛けて回っていた。警鐘を鳴らしながら移動を急かしているというのに、惰眠に落ちているシルヴァン達は目を覚まさない。
「奥様!本邸のほうは如何いたしましょう?」侍女長が困惑して声を掛けて来た。
「大丈夫よ、フットマンを報せに走らせたわ、今頃は避難していますよ」
それを聞いた侍女は安堵の顔をして己も上へと走って行く。
全員が退避したのを確認したロクサーヌは屋敷の損傷を最低限に抑える為にと走る、なんと屋敷を形どる石や煉瓦に魔力を込めて魔石化させたのだ。建造物そのものが巨大な防御魔石となったのである。
「これだけ補強すれば小さめの離れは大丈夫ね、本邸はもともと頑強だから……たぶん大丈夫」
彼女も最後に屋上へと駆け上っていき、魔物群れの動きを観察する。
遠くて森林に遮られて見えにくいが、大群が巻き上げる土煙で着々と近寄っているのはわかった。
「なんてこと……想像以上の数がこちらへ移動しているわ」
新聞の報せでは南方からとあったが、やはり魔物の動きを全て把握していたわけではなかったようだ。
そして、ロクサーヌは避難した者達の点呼を取った。アフォカップルの姿だけない事に気が付いて愕然とした。
「誰も起こしにいってないの?」
「いいえ、ドアを叩いて騒ぎましたがまったく反応はなく、てっきり避難されたとばかり」
「……はぁ、仕方ないわね」
ロクサーヌは御守り代わりにと各人へ魔石を渡して身を護るよう言い伝えた。そして、彼らの寝室へと向かう。
「奥様、危険ですよ」
「平気よ。私には最高防御に仕上げた魔石があるからね、心配ないわ」
彼女は不安がる侍従たちを後に残して、一人で階段を下りて行った。
二階の居室フロアに着くと屋敷で一番広いそこへ乱入する、鍵はかかっていなかった。
「起きなさい二人とも、魔物の群れが間もなくこちらに来るわ。屋上へ逃げて頂戴」
強めの声で怒鳴ると寝具の上で動く影があった、どうやらシルヴァン一人のようだ。そして、面倒そうに起き上がると言い返す。
「なんだって?避難とは……南方だけなんだろ。報せにあったはずだ」
「報せにあったのはあくまで予測よ。理性のない魔物がどこへ向かうなどわからないわ」
確実に領地に向かって走ってくる様子が確認できたと言うとやっと飛び起きて文句を垂れた。
「なんで、もっと早く報せないんだ!」
「侍女が起こそうとしたわ、でも反応せずにグースカ寝腐ってたらしいわよ」
「チッ」
身支度し始めた彼に妹はどうしたと訊ねれば、腹が空いたと言ってキッチンへ下りたと言うではないか。
その行動に呆れた彼女は、連れ戻すからここで待機しておいてと指示した。
「待て!お前が不在中に魔物が来たらどうする!誰が俺を護るんだよ!」
「はぁ?彼方は女の私に盾になれというの?どうしようもないチキンね」
「う、煩い!俺は繊細なんだ!優男に力を求めるなよ!」
「……」
問答する時間が惜しいと思った彼女は、ドアに防御魔石を設置するから安心だといって出て行った。
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