完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)

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狐狸たちの夜会

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社交界においてエレンディアの評価は非常に悪い、そんな彼女は記憶が抜けているせいか冷ややかな視線を浴びても肩を竦めたに止める。
「私はここでも嫌われ者みたいね」

年明けに開催された建国祭の夜会に予定通りに参加したのは良いが早くも後悔し始めていた。だが、なんの情報も得られないまま退場するのも惜しいと思い耐えるのだ。

「今日はありがとうガルデロイ様、助かりましたわ」
「いいえ、エスコート程度なんてことないですよ、兄上がアレですから……逆に申し訳が無い」
一応夫であるはずのジャルドはさも当たり前のような体で愛人のアマーダを連れて参加していた。彼は人目も憚らず睦まじく寄り添って談笑していた。

「ガルデロイ様は誘いたい女性はいなかったのですか?私と同い年で19歳になられたのでしょう」
「いや、名ばかりの侯爵家など誰も興味を持ちやしません。しかも次男坊……誘ったところで断われるだけですから」
彼は眉をハチの字に下げて自虐する、未だ傾いたままという家事情は社交の場には筒抜けらしいと聞いてエレンディアは困った事だと小さく嘆息する。

「帳簿上ではそれなりに援助してますのに……可笑しい事だわ」
「ええ、そうなんです。不甲斐ないと思ってます、度々領地を視察に周っているのでが状況は芳しくなかった」
「あら、なんてことかしら……昨年秋の収穫は良かったのでしょう?」
「はい、例年並みに回復はしたのですが収益のほとんどが借金返済で消えてしまいました」
それを聞いたエレンディアは釈然としない様子で顔を顰めた。

「これは詳しく調査すべき案件だわ」彼女は誰にも聞こえない小さな声で独り言ちた。


「あらやだ、あの傲慢女は貴方の弟を誑かしているわ」
「なんて女だ……どこまでも卑しい」
エレンディアたちと少し離れた所でイチャついていた夫と愛人は彼女を視界に捕らえるや糾弾し始めた。
己たちの不貞のことは棚上げにして正妻を軽蔑する様は厚顔無恥そのものである。
「でもぉ面と向かって言っては駄目よ?いまはその時ではないでしょう」
「……そうだな、まだ我が家は立ち行かない」
悔しそうに呟くジャルドは領地運営は軌道に乗ったが、まだまだ借金が残っていて癪でも妻の財力に頼らずにおれない事に苛立つ。この日の二人の装いとてエレンディアの財布から出ている。

兄の視線を感じ取ったガルデロイは感謝の気持ちすら微塵も持とうとしない態度に不満が募る。
「いや……私も同罪か、つい最近まで貴女を蔑ろにしていたのだから」
「え、何か言った?」
夫たちのことなど毛ほども気にしていないらしい義姉はキョトリとした顔でシャンパンを楽しんでいる。左手はちゃっかりオードブルを摘まんでいた。
「はい、一曲御手合せ願えないかと思いまして」
「あ、あら、私ったら気が付かなくて恥ずかしいわ!」

エレンディアは慌ててそれらを嚥下すると姿勢を整え「よろしく」と言って手を差し伸べた。その華奢な手を恭しく受け取った義弟は「光栄です」と答えて微笑む。
美丈夫なジャルドに負けず劣らずの美男であるガルデロイは優しく微笑むと銀の花が咲いたような美しさだ。
周囲にいたご婦人方は彼の美貌に魅了されて目を奪われていたが「これで爵位と金があれば完璧なのに」とヒソヒソやっていた。

「外野が煩いわねぇ」
「はは、気にすることはないですよ。せっかくだから楽しまないと損です」
「ふふふ、そうね!建国記念おめでとう」
「はい!おめでとうございます」
彼らは微笑みながら誰よりも軽やかにステップを踏んでホールの中央で花咲く、黒髪の妖艶美女エレンディアと銀髪を煌かせる美青年は衆目を集めるのは必然だった。

踊り終わると何処からともなく拍手喝采が湧いた、それにエレンディアは瞠目して「お目汚しでした」と感謝の意を述べるように腰を落とした。その優雅な所作に誰もが見惚れる。
「やはり貴女は美しいですね、会場中が義姉殿に夢中ですよ」
「え、やだやめてよ!ガルデロイこそ注視されてるわ、令嬢達が頬を染て順番待ちをしているじゃないの」
義弟の誉め言葉に抵抗するかのように応戦するエレンディアは、ほんのり頬を朱に染めていた。


するとそこへ割って入る者がやってきて声をかける。
「やあ、エレン見事なダンスだったよ。久しぶりだねぇ」
「え、これはヘンゼル殿下!建国記念おめでたき…」
「やだなぁ堅い挨拶は開会最初の時に交わしたじゃないか、どうかボクと踊ってくれないかな?」
「ぎょ、御意」

彼女は義弟に後でと目配せすると王子の誘いに乗って再びダンスホールへ向かう。
「疲れてないかな、ごめんよ強引だったね」
「いいえ、まだ序の口ですもの」
濃い金髪をした王子はフフッと笑って「いつもの君らしくないなぁ」と呟く。

「いつもの私とやらを教えてくださいませ」
「は、それは冗談のつもりかい?自分以外は塵芥のようにあしらっていた癖に王族の私さえ見下していただろう、今更に何を教えを請うのかい」
訝しい顔をしたヘンゼル王子はダンスリードをしながら徐々に踊りの輪から遠ざかる。そして、曲が終わると同時に彼女から距離を置いた。

「傲慢で強か、誰より我儘な社交界の毒花、それがキミじゃないか。気に入った男達を誑かし何人もの婦女子を泣かせたくせに」
「そうですか……記憶を失う前の私は本当に最低な人間でしたのね」




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