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義弟ガルデロイ
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愛人アマーダを溺愛しているジャルドは、何れは妻と離縁して侯爵家から追い出したいと考えている。最早それが悲願となっていた。兄を慕い金に物を言わせて婚姻を強行した兄嫁エレンディアの事を弟ガルデロイも同調していた。
「我が侯爵家のためとはいえ、兄上が苦しむ結果になったことは悲しいことだ」
現状ではエレンディアの融資が停止してしまえば忽ち領地運営はままならなくなる。すべては領民を護るための苦渋の決断であったと聞かされているガルデロイは、拭えない怒りの矛先は義姉に向けられる。
救ったはずのエレンディアからすれば理不尽な逆恨みをされたことになる、そんな理由から義姉と義弟の関係も最悪なのだった。
「社交界のおいても彼女の評判は芳しくない、そんな女に兄上が見初められたばかりに……なんという不幸か」
エレンディアの生家コレティーノ伯爵家は鉱山事業の賜物から国内外に強い人脈と伝手を持っている。政治面でもかなりの影響力を有しているのだ。
「肉親はいないとはいえ……あの女狐は油断ならない。クソッ!どうして正しい者の所には幸運はこないのだろう」
彼女は伯爵家当主の座を捨ててまでメルゾニア侯爵家へ嫁いだわけだが、閉山したわけでも事業を譲渡したわけではない。彼女のもうひとつの顔はやり手の事業主なのだ。
晴れない気持ちを抱えたままガルデロイは侯爵領の視察へ出向く、綿花栽培と芋類を育てるのが主流だが近頃はハーブなども育てていた。痩せた土地でも育ちやすい作物で安定はしていたはずだった。
だが、数年前に起きた予想外に長引いた雨季のせいで綿花が大打撃を受けた。これにより侯爵家は傾いてしまったのだ。
「育ちやすいが……綿は水に影響されやすいからな」
移動する馬車の中でガルデロイは唇を噛み悔しそうだ、徐々に回復していたが開いた帳簿には相変わらず良い数字はない。
***
領主代行として土地を周るガルデロイは領民に声をかけて「調子はどうか」と労う。
とある老夫婦に冬場をどう凌いでいるか質問したところ、貯えがほとんどなく雑穀ばかりで暮らしていると聞かされた。個人用に鶏を飼育していたのでなんとか食いつないでいると老人は弱弱しく笑う。
「まぁ、苦しいですが死にやしませんので」
「そんな……支援は届いていないのか?」
かなりの額を義姉から融資を受けながら農村に行き渡っていないことに疑問を持った。悲愴感が漂う集落ばかりで視察に周る足も重くなっていく。
帰宅したガルデロイは方々の援助について家令に問いただしたが、恙なく定期的に支援物資は届けていると回答された。動揺も見せないその態度を見た彼は信じる他はないだろうと引っ込む。
帳簿を見ても、やはりそこに並ぶ数字は支援は行っているのだと裏付ける。
「ううむ……痩せこけた老夫婦、活気のない集落……来週末に再び視察へ行ってみようか」
気が沈んでしまった彼は気分転換に庭園へ出てみた、去年は荒れ放題だった庭が見事に復活していて驚く。
その片隅で思いもよらぬ人物を目にした。
「義姉殿……」
草花を愛で世話をするエレンディアはとても優雅に笑い真冬にも花を咲かす品種があるのだと侍女に語っていた。
「笑っている?家族も侍従も彼女に心を開かずいつも孤独なはずだが」
己自身も義姉とは目を合わせたこともない、言葉を交わすなどもってのほかと思っていたからだ。ウッカリすれば自分も毒婦エレンディアに誑かされると警戒して距離を置いている。
少なくとも世話役の侍女とは打ち解けた様子を知って、解せない気持ちでいっぱいになった。
しばし眺めていたらあちらの方が気が付いて会釈してきた。バツの悪くなった彼は踵を返そうとしたが、まるで少女のように泥に塗れ小さな花壇の世話をする彼女から目が離せくなる。
「美しい花でしょう?スノーリリィといいますの」
「あ、ああ……初めて見たよ」
つい返事してしまったガルデロイは湧き上がった興味に抵抗するのを諦めて彼女らの近くへ歩を進めた。
休憩するということで四阿に招かれた彼は動揺しつつも相伴に預かる事になった。
「冷風が熱い茶を美味しくしますのよ、特に濃い目のミルクティーは最高です」
「な、なるほど、面白い趣向だ。こちらの菓子は義姉殿が?」
「ええ、ジンジャークッキーです。冬のおやつにぴったりよ」
ぎこちない会話ではあったが、朗らかなエレンディアの温かい接し方に絆されたガルデロイは忌み嫌い緊張していたことをバカらしいなと苦笑するのだった。
「ガルデロイ様、こちらもどうぞ!奥様はシフォンも得意なんです!」
「あ、ああ。そうか、いただくよ」
侍女カルメはすっかりエレンディアと親しくなったのか、楽しそうに談笑して彼を再度驚かせた。
その日がきっかけで、茶を共にする機会が増えた。他の家の者に冷たくあしらわれても文句も言わない彼女の慎ましさに心惹かれるようになった。
「たまには家族と食事を摂ってはどうです?」
「お気遣いありがとうございます、でも遠慮しますわ。団欒を乱したくないの」
「そんな……貴女だって家族なのに」
義弟が見せる親切心に感謝しつつも、エレンディアは深入りしては面倒だと苦笑するのだった。
「我が侯爵家のためとはいえ、兄上が苦しむ結果になったことは悲しいことだ」
現状ではエレンディアの融資が停止してしまえば忽ち領地運営はままならなくなる。すべては領民を護るための苦渋の決断であったと聞かされているガルデロイは、拭えない怒りの矛先は義姉に向けられる。
救ったはずのエレンディアからすれば理不尽な逆恨みをされたことになる、そんな理由から義姉と義弟の関係も最悪なのだった。
「社交界のおいても彼女の評判は芳しくない、そんな女に兄上が見初められたばかりに……なんという不幸か」
エレンディアの生家コレティーノ伯爵家は鉱山事業の賜物から国内外に強い人脈と伝手を持っている。政治面でもかなりの影響力を有しているのだ。
「肉親はいないとはいえ……あの女狐は油断ならない。クソッ!どうして正しい者の所には幸運はこないのだろう」
彼女は伯爵家当主の座を捨ててまでメルゾニア侯爵家へ嫁いだわけだが、閉山したわけでも事業を譲渡したわけではない。彼女のもうひとつの顔はやり手の事業主なのだ。
晴れない気持ちを抱えたままガルデロイは侯爵領の視察へ出向く、綿花栽培と芋類を育てるのが主流だが近頃はハーブなども育てていた。痩せた土地でも育ちやすい作物で安定はしていたはずだった。
だが、数年前に起きた予想外に長引いた雨季のせいで綿花が大打撃を受けた。これにより侯爵家は傾いてしまったのだ。
「育ちやすいが……綿は水に影響されやすいからな」
移動する馬車の中でガルデロイは唇を噛み悔しそうだ、徐々に回復していたが開いた帳簿には相変わらず良い数字はない。
***
領主代行として土地を周るガルデロイは領民に声をかけて「調子はどうか」と労う。
とある老夫婦に冬場をどう凌いでいるか質問したところ、貯えがほとんどなく雑穀ばかりで暮らしていると聞かされた。個人用に鶏を飼育していたのでなんとか食いつないでいると老人は弱弱しく笑う。
「まぁ、苦しいですが死にやしませんので」
「そんな……支援は届いていないのか?」
かなりの額を義姉から融資を受けながら農村に行き渡っていないことに疑問を持った。悲愴感が漂う集落ばかりで視察に周る足も重くなっていく。
帰宅したガルデロイは方々の援助について家令に問いただしたが、恙なく定期的に支援物資は届けていると回答された。動揺も見せないその態度を見た彼は信じる他はないだろうと引っ込む。
帳簿を見ても、やはりそこに並ぶ数字は支援は行っているのだと裏付ける。
「ううむ……痩せこけた老夫婦、活気のない集落……来週末に再び視察へ行ってみようか」
気が沈んでしまった彼は気分転換に庭園へ出てみた、去年は荒れ放題だった庭が見事に復活していて驚く。
その片隅で思いもよらぬ人物を目にした。
「義姉殿……」
草花を愛で世話をするエレンディアはとても優雅に笑い真冬にも花を咲かす品種があるのだと侍女に語っていた。
「笑っている?家族も侍従も彼女に心を開かずいつも孤独なはずだが」
己自身も義姉とは目を合わせたこともない、言葉を交わすなどもってのほかと思っていたからだ。ウッカリすれば自分も毒婦エレンディアに誑かされると警戒して距離を置いている。
少なくとも世話役の侍女とは打ち解けた様子を知って、解せない気持ちでいっぱいになった。
しばし眺めていたらあちらの方が気が付いて会釈してきた。バツの悪くなった彼は踵を返そうとしたが、まるで少女のように泥に塗れ小さな花壇の世話をする彼女から目が離せくなる。
「美しい花でしょう?スノーリリィといいますの」
「あ、ああ……初めて見たよ」
つい返事してしまったガルデロイは湧き上がった興味に抵抗するのを諦めて彼女らの近くへ歩を進めた。
休憩するということで四阿に招かれた彼は動揺しつつも相伴に預かる事になった。
「冷風が熱い茶を美味しくしますのよ、特に濃い目のミルクティーは最高です」
「な、なるほど、面白い趣向だ。こちらの菓子は義姉殿が?」
「ええ、ジンジャークッキーです。冬のおやつにぴったりよ」
ぎこちない会話ではあったが、朗らかなエレンディアの温かい接し方に絆されたガルデロイは忌み嫌い緊張していたことをバカらしいなと苦笑するのだった。
「ガルデロイ様、こちらもどうぞ!奥様はシフォンも得意なんです!」
「あ、ああ。そうか、いただくよ」
侍女カルメはすっかりエレンディアと親しくなったのか、楽しそうに談笑して彼を再度驚かせた。
その日がきっかけで、茶を共にする機会が増えた。他の家の者に冷たくあしらわれても文句も言わない彼女の慎ましさに心惹かれるようになった。
「たまには家族と食事を摂ってはどうです?」
「お気遣いありがとうございます、でも遠慮しますわ。団欒を乱したくないの」
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