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しおりを挟む「……う、う~ん、喉が渇いた……リリお願い」
「お嬢様!あぁ良かった!申し訳ございませんでした!私がトイレに行っていたばかりに」
「え、リリ?何を言っているの?それよりもここは何処?」
目覚めたばかりのセレンジェールは混乱しているのか、まるで事態が把握できていない様子だ。どこかポカンとしている。あれから彼女はすぐに病院へ連れられたのだが、意識が戻ったのは十日ほど経った頃だった。
「意識の混濁……無理もないさ、あんなことがあったのだから、レイモン医者を呼べ」
「あぁ、承知した。お嬢ちゃん、いや~良かったよぉ」
レイモンはナースコールをして「意識が戻った、医者をよろしく」と魔道具を通して言った。その様を恐々と見ているセレンジェールだ、色々と追い付かない様子だ。
「あ、あの……この方たちは、リリ……あらぁ?ずいぶん大人ぽくなったのねぇ」
「え?何をお嬢様はいってらしゃるのです?私はずっと前から大人ですよ~しっかりしてくださいな」
「ええ~あれぇ?」
今度は侍女のほうがポカンとしている、どうにも意思の疎通がうまく行っていない。
***
「記憶障害だと!?なんという事だ……では彼女は記憶が欠落しているのかい?」
「一概にいえませんが、恐らく。話を聞いた限りでは幼少期まで記憶後退しています。幼児退行を起こしているといいますか」
「なん……だと?」
セレンジェールはなんと王子と婚約する以前の記憶しか持っていなかった。精神的苦痛から逃げ出したいばかりにそのような症状に見舞われたのではないかと、医者の見解である。
「では、私達はこれで失礼するよ。その、時々は見舞いにきても良いだろうか?」
「え、はい!もちろんですとも」侍女は大慌てで応える。
こうして一旦、ディオン・ギガジェント皇子は王城へと戻って行った。
「はぁ、問題が山積みだな、政権交代に政務の見直し、それに次代の王を選ばねば、いっそ王政を失くしてしまおうか。そしてバカ王子の処遇もあるぞ」
「そうだねぇ、いっそ共和制にしたほうが風通しは良さそうだ。貴族らからは不満の声があがりそうだが」
「ふん、腐った政治にはつきものだな」
今の彼は正直なところセレンジェールのことで一杯だった、だがそうも言ってられず、歯噛みする。
「あぁ、セレン……キミのことが気がかりだよ」
「お嬢様、御両親がおいでになりましたよ。わかりますか?」
「えーと、うん。御父様、お母様……でも変ねぇ?御父様はずいぶんと……おじい様みたいだわ」
「おお、なんという事!記憶が戻らないなど」
「そうねぇ、私は老けてないと言う事ね!良し!」
「おい、そういう事じゃないだろう?」
呑気そうにそのような事を言うアルドワン夫人は「あらぁ、ごめんなさい?」とコロコロと笑う。どうにもこの夫人はズレているようだ。
「なにはともあれ体が無事なのは良かったわ、身体を冷やすと良くないっていうでしょ?」
「そ、そうですわね、確かにお嬢様は御子が身籠れるのですから、良かった……のかな?」
「お前達……呑気過ぎやしないか?」
アルドワン卿は病院の堅い椅子に腰深くかけて「頭が痛いよ」と言った。
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