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しおりを挟む「遠い目をするのはお止めください」
「なんだぁ?」
皇帝リオンは政務を終わらせて茶を飲んでいた、そして、他に用事はないものかと仕事を探している。そんな中にやってきた宰相の台詞である。
「仕事がないか探していた、再来週の冬季予算でも練ろうか」
「早すぎます、冬季予算など半年後で十分ですよ。前倒し過ぎです」
「そうは言ってもなぁ……なぁ仕事はないか?溝攫いでもしようか?肩を揉もうか?」
「お戯れを……」
仕事人間であるリオンは何かしてないと落ち着かない様子である。それは皇后から逃げたい一心でだ。ことある事に『王太子は是非、ディオンズに!』と詰め寄られるのだ。
「そんな事よりやるべき事があるでしょう、次代の皇帝を」
「あーあー!聞こえなーい!余には何も聞こえんぞ!絶対にだーー!」
「まったくもう!貴方という人は!」
逃げ回ってどうにかなる問題ではないのは自身が良く分かっている。それでも「もう少しだけ」と先延ばしをしていた。
「はぁ、わかっているんだ。ディオンズが一番皇帝に相応しい、芯がしっかりして未来を見据える目を持っている、だがあの子は望んでおらん。そしてクロードだが穏やかで平等に見る目を持っている、しかし、人が良いだけではカシュト伯爵に傀儡とされてしまうだろうよ」
「なるほど、悩むのはわかります。だが、先送りして良い問題ではありませんよ」
「……ぐぅ」
***
それから2週間後、ディオンズはセレンジェールとアルドワン公爵夫妻を伴いギガジェント帝国に戻っていた。何とか婚姻の許可を貰うためである。彼は故郷を棄て旧アネックス国改めゲルネイル共和国に落ち着くつもりなのだ。ゲルネイルは故・祖父の名である。
「良く戻りましたディオンズ、さぁさぁ皇太子として学ぶことが山積みですよ。その前にゆるりと休みなさい。長旅でしたでしょうから」
能面皇后はしれっとそれだけ言うと皇妃の椅子から立ち上がり去ろうとする。あからさまにアルドワン公爵一家を無視するのだ。
「お待ちください皇后よ、まだ挨拶が終わっておりませんよ」
ディオンズは落ち着いた声を出したが、どこか棘のある言い方で彼女を引き止める。皇后は身じろぎもせず「それが」と言った。
「皇后、かの国から遥々訪れたアルドワン公爵一家を無下になさるおつもりか。それはあまりに無礼ではないですか?皇帝すらこの場に留まり話を聞く体制ですよ」
「……なるほど、良かろう。礼を欠いたことは謝ろうぞ、アルドワン卿よ失礼した」
能面皇后は目を眇めてジッと彼の出方を見る。
「恐れながら挨拶をさせていただきます、クリフト・アルドワンと申します。それから妻のメイリン、娘のセレンジェールでございます。以後お見知りおきを」
武人らしく丁寧でキビキビとした挨拶だった、能面皇后はちょっとばかり彼に興味を持った。
「よろしゅうな、して其方がセレンジェールであるか。何故に私の息子と結婚したい?皇帝の妻になる覚悟はあるのかえ?」
「っ!皇后!私は皇帝などになりませんよ!」
ディオンズは語気荒くそう言い放った、だか皇后は表情を変えず「ふふ、戯言を申すな」とあしらうのだった。
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