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しおりを挟む皇子一行を乗せた馬車が帝都から延びた街道を急ぐ、まだ昼過ぎだったがこの日は小雨が降っていて若干薄暗い。やがて大雨に見舞われて馬車は速度を落とす。視界が良くないのでやむを得ない。
「殿下、このままでは街に着くのは無理かもしれません。途中の民家に宿泊を依頼せねば」
「うん、そうか。軒先だけでも貸して貰おうか」
大雨は相変わらず車窓を叩きつけてきて人々を不安にさせる、セレンジェールは口数が少なくなって俯いていた。外套を目深に被り雨が去るのを待っている。
ディオンズもそれに倣うかのようにマントをバサリと閉じた、雨が降っているので冷え冷えとした外気が底から這いあがってくる。誰もかれもが身を縮こませて暖を取るの必死なのだ。
やがて馬車は宵闇の中で止まった、陽は落ちたばかりだったが悪天候のせいで辺りは真っ暗である。
「寒いな……セレンは大丈夫か」
「……」
疲れているのか返事はせず、コクリとだけ頷く。やはり外套を体に巻き付けて震えていた。
しばらくして従者らが近くの民家から戻ると「軒下を借りれました」と報告に来た、皇族であることがバレると拙いので黒地の布を被せて誤魔化す。
「はぁ、やっと窮屈な席から解放される」
うーんと伸びをするディオンズだがすぐに寝台を乗せた馬車に戻らなければならない。簡易な竈を作り夕食を摂るとそのまま寝台へ入った。
「あぁ肩が凝ってしまうな、尻もガビガビだぞ」
何度か寝返りをうつと程よい眠気がやってきた、移動中も転寝をしたがやはり身体は休まらないようだ。目を閉じると何処からか喧騒が届いてきた。
彼は剣に手をやり耳を澄ませると民家の主と馭者が言い争いをしているのが聞こえた。
「やれやれ、どうしたことだろうな」
重い足取りで馬車から這い出れば初老の男が「良い身形なんだ、さぞかし身分も良いのだろう」と下衆いことを言っている。二頭立ての馬車を五台も連れだっていれば仕方のないことだ。
金子の要求かと思い従者の一人に「払ってやれ」と目配せする。暗がりの中、ランプを灯した者が頷く。そして、懐から筒状のものを取り出すと発砲した。
「こやつは賊です、剣を後ろ手に持っておりました。聞き覚えのある訛りがありました。西部のナイゴーン出身かと」
「ふむ、余所者が地元民を装い私達が来るのを待っていたか」
発砲音を聞きつけたらしい仲間がワラワラと民家から飛び出てきた。その数、30人ほど。手には剣と銃を持っている。
それから数人が寝台馬車に飛び掛かり「女を探せ」と叫んでいた。セレンジェールがいるであろう箇所だ。
「ひっひっ!悪く思うなよ!お前ら一人につき大金貨10枚だ!」
「げへへへぇ」
下卑た笑い声を上げて剣を揮う男たちは「ガチン」という硬質な音にビクリとする。てっきり肉を断ったと思っていた男は「なんで」とマヌケな声を出した。
「ざんねーん、ここにはお嬢様はいないんだなぁ、まぁ宜しく」
「んな!?なんだと」
そこには長い鬘を被ったレイモンが寝台の上で不敵に笑い片膝をついていた。見事に剣を往なした彼は「くつくつ」と笑う。
「夜は長いんだゆっくり相手してね、うふ~ん♪」
「ひぃぃ!気持ち悪い!」
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