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しおりを挟む暗殺が失敗に終わったと聞いたカシュト伯爵は苛立ちを隠せず歯噛みしていた、雇った他国の剣士と魔術師の惨敗ぶりを聞き「いくら掛けたと思っている!」とテーブルを叩く。
「役立たず共が!魔術師だけで大金貨30枚だぞ、とんだ大損だ!」
やはり隣国に頼んだのは良くなかったのだと臍を噛む、だが彼は知らない。雇った連中が捕縛されて自白に追いやられているとは露程も知らずにいた。
皇族に手を出した輩はその場で粛清だ、すべて切り伏せられていると思っている。
やはり彼らの雇い人は直接に伯爵ではなかった、辿りに辿って漸く尻尾を掴んだのだ。
「闇ギルドは絡んでいるとは思っていたが、二重三重で遠回ししているとはね。まさか闇ギルドに2回も経由しているとは……そりゃ人件費が跳ね上がるだろうよ」
レイモンは報告書の半分をやっと読み上げて「ふぅ」と溜息をはいた、まだまだ細かく続く情況や結果にウンザリする。
「ははっ!そりゃ良い、カマキリ伯爵の財を削れたのなら僥倖だぞ。おいそれと悪さを企てられんだろう」
ディオンズは報告書を閉じると「う~ん」と背伸びをした。
「逃走資金くらい残しているだろうさ、まぁそれは裏に手を回して動かせないようにしたよ。預金が下ろせないのならどうにもならんだろう」
レイモンはやり遂げた喜びに「くつくつ」と笑う、皇子一行が襲われるのは皇帝の影たちにの報告により把握していた。大雨に見舞われたは計算外だったが、捕縛劇は暗闇に乗じて行われ目撃者はいなかったのが幸いだ。
***
カマキリ伯爵の捕縛劇はあっさりしたものだった。バレるとは思っていなかった伯爵は昼間から酒を飲んでおり目が坐った酩酊状態だった。彼は「どうとでもするが良いわ」と管を巻いたが、いざ投獄されると酔いが醒めたのか「ブリジットはどこだ!」と騒いだ。
彼の愛妻の名を叫ぶさまは必死で何を置いても妻の無事を危惧した。
「卿よ、いまはそれどころじゃないだろう。自分の立場分かってるのか?」
見廻りに来た看守がそう言って宥めようとするのだが、カマキリ伯爵は半狂乱になって「あれは私のものだ!誰にもやらん!」と慟哭したのだ。
彼は誰より愛する妻がどこかに消え失せるのではとそれだけを恐れていた。深酒を重ねているのもその不安からくるものだったのだ。
「まぁ、あの方はそのような醜態を晒しましたの?なんてことかしら」
カシュト伯爵夫人ブリジッタは逮捕こそされなかったが、参考人として伯爵邸にて軟禁されていた。彼女はいままでと変わらず生活できるのでなんの憂いもないと言った。
「私、外を出るのが嫌いなの。願ったりなことでしてよ、茶会や夜会のお誘いは迷惑でしかないの。でも夫は私を連れ出すのが大好きで”自慢の妻です”なんて言うのよぉ、私が外を歩くのは花の咲き誇る庭園だけのなのにぃ」
代表で伯爵邸にやってきたレイモンは夢見る乙女の夫人を前にしてウンザリした。
どうにも話が進まず夫人の愚痴ばかり聞かされた、いかに夫の閨への誘いを断るか苦慮していると話し出した時にはさすがに「止めてくれ」と声を荒げる。
「あらぁ、何か気に触りまして?」
「……流石に夫妻の夜の事情は聞きたくないんでね」
「ふぅん、そうなのぉ?」
それから夫人は何も関与していないことが分かると調書を纏めて帰路に就くことにした。……のだが、夫人はレイモンの事を気に入ったのか離さない。
「私ぃ、夫ではダメなのぉ。あの人は干乾びたミミズのようなのよ、若く逞しい殿方好きぃ」
「勘弁してくれ……」
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