完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)

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彼女には秘密があった、予知と治癒能力である。だがそれは愛する者に対してだけ発揮するのだ。ニーナ・ガーナイン伯爵令嬢は10歳の頃から婚約者がいたが、彼はとても身体が弱くいつも臥せっていた。

「あぁ、お可哀そうに……私が護って差し上げます!」
「ゲホゲホ……キミは優しいのだねニーナ、ありがとう。キミが側にいると少し楽になるよ」
「うふふ、そうだと良いのだけど」

彼女は自身の能力のことは内緒にしていた、それはガーナイン家特有のもので長く秘匿してきたことだ。

『いいですかニーナ、能力については公言してはいけません』
『どうしてお母様?きっと役に立てると思うのだけど』
『良いことだけれども人間というのは浅ましいのよ、良からぬ者が貴女を利用したり誘拐されるかも知れないわ。怖いでしょ?』
『嫌だ!誘拐だなんて恐ろしいわ!』


幼少期から教え込まれたニーナは婚約者にさえ秘密にした。が来るまで極秘扱いにしたのだ。
『貴女がほんとうに愛される日まで秘密になさい、貴女が幸福になれるように』
『はい、お母様。ぜったいに秘密です!』


そうして日々暮らすうちに婚約者アルミロ・ルファーノ伯爵令息は外へ出歩けるほどに回復したのだ。これには誰もが奇跡だと騒ぎ立てる。

「いいや、彼女のお陰だよ。ねぇニーナ?キミって本当に不思議な気持ちにさせるよ、あんなに苦しかったのに今では走れそうなくらい元気さ、なんなら空だって飛べそうさ」
「あら、そうお?だったら嬉しいわ、でも空は飛んじゃダメ」
「ふふ、それくらい元気だという証拠だよ」



治癒を秘密裡に施しそして、予知を使い彼を護った。ニーナはそれが当たり前だと思ったのだ。

「ねぇ、アルミロ。貴方は池に近づかないほうが良いわ」
「え?どうして?今日は気分が良いから釣に行きたいんだ」
「ダメよ、明日なら良いわ」

アルミロは渋々と従った、すると近所の子息が池で溺れたと聞かされた。偶然にしても怖いと思った。
「なんてことだ、柵が腐っていたってさ!」
「そうなのね、でも大事には至らなかったらしいわ」
「でも肝が冷えたよ、弱い僕が落ちていたらきっと死んでいたね」

これがきっかけで二人の距離は縮み、仄かな恋心が芽生えた。


それからもニーナの助言を受ける度にアルミロは災難を回避してきた。もうすでに偶然とは言い難いとアルミロは思うのだ。
「キミはなんていうか、幸運の女神のようだよ」
「あら、ありがとう。お役に立ててうれしいわ」
彼女はくったくない笑みで応える、そんな彼女をアルミロは頼もしいと思っていた。それからというもの何をするにも彼女に助言を貰うようになる。

ニーナは純粋に「嬉しい」と思っていた。
のだが……その能力が若干疎ましいと思うようになった。

「ねぇ、どうして来週の遠出を断るの?せっかく叔父様が招待してくれたというのに!」
「そう言われても……狩猟会でしょ?事故があるかもしれないわ」
「そんなことない!ボクは絶対参加するからね!」
「アルミロ!お願いよ行かないで!」

理由を言えない歯痒さが秘密を吐露しそうになる、だが当日に高熱を出したアルミロは怪我をせずに済んだのである。
「良かった、あのまま行ったらアルミロは頭を打ちぬかれて……」

一方で熱を出したアルミロは「ニーナの呪いだ」と決めつけて朧げな意識の中、彼女を嫌い始めていた。
「そうさ、ボクが健康になったのだって鍛錬してきたお陰なんだ!ニーナなんかのせいじゃない!」











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